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圧倒的な力

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「ようやく理解できたようね。まぁ、理解する必要もあんまりないんだけど」
「ん……? っ! ぐ、ふっ!!」
「リ、リク!?」

 俺の表情なりなんなりで判断したのか、そこで話を打ち切った破壊神。
 特に注目する程の動きではなく、本当にただ手をなんの気なしに振った、ただそれだけで俺の体が弾き飛ばされ、勢いよく壁に背中が叩きつけられた。
 突然の事過ぎる強烈な衝撃に、息が詰まる。
 それでもまだ頭にくっ付いているエルサは無事なのか、驚いた声を上げて俺を呼ぶ。

「ふふふ……人間は脆いわね。まぁ、すぐに止めを刺すような事はしないわ、手加減はしてあげる」
「ぐっ……はぁ、はぁ……止めって……それじゃここにきた目的は……」

 多少攻撃を加えられる事があっても、これまで息が詰まる程の衝撃を受けた事なんて、この世界に来てから一度もなかったのに……あれで手加減って。
 なんとか、息を整えつつ体に力を巡らせるようにして、備える。

「貴方を消す事。んー、そうね、破壊神として言うならば……」

 何の気になしに話す破壊神は、一旦言葉を止め、こちらを睥睨するような視線を向けた後……。

「破壊する!」
「がっ! うっ、がっ、ぐぅ……!!」

 俺に向かって、はっきりとした敵意のような強大な気配を放ち、言葉と共に手の平をかざす。
 次の瞬間、空間そのものが弾けたのではないか、という衝撃と共に再び壁に勢いよく打ち付けられた。
 今度は、さっきよりもさらに強く……。

「つまらないわねぇ。神の領域にまで影響を及ぼす魔力を持ちながら、この程度なのかしら?」
「ぐ、く……はぁ! はぁ!……神の領域って……」

 衝撃によって息が上手くできない……それでもなんとか、言葉を紡ぎ出す。
 破壊神、圧倒的という言葉すら生温い。

「ユノに及ぼした影響を忘れたとは言わせないわよ? そのせいで、あれは興味を失いかけていたこの世界に降りているのだから」
「ユノ……」

 そういえば、最初に話した時のユノは、この世界の……自分で作った世界に面白みがないみたいな事を言っていた気がする。
 だから、面白そうな地球の日本に遊びに来ていたのだとも。

「あのまま興味を失ってくれていたら、わざわざ私が動かなくても、この世界は破壊の方向に傾いていたのに……はぁ、リクの私にやった最初の邪魔はそこね」
「邪魔をするつもりは……」
「は! 何を言っているの? 貴方にそのつもりはなくても、私の邪魔をしたの。わかっているの? 誰かが何か行動をすれば、どこかで別の誰かや何かが影響を受ける。それは知っているかどうかに拘わらず、邪魔にもなれば貢献にもなる。そして貴方は影響力が強すぎるのよ。何か行動を起こせば……いえ、何もしなくても何かに影響を与えてしまう。そしてその影響は、私にとっての邪魔にしかならないの」

 邪魔をしたようなつもりは一切ない。
 だけど確かに、何かをやれば何かが影響を受ける。
 それが、邪魔だと思う誰かがいたっておかしくはない。
 だけどそれを考えてばかりいたら、何もできなくなる……。

「まぁ、そうね。何もできなくなるわ。だから私は貴方に罪があるとは言わない。ただ、邪魔だから破壊するのよ」

 罪だとかは関係なく、ただただ破壊という目的のためにって事か……。

「えぇ。だって私、破壊神だもの」
「……ちょっと待って、もしかして俺の考えている事?」
「今気づいたの? 鈍いのね……ここは神の御所を真似た場所。当然、貴方のように人間の考えている事は、神には筒抜けよ。とは言っても、所詮は真似。おぼろげにわかる程度で、強く考えている事だけだけどね」

 そういえば、ユノと話した本当の神の御所でも、俺の考えている事は筒抜けだったっけ。
 というか、途中からほとんど声を出さずに考えるだけで、話していたような気もする。
 完全じゃないと言っても、ここはそれと同じ性質だって事か……あんまり、強く考えるのは止めた方が良さそうだ。

「無駄よ。貴方、考えがわかりやすいもの。強く考えないなんてできないでしょ?」
「……」

 全部バレていた。
 何も考えなければ、向こうには伝わらないだろうけど……この状況でそれはできないからなぁ。

「まぁそんなわけで、ちょっと楽しませてもらうわね? 私の邪魔をした迷惑料を払うんだと思って。もっとも、終わった後貴方が生きているかどうかは知らないけど」
「……邪魔をしたつもりも、迷惑をかけたつもりもないけど……さすがに払う物が命ってのは勘弁だね」

 事情によるけど、誰かの邪魔をしたり迷惑をかけたのなら、謝るくらいはする。
 けど、命まで取られる筋合いはない……と思う。

「リクがどう思おうが関係ないわ。おっと、そういえばそろそろあれも動くはずね」
「あれって……?」
「教えてあげないわ……」

 ほとんど感情を載せずに話すか破壊神が、ふと思い出したように俺から視線を外す。
 あれと言うのが何かわからなかったので、聞いてみたけど答える気はないようだ。
 フイッと横を向いて、親指と中指を合わせてパチンッと音を鳴らす……次の瞬間。

「アマリーラさんとリネルトさんが!?」

 破壊神が指を鳴らした瞬間、動いていなかったアマリーラさんとリネルトさんが、広場から消えた。
 まさか、何かしたのか!?

「お、落ち着くのだわリク。この場所から外側には干渉できないはずなのだわ。そ、それが例え神であっても……だわ」
「さすがはドラゴン、よくわかっているわね。無理をすれば私は向こう側に干渉できなくもないけど……さすがに面倒だからやる気はないわ」

 エルサのおかげで、なんとか取り乱さずに済んだけど……声をかけてくれたエルサ自身が、もう少し落ち着いた方がいいかもしれない。
 相手が相手だから仕方ないのかもしれないけど。

「面倒……それじゃあ、アマリーラさんとリネルトさんは……?」
「あの獣人達には何もしていないわよ。……どうせあれに……」
「ん?」

 破壊神が、何やらボソッと呟いた。
 はっきりと聞こえなかったけど……。

「なんでもないわ。とにかく、ここと向こう側を完全に切り離しのたわ。これで、向こうからこちらは見えないしこちらからも同様よ」
「切り離したから、見えなくなった……?」
「そうね。リク以外に私の姿を見せるつもりはないわ。空間の時間を引き延ばしておくよりも、こうした方が楽だから。まぁ、完全に別空間、別の次元だと理解させるためにやっていたから、もういいでしょ」

 俺に理解させるため、アマリーラさん達の姿を見せたり触れない事を確認させるために、時間を引き延ばしていたって事か。
 見えなくなったけど、今頃向こう側のアマリーラさん達は、俺達がいなくなったのを驚いているだろうな。
 空間を切り離すのと、時間を引き延ばすのはどちらが難しいのか……なんて俺にはわからないけど、破壊神が言っているのだからそうなんだろう。
 確かめるすべはないし、嘘でも本当でもこの状況をどうにかしないといけないのは、変わりない。

「さて、これで準備も整ったし、始めましょうか」


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