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緊急事態発生
しおりを挟む俺がお礼を言うと、凄い速さで首を俺とは逆方向に向けるモニカさん……首痛くならないか少し心配だ。
フィリーナは溜め息を吐いているけど、心配してくれたのが嬉しかったのは本当だし、お互いの時間にズレがあるとしても俺だってモニカさんの笑顔を思い浮かべたりしていたからね。
破壊神との戦いの時、おかげで力が沸いてきたのは間違いないと俺は思っている。
「若い、若いなぁ。いや、年を取ったからかこういうのを見るのも、悪くないな。ともかく、モニカ殿もアマリーラ達と同じで、リク殿を探したり心配していたという事だな」
したり顔でうんうん頷くシュットラウルさん……さっきまで真面目だったのに。
あ、そういえば。
「シュットラウルさんの部下なら、アマリーラさん達は他の兵士さん達と同様に、東に配置じゃないんですか?」
東側はマックスさんやマリーさんといった、一部元冒険者の例外はあるけど基本的に兵士さん達で固められている。
アマリーラさん達は獣人の傭兵で、シュットラウルさんの部下なんだからそちらに配置されるんじゃないのかな? と思った。
「あぁ、それなんだが……傭兵で、やろうと思えば集団での戦闘もできる。だがアマリーラがな……どちらかというと個人での戦いの方に真価を発揮するんだ。兵士との連携よりも、冒険者達と共に戦った方が成果を上げるだろうとな。とはいえ、冒険者も集団で連携をするのだが、兵士となると規模が変わるからな。こういう事はリネルトの方が得意なのだが、二人を分けるよりもアマリーラの補助にリネルトを付けておいた方が良いからな」
「成る程……確かに、冒険者はパーティ単位で連携もしますけど、兵士と違って多くても十人いるかどうかくらいの集団ですからね」
アマリーラさん、集団戦闘が苦手だったのか……いや、苦手と言うより個人で動く方が得意なだけか。
初対面の時も含め、規則というか真面目っぽい指揮官風な印象もあったから、むしろ多くを指揮するタイプかと思っていたけど、違っていたようだ。
むしろリネルトさんの方が、連携が不得意と思っていたんだけどね……俺の人を見る目はまだまだ未熟だな。
話を聞いて、指示を出しながら協力しつつ魔物を蹴散らすアマリーラさんと、素早く動いてフォローするリネルトさん……を思い浮かべようとしたけど、あまり思い浮かばなかった俺の想像力もまだまだみたいだ。
「うむ。西側のヘルサルとの道を切り開くのには、大きく活躍してくれたがな。どうにも防衛となると勝手が違うのもある……」
ヘルサルとの道は、向こうからの応援や支援を受けるためにも、塞がれている状態なのはまずい。
そのため、一番手薄だったのもあって囲まれてすぐアマリーラさん達が、頑張って突破口を開いたのだとか……モニカさん達もそこで活躍したと。
突撃したり、突破するにも連携は必要だし足並みを揃える必要もあるけど、防衛と違って守るためではなく攻めるための戦いだから、色々違うのもわかる。
こちらは、武器を振り回して魔物を蹴散らすアマリーラさんが、簡単に思い浮かべられた……まぁ、演習の時とほぼ変わらないからね、相手が魔物になっただけだし。
「……伝令! 伝令!」
「何事だ!」
そんな話をしつつ、クォンツァイタを含めて準備が整うのを待っていたら、兵士さんが一人部屋に飛び込んできた。
シュットラウルさんがすぐに対応……元々礼儀とかを細かく気にする人じゃないけど、飛び込んできた人に対しても無礼だとかそういう雰囲気はない。
単純に、焦っている様子の伝令さんからの情報を聞くために、大きな声で応えたってとこかな。
しかし、こちらから反撃をしようと思った矢先に……思っていた以上に、俺が戻ってきた時点でギリギリの状況だったのかも。
「侯爵様、街東からの伝令です! 魔物達により、街外の土壁による防衛線が突破されました! 門の前に盾部隊を集めて押し留めていますがこのままでは、街への侵入の恐れが! 至急、応援を求むとの事です!」
「とうとう来たか……」
「盾部隊って事は、父さんが対処しているのね」
「マックスさんなら、少しはもたせるでしょうしマリーさんが援護してくれていると思うけど……悠長に南を引かせて、東に回す余裕があるかどうか」
伝令さんは、魔物に押されている東側の状況を報告し、応援を求めていた。
あの土壁を突破されたって事は、単純に数で押されたんだろう……あれが壊される事はほぼないだろうからね。
もしかすると、東門とほぼ同時に攻め立てて手薄にしたとかもあるかもしれない。
そこまで魔物が考えていたかはともかく、数で圧倒している魔物がまとめて襲おうとした結果なのかも。
多分、マックスさんとマリーさんが部隊を率いて、俺が戻って来た時みたいに門を守るために移動しているあいだに押されたか……。
だからこそ、動きを変えてマックスさん達が門まで突破されないよう、盾部隊で壁になっているのだと思われる。
移動していないと、すぐに門の所に集まるのは難しいから。
「まだクォンツァイタ、魔法具の武器も集まっていない。南側は指示を出したばかりで、おそらく引き始めた頃合いだろう……どうするか……」
どう対処するべきか、腕を組んで悩むシュットラウルさん。
少しでも、時間を稼げればいいわけだから……。
「なら、俺が行きますよ」
「……だが、リク殿には南へ行ってもらうとなっている」
「まぁ、俺も東側の魔物を全部なんとかしてから、とは考えていません。とりあえず押されているから、魔物を一旦怯ませればと思って……一発ドカンとやっておけばいいかなと」
寝て多少は回復したとはいえ、残りの魔力量が少し心配だから殲滅とかまでは考えていないけど、魔物の勢いを削ぐくらいの事はできる。
「……味方の兵に被害を出すのは、ちょっと」
「父さんと母さんが危険な目に遭いそうね……」
シュットラウルさんとモニカさんが、溜め息を吐くように言う。
モニカさんはともかく、シュットラウルさんには魔法の失敗とかをまだ見られていないはずなんだけど……誰かから聞いたのかも。
「いや、さすがにそんな事はしないですから……」
大量の魔力を使うような魔法は、さすがに南側で使うために取っておきたいけど、一度くらい何かをして時間を稼ぐくらいの事はできる。
「とにかく、東側に行って魔物の勢いを削いでから、すぐ南に行くように考えています」
「リク殿がそうしてくれるのは助かる。少しでも猶予ができるなら、東に人を向かわせても間に合うかもしれん」
「リクが行くなら、私達はまだここを動かなくて良さそうね。もしもの時は微力ながら向かおうと思ったけど」
「なんとか、間に合う猶予を稼いで見せます。――フィリーナとカイツさんは、予定通りクォンツァイタを。無理に動くよりその方が結果的に有利になるだろうから」
多少魔物側の勢いを止めて、時間を稼げばいいだけだからそこまで難しい事じゃない。
まぁ、南に行くのが遅くなるけど……あちらは切羽詰まった状況じゃないからね――。
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