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長引く程に増える犠牲者

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「それじゃ……」
「私も行くわ、リクさん。父さん達の様子も見ておきたいし……南側をリクさんに任せるなら、私は東の援護に回った方がいいでしょうから」
「わかった。そうだね、モニカさんも参加するならマックスさん達も心強いと思うよ。でも無理はしないでね」
「モニカ、これを持って行って。多少魔力蓄積が減っていても、十分に使えるわ」
「ありがとうフィリーナ! もちろんよ、父さん達もいるわけだしリクさんみたいな無理はしないわ」
「……あんまり無理をしているつもりはないんだけどね」

 部屋を出ようとすると、モニカさんが一緒に同行すると提案。
 今は東側に少しでも戦力が欲しい状況だから、モニカさんが行くと助かるはず。
 魔法具化したクォンツァイタをフィリーナから渡され、苦笑する俺と一緒に庁舎を出た。


「それにしてもリク、いつもはやってみる、くらいで断言はしないのに……今回は殲滅するって言っていたのだわ。何か考えがあるのだわ?」
「考えというかまぁ、やれるだろうと思ったからなんだけどね」
「戻って来るまでに何があったのかは、私はわからないけど……ちょっとだけリクさんが変わった気がするわ」
「そうかな?」

 足早に東門を目指しつつ、頭にくっ付いているエルサから聞かれる。
 俺自身は特にいつもと違う感覚は大きくなく、やれると思ったから言ったまでだ……まぁ、多少提案とかではなくいつもより強引に進めている気はするけども。
 モニカさんもエルサと似たような事を感じたようだ。
 ……破壊神との戦いを経験したからかな? もしかしたら、寝ている間に見ていた夢っぽい何かも関係しているのかもね。

「なんで……どうして……!」
「もうそいつは駄目だ! くそっ!」
「うぅ……うぅ……!」
「気をしっかり保て!」
「……なんだろう?」

 道中、どこからか叫び声のような気にな話し声が聞こえて、足を止めてしまう。

「……リクさん、あまり気にしない方がいいわ」
「でも……」
「あれは、魔物達との戦いで怪我をした人達……もう助からない人も中にいるわ」
「……確かにモニカの言う通りなのだわ。軽く調べたけどだわ、もうリクの治癒魔法でも助からないのだわ」
「……負傷者って事なんだね。しかも手遅れの……」

 声が聞こえてきた方を見ると、空き地にテントが張られており武装していない人が行き交っている。
 中には服に血が付いている人もいるけど、治療をしていたからだろう。
 重傷者が多いって事か……俺の使う治癒魔法は、人の自然治癒力を強化するだけのものなので、再生とは違う。
 つまり怪我が酷くて本人の体力が尽きかけている場合、効果はほぼない。

「行きましょう、リクさん……」
「うん……あぁいう人達を、減らすためにも」

 どうしても見てしまう、テントの様子。
 完全に止めてしまった足を、モニカさんに促されて動かし始める……モニカさんがいてくれて良かった。
 じゃないと、気になってしまって動けなくなってしまうところだったから。
 今の優先は東門……これ以上の死傷者を増やさないためにもね。

「……そういえば、聞いていなかったけど。結構被害が出ているんだよね?」

 街への侵入を許さず、なんとか耐えてくれている様子だったのでそちらに意識はいかなかったけど……さっき見たような場面以外にも、かなりの死傷者が出ていてもおかしくない。
 見る限りセンテの街中には被害はないけど……。

「そうね……最初の西側への決死の突破作戦。あれで、数十人以上だったと思うわ。私も正確な人数は把握していないけれど、兵士も冒険者も元からセンテにいた人は半分くらい……ヘルサルからの応援や、他から駆け付けた人達も含めると相当な人が犠牲になっているわ。私も、戦っている時に何度も人がやられるのを見たわ……」
「そう……なんだね……」

 破壊神の言う通りなら、今回の事もやっぱり帝国が関わっている。
 向こう本気でアテトリア王国を蹂躙するつもりなのかもしれない……そう考えると、センテが魔物に囲まれたのは、帝国との戦争の前哨戦とも言えるのかもしれない?
 まぁ、相手は魔物だけど、当然ながらこちらへの被害も出る。
 確実に人が死ぬのが戦争……こんな事……。

「ただ、街への侵入を許さず、ヘルサルとの道が繋がったのもあって、非難もさせられた。戦えない人への被害はかなり少ないはずよ」

 そうだ、兵士さんや冒険者、戦っている人の被害は多くてもそれ以外の人への被害はまだ少ない。
 これがもし、街中に入り込まれたり敗北したり、それこそ壊滅してしまったら数百や数千の被害じゃすまなくなってしまう。
 もしセンテがなくなったら、その後は周辺の村やヘルサル……さすがにその頃には王都からの増援も来ているだろうけど、被害は増えるばかりだ。

「そんな事は、させられない……!」
「リクさん……?」
「うん、やる事は決まった。モニカさんはこのまま、マックスさん達の援護に向かって」
「え、えぇ。でもリクさんは? 一緒に東門に向かうんじゃないの?」

 なんとなく、戻って来たばかりなのと寝起きなのもあって、まだ俺自身寝ぼけていたのかもしれない。
 さっきの光景、センテの人達への被害を聞いて目が覚めた。
 はっきりと、やる事を定めて決意し、やるべき事を決める。

「俺は……エルサ、もう大きくなって俺を乗せて飛べれられるよね?」
「もちろんだわ」
「じゃあ、俺を一人乗せるくらいの大きさでいいから、すぐに頼む。――俺はエルサに乗って東の魔物に向かうから。時間稼ぎをするけど、兵士さん達には絶対に被害は出さない」
「……わかったわ」
「じゃあ、乗るのだわー」
「ありがとうエルサ! モニカさん、俺が今できるのはまだ時間稼ぎだから! その後はマックスさん達と協力して、絶対に門から魔物を入れないように! お願い!」
「わかっているわ! リクさんも無理はしないで!」
「うん!」

 モニカさんに返事をして、二、三メートル程度の大きさになり、頭上を飛んで移動する俺達に追従するエルサに飛び乗る。
 大きさとしては、ワイバーンより少し小さいくらいだけど、俺が乗る分には十分だ。

「エルサ、東門を越えて外へ向かって! 出たら滞空してくれれば後は俺がやる!」
「了解したのだわー!」

 エルサに指示を出し、東門へと駆けて行くモニカさんの頭上高くを過ぎて、俺達も上空から門へと急ぐ。
 空から見ると、門の外側に兵士さん達が集まっていて、魔物に押されている状況がよく見えるね……魔物からだろう、複数種類の魔法が門へ向かっていたりもするけど、兵士さん側も負けていない。
 マックスさんが率いていた盾部隊が、体ごと迫る魔物達を押し留めつつ、マリーさんが率いているだろう魔法部隊が後ろから援護。
 ただ、このままだと疲れも多い兵士側が不利そうだ……魔法の威力は高いんだけど、魔力がいくらでもってわけじゃない。

 まだ魔法具やクォンツァイタも到着していないし、かなり門の近くまで押されているから、このままじゃ間に合わないだろう。
 魔法の数も、魔物の方が多いし……放たれるごとに少しずつ、兵士さん達の旗色が悪くなって行っているのが、空からだとはっきりわかった――。

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