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訓練開始もすぐに流れ作業化

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「では……始めっ!」

 俺と兵士さんが剣を構え、対峙するのを確認してアマリーラさんが合図。
 瞬間、勢いよく俺に向かって上段から剣を振り下ろす兵士さん。

「はぁっ!」
「っとと。せいっ!」
「っ!? あぁぁぁぁ……」
「……ちょっと飛ばし過ぎた、かな?」

 呼気と共に振り下ろされる剣を、体を横にずらすだけで避ける……開始早々の先制攻撃で、中々の速さだけどエアラハールさんの動きに比べると、スローモーションのようにも見える。
 もしかすると、俺が集中している証拠でもあるかもしれないね。
 なんて考えつつ、持っている木剣をがら空きの脇腹に向かって横薙ぎの形で振る。

 脇腹に木剣の直撃を受けた兵士さんは、金属の鎧がへこんだ事か、それとも痛みか……驚愕の顔のまま円の外へと飛んで行った。
 飛んで行く過程で、ドップラー効果のように声が小さく聞こえるのが少し面白い。

「一人目終了。次の者、前へ!」
「……あ、は、はっ!」

 早々に終了と判断し、次の兵士さんを呼ぶアマリーラさん。
 俺が飛ばした兵士さんの行方を追い、地面に落ちた数十メートル離れた場所を見て呆然としていた、次の兵士さんは、その声で気を取り直して、俺の前に来る。

「呼ばれたらさっさと来い! リク様を待たせるな!」
「はっ!」
「アマリーラさん、厳しいなぁ。まぁ、軍隊と考えたら、これくらい普通なのかもしれないけど」

 兵士さんが呆然としていたのは数秒で、特に待ったという事はないんだけど……アマリーラさんが兵士さんにかける言葉は厳しい。
 ただ、俺の前に来て構えている兵士さんは女性で、チラチラと視線をアマリーラさんの方へ向けているから、厳しいのもむしろ喜ばれているようだけど。

「では……始めっ!」
「アマリーラ様に、いい所見せないと……せいやぁ!」
「意気込みはいいけど、ちょっと直線的すぎるかなぁ? せいっ!」
「きっ! きゃぁぁぁぁ……」

 合図と共に、俺に向かって全身で踏み込み、剣で突きを放つ女性兵士さん。
 アマリーラさんにいい所をという意気込み自体は悪くないけど、相手の動きを把握しないうちから、真っ直ぐ突きを放つのはいただけない。
 モニカさんのように、槍のリーチを活かしてとかならともかく、剣だからね……ソフィーだと、突きを放ちつつも手首を返して避けた方へ剣を振るくらいの事はしただろうか?
 なんて考えつつ、先程と同じようにがら空きの脇腹を木剣で撃って、円の外へ弾き飛ばす。

 先程の教訓か、やり過ぎないように気を付けたおかげで、悲鳴を上げた女性兵士さんは十メートルくらいの所へ飛んで行った。
 うん、数十メートル先じゃないだけ、加減が上手くいっているね……鎧はへこんでたけど。
 ちなみに、女性兵士に行った助言っぽい事は、俺自身が前にエアラハールさんから言われていたりする……やる気とか意気込みが大きすぎると、真っ直ぐ突っ込んでしまうよねぇ、うん。

「二人目終了! 次、前へ!」

 アマリーラさんが終了を告げ、次の兵士さんを呼ぶ。
 そんな風に、段々と作業になって行くのを感じながら、数百人に及ぶ兵士さんと次々に模擬戦をしていった――。


「やっぱり、有力な情報はあまり得られませんでしたか……せい! っと」
「はい。まぁ一日にも満たないので、大した情報が得られないのも、無理はありませんが……次!」
「そうですね。とぁ! 今頑張ってくれている、リネルトさんに期待ですかね。やぁ!」
「次! リネルトが何か情報を得てくれる事を期待しますが……次! 冒険者から話を聞くなら、夜の方がいいかもしれません。……情けないぞお前ら! 次!」
「ふっ! そうですね、昼は魔物討伐の依頼で街の外に出ている冒険者も多いですから。せや!」

 審判役のアマリーラさんと、情報収集に関する話をしながら、兵士さんとの模擬戦を続ける。
 大体が、突っ込んで来る兵士さんの攻撃を避けるか受け流して、隙だらけの体を木剣を当てて弾き飛ばす……という、クレメン子爵領でも似たような事をやった覚えがある、作業になっていたから。
 話しながらという、完全に兵士さん達を侮っている戦い方に、最初は憤慨していた兵士さんもいたけど、一人目からずっと木剣で金属の鎧をへこませながら、軽々と弾き飛ばしているのもあって、今では畏怖の視線が向けられているような気がしなくもない。
 もしかすると、俺が最初に構えた位置からほとんど動いていない事や、その位置から左右に飛ばされた人が折り重なっているからかも?

 何度もやるうちに、一定の力加減で弾き飛ばすのに慣れたおかげもあって、飛ぶ距離もほぼ一定になったからね……兵士さんの体重や、装備の重さで若干変わるけど、おおむね左右のどちらか十メートルくらいの位置に飛ばせている。
 地面に落ちる際に、多少の怪我はしているだろうけど、骨とかには異常が出ないようにしているから、大丈夫かな。
 へこんだ鎧の修理費とかは少し気になるけど、そこは俺が保証する部分じゃないか
 あと、これだけ簡単に飛ばしていて、本当に訓練になるのか疑問だけど……アマリーラさんが満足そうなので、きっと問題ないと思う。

「そろそろ、疲れを見せても良さそうなのに……」
「何を言っている。貴様ら如きにリク様が疲れるなどあり得ないだろう」
「……そうでもないんですけど。まぁ、今はまだ疲れていないのは確かですね」

 兵士さんの半分くらいを弾き飛ばしただろうか……さすがに木剣が限界だろうと、三度目になる交換を頼んだ俺を待つ兵士さんは、何やら諦めの表情を浮かべて、呟いた。
 それを聞き咎めるのは、アマリーラさん。
 絶対に疲れないという事はないけど、今のところ単調な作業をしている感覚だし、アマリーラさんと話す余裕もあるから、疲労はほぼ感じていない。
 気を付けるのは、やり過ぎないように加減して木剣を振る瞬間くらいだし、慣れると素振りをしているのに近い感覚だからなぁ……。

「だが、そろそろ善戦する者も出て来る頃か……?」
「ん?」

 少しだけ真面目な雰囲気になるアマリーラさん。
 その視線の先には、次の兵士さんが武器の槍を持って待機しているんだけど……。
 そちらを見ると、これまでの人達とはなんとなく違う雰囲気な気がした。
 なんというか……面構えが違うというか、気迫が違うというか……そんな人が、さらに後ろにも二十人以上並んでいた。

「あれらは、小隊長です。さすがに他の兵士よりは幾分か、戦い慣れている者達になります。――リク様を待たせるな!」
「はっ! ……リク様、私共では敵わないのはわかっております。ですが、少しくらいは手応えを感じて頂けるよう、全力で参ります!」
「わかりました……思いっ切りかかって来て下さい」

 これまでと違う雰囲気の人達は、小隊長さん達だったらしい。
 アマリーラさんに呼ばれ、俺の前に来て槍を構える姿も堂に入っているというか、これまでの人達とは全く違う。
 鎧とかは一緒なんだけど、やっぱり隊長格ともなれば経験もそれなりにあって、実力がある人達なんだろうな――。


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