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特別な空間と目的

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「リク。た、確かこちらの世界に来る前に、ユノと話したのだわ?」
「う、うん。話したけど……あっ!」
「ようやく気付いたのね。そう、ここは神の御所。いえ、似せて作った仮の場所かしら」
「神の御所……」

 こちらの世界に来る前、ユノと初めて直接話した時に連れて来られた場所があった。
 何もない空間だったけど、雰囲気というか気配というか、今いる場所は確かにあの時にいた場所と似ている感じがする。
 そもそも、長い時間はいられない場所だったから、すぐに思い出せなかったけど……だから、ちょっと懐かしい気もしたのか。

「この、なんというか、拒絶されているような歓迎されているような、よくわからない感覚はそういう事だったのか」
「神の御所は何者も拒絶せず、受け入れる懐の深い空間。ただし、そこに存在できるのは本来神という存在だけ。だから、拒絶と受諾、排除と受容が共存しているのよ」

 何者をも受け入れるからこそ、歓迎されているような感覚があり、神以外は存在できないから人間には拒絶されるような感覚もあるって事か。

「ま、通常の人間だと一瞬で気が狂ってしまうか、消滅してしまうんだけどね」
「え!? だったら、なんで俺は……あ、それならアマリーラさん達も!」

 気が狂うって……俺はそんな事になっていないんだけど。
 そう考えたところで思い出した、神の御所から感じる気配のようなものは、広場に入った時から感じていた事を。
 つまり、次元がどうのはともかくとして、アマリーラさん達がいる場所も同じ事になっているはずだ。

「リクはその膨大な魔力があるから、多少は存在できる。まったく、私でも驚くくらいの魔力量……もはや人間かどうかも怪しいわ。それに、あくまでもここは神の御所を真似て作った空間。次元がズレていてもその気配は漏れているから、雰囲気くらいは感じられるだろうけど、大した影響力はないわ」
「そ、そうなんだ……」

 俺はともかく、アマリーラさん達のいる方も同じく神の御所なら危険だと思ったけど、どうやらそこまでの事はないみたいだ。
 ちょっと安心した。

「暢気なものね。そこの震えているドラゴンからの影響かしら? それとも、創造神の影響かしら? あぁ、そういえば今思い出したのだけれど、創造神はリクがユノって名前を付けたんだったかしら。そう、だからあれと見間違えたって事ね」
「の、暢気って。まぁ、確かにユノは俺が名前を付けさせてもらったけど……」

 やれやれと手を振る女の子……いや、破壊神。
 雰囲気や気配はともかく、見た目がユノと同じだからやりにくいな……。

「それでその……ここまで来て、しかも俺とエルサだけ隔離したような状態にして、何がしたいんだ?」
「あら、私が貴方と話したかった。それだけじゃ駄目かしら?」
「えぇ……?」

 ただ話したかったからって、本当にそれだけで次元のズレだとかよくわかんない事をしたって?

「あはははは! 嘘よ嘘。ユノ、だったっけ? 私はあれみたいに暇じゃないの。ただ話しに来るだけでこんな事はしないわ」
「……だったらなんで」

 俺の表情がよっぽどおかしかったのか、大きく笑う破壊神。
 訝し気な表情をしたつもりはあったけど、そんなに笑われるような顔じゃなかったと思うんだけどなぁ。

「目的は単純。貴方、ちょっと邪魔なのよね」
「え……?」

 スッと、目を細め破壊神。
 睨んでいるというわけではないのに、それだけで周囲の温度が数度下がったような、ヒヤリとした感覚に襲われる。
 頭にくっ付いているエルサは、さらに体の震えを大きくして俺にしがみ付いた。

「私はまぁ、私の存在としての目的を果たそうとしているわけだけど……色々邪魔してくれているみたいだし……」
「えっと……邪魔ってもしかして、帝国に関する事?」

 これは敵意、だろうか? 頭のどこかで警鐘が鳴っている気がする。
 できるだけ表情に出さないようにしながら、目的を探るために質問を返した。
 アルセイス様が言うには、破壊神が画策して帝国が動き、その帝国がアテトリア王国に対して色々やっているみたいだからね。
 俺が邪魔をしたって事なら、関係しているはずだ。

「まぁ、そういう事ね。帝国自体はどうでもいいんだけど、私の目的のためにはあの俗物達を止めてもらっちゃ困るのよね……」
「俗物って……」

 帝国の人達の事だろうか? もしかしたら帝国の上の方の人とか、あちら側のエルフの事かもしれない。

「まったく、私がヒントを出して魔物を使う方法を教えてあげたのに……」
「教えて……それじゃ、魔物を復元したり特殊な能力を持たせたりできた原因は」
「えぇ、私のおかげね。もっとも、既にそちらの研究はしていたようだけど……でも、人間やエルフ程度じゃ本当に魔物に対する研究を完成させる事はできないわ。根本的に違う存在なのだから」

 アルセイス様との話で、なんとなく関わっているというのはわかっていたけど、そこまで深く関与していたのか……。

「根本的に違う存在っていうのは?」
「簡単よ。人間は創造神が、エルフは……マルセイユ、だったかしら」
「もしかして、アルセイス様の事……かな?」
「あぁ、そうそうそんなのだったわね」

 アルセイス様の存在は知っていても、名前は間違えるのか……マルセイユはどこかの国にある都市の名前だ。
 まぁ、神様の名前は基本的に自分が付けて喧伝するものではなく、他者が名付けたり勝手に呼んだりするものって、ちょっと前にユノから聞いた。
 エルフからそう呼ばれ始めて、アルセイス様が気に入って定着はしたらしいけど。

「アルセイスはエルフを創った、けどあれは創造神側の……というよりほぼ創造神の力を借りて作っているの。だから、多少の違いはあっても人間に似ているわ。で、私は破壊神の力で魔物を創った。破壊神の力はそのままつまり破壊の力。だから、創造神の力を使って創るのとは存在そのものが違うってわけよ」
「破壊神の力……? でも、魔物を創る事そのものが創造とも言えると思うけど」
「私は創造神と表裏一体の存在。つまり、真似事くらいはできるの。まぁ、だから魔物は人間やエルフと違って、ほとんど理性がなく本能や欲望に忠実なんだけどね。あ、でも人間やエルフも欲望に忠実な俗物はいるか。帝国なんてその最たるものだし」

 どこをどう力を使った、とかは神の領域という奴なのでよくわからないけど、創造を司るユノと表裏一体の存在だから、近い事はできるっていうわけかな。
 でも元々の使う力の源みたいなのが違うから、存在が違う……か。

「でもそれで、なんで人間やエルフに魔物の研究ができないんだ?」
「できないわけじゃないわ。でも、ただ人間やエルフだけじゃ絶対に完成しないのよ。そうなっているわ。創造神の力を使った人間やエルフと、破壊神の力が源の魔物。相容れぬ存在で絶対に理解不能な存在。別の力なのだから当たり前なのだけど」
「そ、そうなんだ……」

 うーん……よく理解できたわけじゃないけど、なんとなく魔物を理解するのは無理だって事かな。
 だからこそ、破壊神がヒントなりなんなりを与えて、ようやくある程度の研究を完成させる事ができた……とかかな多分――。


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