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知らない間に指示者はいなくなった
しおりを挟む「オロオロしているのだわ?」
「よく見えるなぁ……」
ワイバーン達の動向を少しだけ見ていると、首を傾げるようにエルサが言った。
俺からは数が集まっているなぁ……くらいにしか見えないんだけど、俺より遠くまで見る事ができるエルサにはなんとなくわかるみたいだ。
「んー、多分だけどサマナースケルトンがいなくなったり、南側の魔物がいなったからじゃないかな? 誰か命令する人とかがいれば、すぐに収まるかもしれないけど」
見る限り、魔物を含めて何者かを乗せているようなワイバーンはいなさそうだ。
元々ワイバーンに指示をしたり、魔物を集めさせた人物とかがいれば落ち着かせているんだろうけど、その様子もないようだ。
「そういえば、リクは知らないのだわ」
「え、何が?」
「ワイバーンに命令したり、今回の事を企んで実行した人間はもういないのだわ」
「え……?」
どういう事だろう。
魔物が群がっている後ろとかに隠れて、指示しているもんだとばかり思っていたけど……南側で、スピリット達によって魔物達と一緒にやっちゃったとか?
いやでも、それならエルサが知っているのもなんとなく違うだろうし、スピリット達が何か言って来るはず……。
あれ、でもそういえば俺が戻って来た時、東側で魔物が群れている後ろから突き抜けたけど、その時には人間とかあいるような感じじゃなかったっけ。
「最初に街が魔物に囲まれた時、東西南北が囲まれたのだわ。西側はすぐに突破したのだけどだわ」
「うん、それは聞いているけど……」
「東側も、少し押し返してあのリクが作った壁の辺りを確保したのだわ。その時、数人の人間が死んでいたのだわ」
「え!? でも、その人達は魔物が押し寄せた時に、巻き込まれた人なんじゃ?」
センテが魔物に囲まれた日の詳細は、破壊神に隔離されていたので知らないけど、街の外に人が出ている事だってあるだろう。
そういった人が、巻き込まれて魔物達にやられたって事だって考えられる。
「よく考えるのだわ。あの場所は、兵士達がいたのだわ。一般人はいない場所なのだわ」
「あ……」
そうだ、あの場所は訓練に使うからと、侯爵軍の兵士さん達が使っている場所だった。
付近で野営をしていたし、一般の人が早々近付くような場所じゃないだろう。
「兵士でもない死んでいた人間は、あからさまに怪しいローブを着ていたらしいのだわ。私も直接は見ていないのだけどだわ」
「そりゃまぁ、エルサも俺と一緒に破壊神から隔離されていたからね」
「魔物がきた時、数が多くて一旦街の中に兵士は後退したらしいのだわ。そして、その後押し返したら兵士ではない人間が死んでいたのだわ」
「……成る程」
「細かい事はわからないけどだわ、リクが戻ってくるまでに話を聞く限りでは、証拠らしい物も持っていたらしいのだわ。私はそれが何かは聞いていないけど、そのうち聞いてみるといいのだわ」
「そうだね……証拠か。何かあったんだろうけど、まぁ落ち着いたらシュットラウルさんやモニカさん対に聞けば、教えてくれるだろうね」
まぁ、確実に一般人じゃないのが確定しているって事は、関係者である可能性が高い。
周到に計画して、実行した人物達が用意した魔物にやられているなんて……とは思ったけど、もしかすると組織から捨て駒にされたのかも、なんて考えてしまう。
クラウリアさんから聞いた話や、モリーツさんが味方のはずの人にやられたのを考えると、そういった事をする組織なのは簡単に想像できる。
証拠物といい、なんらかの理由でセンテに近付く必要があったのかもしれない。
「まぁ、落ち着かせる誰かがいないのなら、今は逆に好都合かな?」
「別にまとめてかかって来ても問題ないけどだわ、やるなら今なのだわ」
「そうだね。ワイバーンには悪いけど、こっちも余裕がある状況じゃないからね」
狙ってやったわけじゃないけど、スピリット達が作ってくれた機会とも言える。
それを無駄にする余裕は、魔力的にも時間的にもないので、利用させてもらおう。
「よし、地上からのワイバーンも、ほとんどいなくなったみたいだ。ここにいるのはあれがほとんどだろうから……行くぞ、エルサ!」
連続で空に浮かんで来ていたワイバーンも、今は途切れがちになっている。
完全に集まったら落ち付きを取り戻すかもしれないし、すぐに突撃を……とばかりに、剣を抜いてエルサに号令。
もちろん使う剣は、魔力を使う剣だ。
ボロボロの剣は今日は持って来ていないから。
「応、なのだわー!」
俺の号令に応えて、静止していた状態から一気に加速するエルサ。
備えていたから大丈夫だったけど、油断していたら振り落とされそうだった……危ない危ない。
って、あ……。
「ちょ、ちょっと待ったエル……!」
「空の支配者が誰なのか、教えてやるのだわー!!」
「うっ! あぁぁぁ!」
ワイバーンに向かって、一直線に飛ぶエルサは羽ばたいていたモフモフの翼を、真横に伸ばして風を切るための体勢に入る。
嫌な予感に気付いて止めさせようとする俺の声を遮り、ノリノリ状態のエルサが叫んで空中を回転。
エルサのモフモフにしがみ付いてなんとか落ちずに済んでいるけど、加速と共に追加された回転によって、安全装置のないジェットコースター以上の遠心力やGが全身に襲い掛かって、思わず叫ぶ。
とんでもない速度で直進、とんでもない回転……体を押さえるベルトなどもないから、とにかくエルサにしがみ付いておくしかできない。
こんな状態じゃ、ワイバーンに接近しても剣を振る事もできないじゃないか!
「ちょ、エルサ! ま……!」
「行くのだわー! まずはそこのトカゲ野郎! なのだわー!」
「GYA!?」
「GYU!?」
止めようと、なんとか悲鳴を抑えて叫ぼうとするが、それもむなしくエルサの叫びにかき消される。
そのまま、ワイバーンの群れ……向かう俺達の一番近くにいたワイバーン二体の間をクルクルと回転しながらエルサが通過。
ワイバーンは状況がわからなかったんだろう、悲鳴のような驚きのような声を一瞬だけあげて、両翼と手足が胴体と切り離され、そのまま地上へ向かって落下した。
って、え?
「これが空中戦闘機動なのだわー! 気持ちいいのだわー!」
ワイバーンが落下していくのとほぼ同時、機首……もとい顔を上げて高度を上げるエルサ。
ようやく回転が止まってくれた……。
「ちょ、ちょっとエルサ、今のどうやったんだ!?」
「横にした翼で斬っただけなのだわ。通過する時に、ちょちょいっと動かしたらバラバラになったのだわ」
「バラバラにって……」
回転による気持ち悪さが胃の底から込み上げてくるのを耐え、エルサに叫んで聞くとなんでもない事のように答えられた。
翼、あんなにモフモフなのに、ワイバーンくらい皮膚が硬くてもお構いなしに斬れるのか。
これ、俺必要なくない? いや、ここに来ようとしたのは俺自身だけど。
「それじゃ、次に行くのだわー!」
「うぇ!?」
上昇して眼下にワイバーンを臨み、体制を変えて再びワイバーンへエルサが突撃した――。
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