上 下
1,017 / 1,810

夕食を食べながらの報告会

しおりを挟む


「ふむ、まだはっきりした事はわからんか……」
「さすがに初日ですからね」

 ユノがメイドさんに呼ばれて来て、フィリーナやシュットラウルさんも食堂へ集まり、皆で夕食をいただく。
 先に、農地のハウス化に関する事や魔物との遭遇などをモニカさん達に伝え、シュットラウルさんにも……というかアマリーラさんやリネルトさんが、主に街中での情報収集で調査に協力してくれる事を話した。
 今は、モニカさん達からセンテ南に行った時の話を聞いたところだ。
 初日でまだ大まかに調べたくらいなので、魔物と遭遇する事はあっても、まだはっきりした事はわからないようだった。

 ちなみにエルサは、お皿一杯に山のように積まれたキューを、料理をおかずにしながらモリモリと食べていた……さっき食堂に来る前に言っていた通りだな。
 ユノは、調査と遊びでお腹が空いていたんだろう、こちらもエルサに負けず劣らず、ガツガツと食べている。
 俺達やシュットラウルさんが話す傍ら、配膳をする使用人さんがエルサとユノの食べたお皿を下げ、新しく料理の載ったお皿を持ってきたりと、忙しそうだ。

「魔物は確かに増えているようなんです。私達が調べている時にも、冒険者らしき人達が魔物と戦っているのを見ました」
「大体は、すぐに片付けていたので、弱い魔物ばかりでしたが……そうだリク、ギルドマスターに言われた通り、マギアプソプションも見かけたぞ」
「ヘルサルにいた奴だね。まぁ、それはすぐ隣街のヘルサルから、流れてきたんだろうけど……」

 弱い魔物が多く、戦っている人を見かけても特に手助けする必要がなかったらしい。
 ソフィーが言うには、その中にマギアプソプションもいたとか。
 ヘルサルは近いので、魔力溜まりを目指して来ていたのが、結界を張って遮ったせいでセンテ南にいるという可能性が高い。
 もちろん、何かしらの方法で集めたとも考えられるけど……。

「断言はできないけど、ルジナウムの時とは違う……のかな?」

 弱い魔物ばかりだし、今のところ目的を持って集まっているような感じではないようで、ルジナウムの時とは違うのかもしれない。
 だからって、帝国の組織が拘わっていないとは言い切れないけど。

「そうね。ルジナウムははっきりと強力な魔物が集結していたもの。キマイラやキュクロップス、マンティコラースなんて魔物が、ぞろぞろと……」
「私はブハギムノングに行っていたから、集結した魔物が押し寄せる光景は見ていないが……聞いただけでも悪夢でしかないな」
「私もそれなりに魔物を知っているが、一体でも複数の冒険者や兵士が協力し、被害を出しながらもようやく倒せるような魔物だからな」

 皆の視線が俺に集まる。
 確かに、AランクやBランクの魔物がうじゃうじゃと集まっていたら、悪夢のように思えるのは当然か。
 なんとかなったけど、もう一度あの光景を見たいとは俺も思わないし。

「ですがリク様、侯爵様。少々気になる事があるのです」
「気になる事って、なんですかフィネさん?」
「はい、モニカさんやソフィーさんも、同意見だったのですけど……」

 とりあえす初日は目ぼしい進展はなし……とまとめようとしたところで、フィネさんが眉根を寄せながら発言。
 何か気になる事があって、それはモニカさん達も同じ事を思ったらしい。
 報告の際に言わなかったのは、確証がある事じゃなくて、まだ皆が気になるってだけだからなんだろう。

「魔物の死骸が、多かったんです」
「魔物の……でもそれは、冒険者達が討伐したか、とかじゃないんですか?」
「いえ、明らかに冒険者が討伐している数よりも多く見受けられました。それに……」
「少し見てみたけど、討伐証明部位がそのままだったの。ほかにも、素材として冒険者なら持ち帰るような部分も残っていたわ」
「余裕のない冒険者が、魔物と遭遇して討伐したとも言えるが……それだけで説明できないくらい、数があったんだ」

 冒険者であれば、虚偽の報告をしないために魔物を倒したら基本的に、討伐証明部位を持ち帰る決まりになっている。
 そうじゃないと、実際に見ていない冒険者ギルドの職員が、本当に依頼を達成したのかわからないからね。
 それに、素材になる物は買い取ってもくれるから、依頼の報酬プラスアルファで収入になるため、よっぽどお金に余裕があるか、逆に持てる荷物や体力的な余裕がない場合以外、持ち帰るのが普通だ。
 時折見かけるのであればまだしも、それが複数あるって事は、冒険者がやった事ではないと考えられる。

「全てがそうなのかはわからないわ。センテの冒険者ギルドから、討伐依頼を受けている冒険者は多いし……持ち帰れない事だってあってもおかしくないの」
「だが明らかに数が多いからな……冒険者がやったのもあるんだろうが、他の誰かが倒したのかもしれない」
「他の誰か……例えば、兵士さん達とかは? それなら、討伐証明部位とか素材を持ち帰らないでしょ?」
「兵士が魔物を討伐したら、所属に報告する義務がある。それに、魔物を討伐してそのままにするのは考えにくいな……少なくとも、応援を呼んで片付けるはずだ。魔物の死骸は別の魔物を呼ぶからな。そして、私が来てから兵士が南側で複数の魔物を討伐したという報告はない。街に近付いた魔物討伐の報告暗いならあるがな」

 冒険者以外で、魔物を討伐するとしたらと考えて、すぐに思いついたのは兵士さん。
 一般の人と違ってちゃんと訓練されているし、偶然かなんなのか、見回りとかをしていた兵士さんが魔物と遭遇して倒したのでは? と思ったんだけど、シュットラウルさんに否定された。
 シュットラウルさんは領主だから、この街に来れば代官さんよりも上の立場になる……当然、街で起こった事、兵士さんが魔物を討伐した報告は上がって来るんだろう。
 まぁ、さすがに全てを事細かにだと多過ぎるので、多少選別はされているんだろうけど。

 でも、フィネさん達が気になってしまう程の数、魔物を討伐していたら当然報告はされるはず。
 それに、確かに兵士さんなら討伐証明部位とかは関係なくても、片付けはするはずだ……ヒミズデマモグやアダンラダの時もそうだったし。
 素材に関しては……どういう扱いになるのかわからないけど。

「うーん……通りすがりの誰かが、魔物と遭遇して戦闘。討伐してそのままっていうのは、さすがにないかぁ」
「それはさすがにな。ない事ではないが、数がな」
「そうだよねぇ……」

 別に魔物を倒すのは、冒険者や兵士だけに限った事じゃない。
 元冒険者や元兵士って事もあるけど……戦える人、ある程度武器を扱える人だったら、街の外で魔物と遭遇して倒す事だってある。
 まぁ、街道沿いなら定期的に冒険者や兵士が見回りをしていて、遭遇する確率は低いんだけど。
 それに、弱い魔物が多ければなんとかなる場合も多いからね……ゴブリンやホーンラビットとかなら、武器を持っていれば倒せたりするし……まぁ、戦い慣れてないと怪我くらいはするかもしれないけどね――。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

さんびきのぶたさん

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

異世界転生令嬢、出奔する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,826pt お気に入り:13,934

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:61,398pt お気に入り:3,744

とある婚約破棄の顛末

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:7,608

転生したら召喚獣になったらしい

BL / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:2,176

9歳の彼を9年後に私の夫にするために私がするべきこと

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,116pt お気に入り:101

車いすの少女が異世界に行ったら大変な事になりました

AYU
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:51

処理中です...