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空中ワイバーン戦前半

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「……っ!」
「たのしーのだわー! もっと、もっと行くのだわー!!」

 グルグルと回転し、よくわからない軌道を描きながら何度もワイバーンに接近しては、翼で斬って離れるを繰り返す。
 俺はエルサにしがみ付き、振り落とされないようにしながら遠心力その他で、内臓が振り回され、何かがこみ上げて来るのを抑えながらひたすら耐えだけ。
 ワイバーンの方は、突然の襲撃と次々に仲間がやられるのを見て、完全に恐慌状態に陥っている。
 中には、逃げ出そうとするワイバーンもいるけど……。

「逃がさないのだわー! 空は私の支配する場所なのだわ! 我が物顔で飛んでいる小さい魔物はいなくなれー、なのだわ!!」

 そんな事を楽しそうに叫びながら、逃げようとしたワイバーンすら斬り裂いて地上へ落とすエルサ。
 小さい魔物って、今のエルサはワイバーンより小さいサイズなんだけど……まぁ、やろうと思えばワイバーンを踏み潰せるくらいにまで大きくはなるんだけどね。
 空を飛ぶ魔物は多くなく、少なくともアテトリア王国ではワイバーンと他数種類の魔物がいるだけ。
 ワイバーンはその中でも強力な魔物なので、天敵がいないとも言える。

 そのため、向かって来るワイバーンを迎撃するならまだしも、エルサがやっているように空を移動しながら攻撃をして、簡単に斬り裂いている現実がワイバーンにとって理解できないんだろう。
 慌てているのか、逃げようとしてお互いがぶつかっているワイバーンもいる……もちろん、エルサはそんな隙を見逃すはずもなく、ぶつかって動きが鈍ったワイバーンはもれなく翼の刃で斬り裂いた。
 やっぱり俺、必要ないかもしれない。
 あと、ワイバーンはやっぱり魔法が使えないタイプらしく、エルサの速度に付いて来れないのも大きいか。

 当然追尾するミサイルだとか、バルカン砲だとかはないし、エルサが期待していたよな気がするドッグファイトのような戦闘にはなっていない。
 一方的な蹂躙だねこりゃ……なんて、耐えながらなんとか見える範囲で周囲を確認しつつ考えていると……。

「あ……だわ」
「え? ど、どうしたんだエルサ?」

 空にいたワイバーンが半分くらいになった頃、突然高度を上げた後に静止するエルサ。
 多分また、急降下しつつ攻撃しようとしたんだろうけど……止まったのはなんでだろう。

「ちょっと調子に乗り過ぎたのだわ。魔力が危険で危ないのだわー」
「魔力って……エルサも、あんまり俺のこと言えないよな」
「リクみたいな、やり過ぎで失敗はしていないのだわ! でも、そろそろ魔力が足りなくなりそうなのだわ」

 調子に乗っていた自覚はあるのか。
 それはともかく、失敗という程の事かは置いておいて魔力が残り少ないって事は、翼を刃にしていたのはそれなりに魔力を使うって事か。
 ……速度を出したり、バレルロールよろしくグルグルと体を回転させていたせいもあるかもしれないけど。

「魔力が足りなくなったら、飛べなくなるんじゃ……?」
「そこまではまだ大丈夫なのだわ。けど、さっきみたいに気持ち良くワイバーンを倒せないのだわー」
「エルサが気持ち良くなっている間、俺は気持ち悪くなっていたけどね……」

 今も、若干気分が悪い……というか、油断すると胃の内容物がこみ上げてきそうだ。

「軟弱なのだわー」
「……あんな動きをされたら、慣れていないと誰でも辛いよ。まぁそれは後で話すとして、まだ飛べるのは間違いないんだな? さっきのような動きをする必要はないけど、速度を出したりは?」

 ジェットコースターに連続で乗っている方が、まだマシなくらいだったんだけど……それで軟弱と言われるとは。
 ともかく、空中戦闘機動は必要ないけど、ワイバーンの間を縫って移動するくらいはできるのかは気になる。

「飛ぶのは問題ないのだわ。ワイバーンを斬り捨てられるないくらいで、それなりに速度を出すのは問題ない……と思うのだわー」
「思うって、ちょっと不安があるけど……はぁ。仕方ない。それじゃ残りは俺がやるよ」
「任せるのだわ」

 不安が残るエルサの返答だけど、残りのワイバーンは俺がどうにかするしかない。
 本当なら、エルサと協力してと思っていたんだけど……ここからのエルサは、乗り物役に徹してもらう事にしよう。

「それじゃ……って、エルサ!」

 これまで、エルサの軌道に付いて来れなかったワイバーンだけど、動きが止まればその限りじゃない。
 恐慌状態なのは変わらないけど、やけくそみたいに突っ込んで来るワイバーンが一体いた。
 それに気付いて、エルサに鋭く声を掛ける。

「わかっているのだわ、遅いのだ……」
「完全に避けるんじゃなくて、横をすり抜けるようにしてくれ!」

 エルサの言葉を遮り、余裕を持って回避のために離れようとしていたエルサに向かって指示する。

「リクは注文が多いのだわー」
「GURAAAA!!」
「でも、それをやってくれるのがエルサだろ? っ!」

 文句を言うように呟きつつも、俺の期待通りに動いてくれるエルサ。
 顎(あぎと)を開き、飛んで来る勢いのままこちらを噛みちぎろうとしているワイバーン……その狙いから左に少しズレてすぐ横を通過してくれる。
 すれ違う瞬間、軽く剣を振る……狙いはともかく、エルサとワイバーンの勢いがあるから鋭く剣筋を通す必要はない。
 ただ、当たった時の衝撃や勢いに負けて剣を落とさないよう、柄を持つ力を込めるだけ。

「GYA……」

 悲鳴を上げようとしたのか、ワイバーンが一瞬だけ声を出したがすぐに途切れる。
 俺の剣は、ワイバーンの開いた顎の上下の間に滑り込み、顔から首、胴体を斬り裂いた。
 すれ違い、後方を振り返ると力尽きたワイバーンが地上へ落下していくのが見える。
 さすがに再生能力が強くても、顔や首を半分に斬られたら再生なんてできない。

「よし、今の感じで行けそうだ。っと、またこちらに向かって来ているのがいるね、逃げようとしているのもいるけど」

 こちらから向かって行って倒す方法を確立していると、さらに数体のワイバーンがこちらに向かって来ていた。
 他にも、残ったワイバーンは相変わらずお互いがぶつかったり、逃げようとしたり、どうしたらいいかわからず動かないのもいたりと様々だ。

「動きが鈍ったとでも思っているのだわ? 浅はかなのだわー」

 さっきまでの戦闘機動をしていないから、鈍ったと判断したのかもしれないし、闇雲に向かって来ているのかもしれない……そのあたりは、ワイバーン自身にしかわからないだろうけど。

「エルサ、さっきみたいにワイバーンに近付いてすれ違うようにしてくれるとありがたい。できれば、首付近を通過してくれると助かる!」
「やっぱり注文が多いのだわー。けど、任せるのだわ!」
「よし……行くぞ!」
「だわー!」

 俺が限界まで手を伸ばしても、剣の届く距離はエルサの翼より短い。
 そのため、今まで以上に接近してもらうように指示を出す。
 どれだけ機動力が勝っていても、剣が届かなかったら意味がないからね。
 そうして、ようやく俺が当初考えていた空でのワイバーンとの戦いに入った――。


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