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兵士駐屯地ならぬワイバーン駐屯地
しおりを挟む「それは大丈夫です。あらかじめ聞いて確認していますから」
「リク様が仰るのなら、信用します。わかりました。では、私達は南門周辺でこのワイバーンに乗っているので……」
「はい、飛んでいるワイバーンを目印に、合流するように言っておきます」
アマリーラさんに頼んだのは、後片付けや素材回収の時間短縮をと考えての事だけど、試験的にワイバーンでの輸送をしてみようという考えからだ。
人を乗せて飛べるのはもちろんながら、物を運ぶのはどうなのか、俺がいない場所ではどうなのかとかを試すつもりだ。
アマリーラさん達なら、万が一ワイバーンが暴れたとしても対処できるからってのもある。
まぁ、強制だったとはいえ魔物を運んでいたのだから、輸送できるかどうかに関しては大丈夫だと思っているけど。
「それじゃ、アマリーラさん、リネルトさん、よろしくお願いします」
「はっ! リク様達もご武運を!」
「またですよぉ~」
アマリーラさん達に今後の事をお願いして、俺達は街北へ向かう。
敬礼しているアマリーラさんに苦笑しつつ、尻尾と手をフリフリしているリネルトさんに、モニカさんと手を振り返して、ボスワイバーン達を引き連れて移動を再開した。
それにしてもアマリーラさん、ご武運をとか言われてももう俺が戦う機会はなさそうなんだけどな……シュットラウルさんから止められているし。
色々と頑張ってといった、アマリーラさんなりのエールの送り方だと思う事にした――。
アマリーラさん達と別れた後、南門の上空を通過して街北へ。
途中、というか南側の門上や外壁上から、俺達を見上げて手を振る人が結構いた。
意外とワイバーンは受け入れられているのかもしれない、俺が連れている事や、アマリーラさんが今も活用しているおかげかもしれないけど。
「侯爵様から窺っております。ワイバーンが……計三十二体ですね。こちらは、絶対に手を出さないよう厳命しておきます!」
「はい、すみませんがよろしくお願いします。あと、ワイバーン達はあまりお腹が減らないみたいで……」
街北の広場……モニカさん曰く、空き家など使われていなかった建物を急遽取っ払って、別の広場と繋げて大きなスペースを確保したらしい場所。
そこに数多く並んでいる、兵士さん達用のテント……ゲルと呼ばれる丈夫な物に近い場所が、ワイバーン達の待機場所になった。
俺達が来る事を知らされていた兵士さんの誘導で、全てのワイバーンが降り立ち、その光景に多くの人が驚いていたけどそれはともかく。
数を数えて受け入れ許可をもらい、食べ物などワイバーンに関する話をする。
食料に関しては、今の所大きな問題にはなっていないけど、やっぱり不足しがちのようでワイバーンがしばらく食べないでもいいと聞くと、凄く助かると言われた。
センテは元々備蓄食料が多いとはいえ、他の村などのとの農作物を輸送する街道は魔物達に塞がれているから、新しく入って来る量が少ないからね。
長期間続けば、不足し始めるのも当然だ。
今は、ヘルサル側からの輸送にある程度頼り出しているとか……まぁ、王都からの援軍が来たら支援物資も持って来てくれるらしいので、切羽詰まっているという程ではないんだけど。
とにかく、ワイバーンの居住スペースを決め、兵士さん達のテントや居住スペースに許可なく侵入する事は禁止、当然人間だからと襲い掛かるのも禁止。
兵士さん側も、敵意を持ってワイバーンに接するのは禁止、ワイバーンの居住スペースに許可なく侵入するのも当然禁止と、お互いの住み分け条件のようなものを取り決めた。
ボスワイバーンに伝え、そこから他のワイバーン達にも伝わって行っているから、大丈夫そうだ。
もし問題が起これば、すぐさま俺やシュットラウルさんに報告が行くようになっている。
「あ、あともう二体別にワイバーンがいるんですけど……」
「はっ、そちらもここへ来られた際には、受け入れるよう手配しておきます」
宿でカイツさんといるワイバーンと、アマリーラさん達の乗っているワイバーン……すぐこちらに来る事はないと思うけど、一応伝えておく。
今いるのが三十二体で、貸出ている状態なのが二体、ボスワイバーンを含めると合計で三十五体か。
結構増えたなぁ……。
「それとリク様、ワイバーン達が過ごす場所に日除けはどういたしましょうか? さすがに、全てのワイバーンが入れる程の物は用意できないようですので……」
「あー、そうですね……」
日除けかぁ……ワイバーン達は日差しを気にしていない様子ではあるけど、休むなら日陰の方がいいよね。
森の中でも、木陰になっている所を選んで寝ていたみたいだし。
それに、もし雨が降って来た時にも雨除けにもなるから、ないよりもあった方がいいと思う。
ただ、兵士さん達のテントに大量の布を使っているため、ワイバーン用に用意するのが難しそうだ……人間より体が大きいから、結構大きな布をお張らないといけないからね。
「ボスワイバーン、日除けに関してなんだけど……」
「ガァゥ? ガァガァ……」
通訳はしなかったけど、仕草と声だけでボスワイバーンに聞いてみる。
ちょっとした事なら、それだけでも結構わかるもんだ……ボスワイバーンが他のワイバーンと違って、鳴き声もわかりやすいからかもしれないけど。
「成る程成る程……すみません、数体が入れるくらい用意はできますか?」
「数体ですか。それでしたら問題ありません」
ボスワイバーンに聞いた内容によると、起きているうちは特に日差しは気にしないので、寝たいワイバーンだけ日除けがあればいいだろうとの事。
当然日差しがあるのは日中に限られるから、夜は特に必要ない。
それに、日差しがあるのも好きなのがいるらしく、体の表面が完全に乾燥しなければ日に当たったままでも問題ないと。
体の表面が乾燥すると何か問題があるのか、と聞いてみるとそちらは、直接的に何かあるわけではないけど、皮膚が脆くなってしまうのだとか。
乾燥して脆くなる……乾燥肌がカサカサになるような感じかな? よくわからないけどとりあえず納得する事にした。
ちなみに、乾燥するにしても数日一切動かずに日に当たる場所で寝ていたら、といった程度らしいので、あまり乾燥するかを気にしなくてもいいようだ。
それなら、定期的に水を掛けたり自分でなんとかできるだろうからね。
あと雨に関しては、むしろそのまま雨ざらしになる方がワイバーンとしてはいいらしい……これは多分、体の表面が乾くかどうかにも関わるんだろう。
あと、見た目が羽根が生えて大きくなったリザードマンっぽくもあるから、妙に納得してしまった。
ワイバーンはそうではないんだけど、リザードマンって表面がぬめっとしていて、湿地帯を好む魔物だからね。
「おい、至急日除けを作れ! 今ある布を使うだけでいい! 急げ!」
「「「はっ!」」」
俺と話していた兵士さんが、待機していた他の兵士さんに指示を飛ばして、ワイバーン達の日除けの作成が始まった――。
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