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訓練準備完了

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 シュットラウルさん達と話し合って、訓練の流れを決めた。
 まずは大まかに、数人から数十人の兵士さんをまとめている、小隊長さん含む大半の兵士さんを俺が担当。
 それ以外の、中隊長以上の少人数をユノが担当する事に決まった。
 シュットラウルさんとアマリーラさんは見学だね……まぁ、侯爵様直々に訓練に参加というのは、あまりよろしくないかららしいけど。

 ユノは、まず中隊長さん達を剣で負かしてやるとか言っていたけど、どう進めるかはともかく次善の一手を教える。
 全員が一度に練習を始めるよりも、少人数に教えてその人達が部下達に教えて行く……というやり方にするためだ。
 俺の方は人数が多いし、次善の一手みたいな技を教える訓練ではないので、とにかく順番に模擬戦をする事に決めた。
 百人組手ならぬ、五百人組手みたいな感じになるけど……ルジナウムでの戦闘継続時間を考えれば、多分大丈夫、かな? あ、ユノが担当する人もいるから、四百五十人組手くらいか……まぁ、細かい事はどうでもいい事かもしれないけど。

 ちなみにこの話をした時、アマリーラさんが一番興奮気味になっていた……全員を一気にではないけど、兵士さん達一人一人を吹き飛ばすと考えて、気に入ってしまったようだ。
 いや、さすがに吹き飛ばしたりは……状況によってかな?

「あ、シュットラウルさん。これくらいの木剣はありますか?」
「うむ、すぐに用意させよう。本来は持って来る物ではないが、今回は最初から訓練を予定していたからな。各種訓練用の武器は用意している」

 兵士さん達は、兜まで被ってのフル装備というわけではないけど、金属鎧を着ていて今すぐにでも戦える備えになっている。
 だけどさすがに俺が剣を使うのは……場合によっては色々と不味い事になりかねないので、大きさを手で示しながら、シュットラウルさんに木剣をお願いした。
 兵士さん達を次々に相手にするため、ボロボロの剣だと耐久性が心配だし、黒い剣を使ったら金属鎧もバターのように斬ってしまうから、どちらともこういった訓練に向いていない。
 特に黒い剣の方は、鎧どころか大怪我ですら済まない可能性もあるので危険だからね。

「ありがとうございます。……うん、これなら良さそうですね」

 用意してもらった木剣を受け取り、片手で二、三度振って確かめて頷く。
 木剣の大きさは、俺が一番使い慣れている黒い剣……バスタードソードと呼ばれる、短くもなく長くもない中途半端な長さ。
 訓練としても、ほとんど使う人のいない武器らしいけど、俺には一番しっくりくる。

「しかしリク殿、本当に良いのか? 兵士達は木剣ではなく、刃引きすらしていない武器だぞ?」
「大丈夫です……多分」

 絶対大丈夫とは言えないけど、モニカさんやソフィーの全力を受けても、大きな怪我をしない俺なら多分なんとかなると思う。
 もし怪我をしたら、魔法で治せばいいだろうし。
 次善の一手は加減できないので使わないけど、木剣でも受け流すくらいはできる。
 一応、何本か予備を用意してもらってはいるけど……。

「じゃあユノ、やり過ぎないようにするんだぞ?」
「大丈夫なの。ちょっと生きるのを諦めるくらいの絶望を味わって、命の大切さを噛み締めてもらうだけなの!」
「それやり過ぎだから。ユノが担当する中隊長さん達は、ちゃんとしてただろう?」
「んー、仕方ないの。これまでの訓練が易しいと思えるくらいに留めておくの」
「それならいい……のかな?」

 陣幕から出て、運動場の隅で次善の一手を教えるため、別行動になるユノに声をかける。
 さすがに絶望を味合わせるとかは止めたけど、厳しく訓練するという範囲でなら大丈夫だろう、きっと。

「少々、兵士達が心配になってきたな……中隊長以上となると、資質的にも人材的にも数が少ない。私はユノ殿の方を見ておこう。リク殿が戦う場は見たが、ユノ殿はまだ見ていないしな」

 そう言って、意気揚々と木剣を担いで駆けて行くユノを、シュットラウルさんが追って行った。
 この場に残ったアマリーラさんは、俺の方を見ておくようだ。

「それじゃ、模擬戦はそんな感じのルールで」
「はい、畏まりました。では、私が審判役を務めさせて頂きます。もちろん、公平にいたします……そんな必要はなさそうですけど」

 適当に模擬戦のルールを決め、地面に大体半径五メートルくらいの円を描いてもらう。
 相撲の土俵より、少し大きいくらいかな? まぁ、正確な計測器とかないから、なんとなくの大きさだけど。
 あとは、武器を手から落としたり落とされたりしたら負け、もちろん破壊されても同様に負け。
 円の外に出ても負けだし、他にも転ばされて手を突く事もあるので、それだけじゃ負けにならないけど、その状態で剣を突き付けられたら負け……などなどだ。

 基本的に、お互い多少の怪我は許容するけど、やり過ぎたり命に係わるような事は反則となる……このあたりは、審判を買って出てくれたアマリーラさんが判断してくれるだろう。
 俺としては、やり過ぎないように気を付けなきゃいけない。
 狙うとしたら円の外に弾き飛ばしたり、相手の武器を落とさせるのがやりやすいかな。

「ははは、一応アマリーラさんはシュットラウルさんの部下なので、多少兵士さん達を贔屓するくらいでもいいと思いますけど」

 笑いながら、心情はどうあれ公平に審判をしてくれるアマリーラさんを、頼もしく思う。
 ただ、そんなやり取りをしている中、円の外で模擬戦をやる兵士さんの何人かから剣呑な雰囲気が伝わってきた。
 シュットラウルさんの言葉を疑っているとかとは関係なく、アマリーラさんと親しそうにしているのが気に食わない……といった雰囲気かもね、これは。
 小柄ながらに、シュットラウルさんの護衛をするくらい実力は確かで、真面目で獣人らしい可愛らしさも持っていると、兵士さん達に人気な要素が多い。

 女性兵士とかもいるけど、男性が圧倒的に多いからなぁ……多分、リネルトさんも同じように人気なんだろうな。
 ちなみに、女性兵士さんはアマリーラさんを見て目がハートマークになっていたりもする。

「貴様ら、リク様にそのような目を向けている事、後々後悔する事になるぞ」
「……」
「……あんまり煽らないで欲しいんだけど」

 一部の兵士さん達から、俺へ向けられる視線に気付いたアマリーラさんは、そちらを睨んで一言。
 さらにやる気の炎を燃え上がらせている兵士さん達を見るに、逆効果というかなんというか……何人かは、唇を噛みながら俺を憎むような目つきの人とかいるし……。
 無事に終わればいいんだけどなぁ……。

「一人目、前へ!」
「はっ!」
「……よしっと」

 アマリーラさんの声で、兵士さんの一人が俺の前に来て剣を構える。
 ずっと先頭にいて、俺を睨んでいた人だ……やる気は十分ってとこだろう。
 それを見ながら、木剣を握り自分の状態を確認して一人で頷く。
 うん、特に緊張しているという程でもないし、疲れとかも感じない……ベストコンディションとまでは言えないけど、問題なく訓練に集中できそうだ――。

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