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リクの実力を疑う兵士もいる
しおりを挟むアマリーラさんは不満そうというか、敵意どころか殺意にまで達しそうな気配を出している。
訝し気な視線や、疑うような視線を俺に向けている兵士さんに対してらしく、シュットラウルさんが話す内容が大袈裟すぎるから、仕方ない事だと思う。
俺自身、特に豪奢な物を身に着けているわけでもないし、見た目でただならぬ者に見えるなんて事もない。
それこそ、何も知らない人から見たら、そこらにいる好青年くらいなものだろう……ごめんなさい、好青年は美化し過ぎました。
「ふふん……まぁ、訓練が始まればリク様に恐れ戦くでしょうから、今は見なかった事にしておきましょう」
「……兵士さんを恐れさせるような訓練をするつもりはないんですけど……はぁ」
何故か得意気になるアマリーラさんの言葉を聞いて、溜め息を吐く。
そういえば、ユノの方はどうなんだろうと思って逆側の隣を見てみると、すっごい笑顔で兵士さん達を見ていた……何か変な事を考えてなきゃいいけど。
ちなみに、兵士さん達はユノには特に注目していない様子だった。
まぁ、よく知らなければ小さな女の子にしか見えないから、俺が連れてきた見学の子供くらいな感覚なんだろう……何人かは、なんでここに子供が? といった視線を向けていたけど。
「あ……」
「どうされました?」
「いえ……なんでもありません」
ふと思い出して声を漏らし、アマリーラさんから聞かれたけど、首を振って誤魔化しておく。
そういえば、以前子ども扱いされて喧嘩みたいになった事もあったっけ……確か、ルジナウムの冒険者ギルドのマスター、ノイッシュさんと。
あの時は口喧嘩が発端だったけど、ユノの事だから、自分に向けられる視線の意味に気付いているんだろう。
もしかすると、一部の兵士さんには厳しい訓練になるかもしれないな……やり過ぎないように、注意して見ておきたいけど、数が多いから見られるかは疑問だ。
「では、リク様からありがたいお言葉を頂こう」
「あ、はい……」
そんな事を考えているうちに、シュットラウルさんの演説が終わり、俺の番になる。
考えておくと言ったのに、他の事に気を取られて話す内容を考えていなかった……。
うーん……どうするか。
「えーと……魔物やそれ以外の、国や人々を脅かす相手に後れを取らないよう、今日は精一杯頑張りましょう!」
シュットラウルさんと交代で前に出て、短時間で一生懸命考えた言葉を伝えるため、声を張り上げる。
「……それだけか?」
「えっと、他に何か言った方がいいですか?」
「いや……まぁ、それくらいでもいいのかもしれんな」
「簡潔でわかりやすいお言葉でした。さすがリク様です」
「リクはこういう事が苦手なの。でも、もう少し練習した方がいいの」
「ユノは手厳しいなぁ……」
多くの言葉が思い浮かばず、簡潔に済ませて下がると、シュットラウルさんからキョトンとした表情を向けられた。
あんまりいい言葉や、相応しい言葉じゃなかったかもしれないけど……慣れていないのだから許して欲しい。
難しい表情ながら、言い聞かせるように呟いて納得するシュットラウルさんとは別に、アマリーラさんからは絶賛された。
昨日の魔物との戦闘から、アマリーラさんの俺の評価が異常に高い気がする……。
でも、ユノからは厳しい言葉を受けて、苦笑するしかなかったけどね。
もう少し、大勢の人前で話すのに慣れた方がいいのかなぁ?
「侯爵様、リク様に向かい、敬礼!!」
先程シュットラウルさんに報告をしたベテラン兵士さんが、大きく声を上げる。
その号令に従い、五百人の兵士さん達が全員一斉に敬礼をして、その場は解散になった。
兵士さん達の解散後、運動場の端に張られた陣幕に囲まれた場所にシュットラウルさんや、リネルトさんと待機。
そこへ、号令をしたベテラン兵士さんや、数人の兵士さん達が入れ替わりで入って来て、紹介された。
ベテラン兵士さん、侯爵領軍の大隊長だったらしい……貴族軍の大隊長は、国内最大の軍隊を持つ王都軍の中隊長クラスと言われたから、多分マルクスさんと同じくらいと考えて良さそうだ。
他にも、中隊長や小隊長が数人入って来ては、シュットラウルさんへの挨拶と紹介を済ませていた。
「して、リク様。いかように兵士達を蹴散らして、リク様の凄さを見せつけましょうか?」
「リネルトさん、蹴散らしませんから。訓練ですからね?」
まだ不穏な気配を出して、隠そうともしていないアマリーラさん。
紹介された小隊長さんとか、一部がシュットラウルさんの演説中と同じように、俺へ疑いの視線を向けていたからなぁ。
中隊長以上になると、さすがにそういった事を表に出さない人ばかりだったけど。
本心で疑っているかどうかまでは、さすがにわからない。
「まぁ、小隊長まではまだまだ若いからな。だが、実際にリク殿の戦いを見れば、認識も改めるだろう。ではリク殿、一度あの兵士達を全員吹き飛ばしてくれるか? おっと、多少の怪我は大目に見るが、命を奪うまではしないで欲しい」
「シュットラウルさんまで……訓練をしていて怪我をする事くらいはありますけど、危険な事はするつもりありませんから。それに、いくらなんでも全員を吹き飛ばすなんて……」
いや、やろうと思えばできなくもないと思うけど……魔法を使えばね。
とはいえさすがに、俺の力を知らしめるためだけに危険な事はしないから。
「ふむ、あの者達は私の言葉を疑っているようだったからな。良い教訓にしようと思ったのだが……」
「それは、大袈裟に俺の事を伝えたからだと思いますよ?」
シュットラウルさんは、アマリーラさんとは違って俺への視線を気にしているというよりも、自分の言葉を信じなかったのを気にしているようだ。
でも、結構とんでもない事を言っていたから、信じられないのも無理はないと思うけど。
「はぁ……とにかく、訓練の話をしましょう。兵士さん達、待っているんでしょう?」
「今は、行軍をする際の訓練中だから、もう少し時間はあるがな」
シュットラウルさんの言う通り、陣幕の外では号令が響いており、それに合わせて多くの兵士さん達のものと思われる足音などが響いている。
俺達が来るまでに、準備運動的な事は終わっており、この行軍訓練が終わったら俺と直接訓練という順序になっているとか。
行軍は人間の軍隊において、戦闘よりも重要な事が多いらしく、本当は訓練後の疲れた状態でやりたかったらしいんだけど、俺達が合流するのが少し遅くなったため、先に行軍訓練になった。
「それじゃあ余計な話をせず、今のうちに訓練の流れを決めておきましょう」
「そうだな」
「はっ」
「わかったの」
とにかく、訓練内容を話し合おうと言う俺の言葉に、シュットラウルさん、アマリーラさん、ユノが頷く。
それから少しの間、訓練の流れに関して決めて行ったんだけど……その中でユノがまず、腕試しをすると言い出した。
ユノを侮るような視線を向けていた人向けなんだろうけど、シュットラウルさんとアマリーラさんは、ユノがどれだけの実力かを知らないので、そちらに驚いていた。
まぁ、剣の腕だけなら、多分この場にいる誰も……この国にいる誰も、ユノには敵わなさそう。
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