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苦しむ人達の声

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 移動中、俺に話し掛けて来る街の人達は感謝以外にも……。

「そういえば、魔物が空から侵入しようとしていたと聞きました。大丈夫なのでしょうか?」
「リク様がいれば、空から来ようとも関係ないですよね。なんたって飛べるんですから!」

 という話もされた。
 おそらく、ワイバーン達を連れて空を飛んでいるのを目撃した人達だと思う。
 一応、不安そうにしている人達には俺から簡単に説明させてもらい、不安を取り除くようにはしていたけど……俺、さすがに自力で空を飛んで戦ったりした事はないですからね?
 いや……もしかすると魔法のイメージをちゃんとすれば、飛べるのかな? まぁ、今考える事じゃないか。

 ともあれ大体の人が、俺がいるから、俺に任せれば、といった事を言っていたのが印象的だった。
 他の人の頑張りをないがしろにしているわけじゃないんだろうけど……もしかすると、シュットラウルさんが言っていた頼りきりになってしまう意識って、こういう事なのかもしれないな。
 話した人には、今もまだ兵士さんや冒険者さん、街の人達皆が頑張っている事を話すようにしていたけど、伝わったかどうか……。

「ここが、そうなんだね」
「えぇ……」

 兵士さん達の駐屯所のように、いくつかの建物を崩して作った形跡の見られる広場に、テントが立ち並んでいる。
 多くの人が行き交い、忙しそうにしているのが離れている俺とモニカさんにも見えた。
 ……行き交っている人達、特にテントに出入りしている人を見ると、服がかなり汚れているのが見て取れる。
 多分、できる限りの治療を試みているからだろう。

「楽に、楽にしてくれぇぇぇ!」
「いやだ、いやだぁぁぁ!!」
「落ち着いて下さい! ここには魔物はいません! 気をしっかり持って!」
「おい! そっちはどうなっている!」
「駄目です! もう息が……!」
「どうして、どうしてこんな事に……!」

 離れているにもかかわらず、あちこちのテントから色んな声が聞こえる。
 それは、苦しむ人の声だったり、治療に当たる人の怒号や嘆きだったり……もしかしたら、怪我をした人の親族もいるのかもしれない。
 他にも言葉にならない声、うめき声なども聞こえる。

「私はある程度見てきたし、酷い怪我をした人をここまで運んだ事もあるけど……やっぱり慣れないわね」
「そうだね……想像していたよりも、きついかな」

 目を伏せて言うモニカさんに、俺も頷いて同意する。
 ただ、慣れないと言うモニカさんだけど……この状況には慣れちゃいけないと思う。
 慣れた方が辛くないとはわかっているけれど、それでも心を慣れさせて平気になるよりは、耐える方がいいんじゃないかな。
 あくまで、俺の考えだけど……それに、同じ状況を何度も見ていたら、強制的に慣れてしまうのかもしれないけども。

「うぅー……あぁ……」

 痛みに耐える唸りなのか、それとも意識を失ってもなお痛みや悪夢にうなされている声なのか……。
 聞こえて来る声に顔をしかめながらも、自分で望んでここに来たんだから、止まってちゃいけないと歩きだす。

「あ、リク様! こんな所に来られて、一体どうされたのですか!?」

 行き交う人達のうち、一人の女性が折れに気付いて声をかけてくれる。
 その女性も、服だけでなく肌の出ている場所に、赤い、または乾いてこびりついた茶色の何かで汚れていた。
 ……何か、なんて濁す必要はないか、間違いなく怪我人の治療による汚れで、血だろう。
 髪もこびりついた血で汚れているけど、洗い流しているような余裕がないんだろうな……目の前の女性が、一心に怪我人の治療をしているんだと、その様子から見て取れる。

「え、えーっと。俺に手伝える事はないかなって……」
「リク様にですか!? そんな、リク様のお手を煩わせるような事は……!」

 女性は驚きながら、俺が手伝うのは畏れ多い……といった反応だ。

「いえいえ、気にしないで下さい。できる限りの事はするつもり……あ、ちょっとすみません。ここ、怪我していますね?」
「あ、は、はい!? ち、小さな傷なので……もっと大きな傷を負って、手当てを待っている人達がここにはもっといます。私の事など些末な事です……!」
「ちょ、リクさ……はぁ、仕方ないわね。これもリクさんらしいのかしら、そういう意味はなさそうだし……」

 女性と話している途中に、右手の甲を怪我しているのを見つけた。
 近付いて手を取り、驚く女性の声を近くで聞きながら怪我の具合を見る……爪でひっかいたような跡だね。
 モニカさんは、女性の手を取った俺に何か言いかけたけど、途中で諦めた。
 どうしたんだろう?

「小さな傷でも、簡単な応急処置くらいはしておいた方がいいと思いますよ? これは、どのようにして?」

 小さくとも傷をそのままにするのは、感染症とか不衛生とか、油断できない事になりかねない。
 そこまでの事を考える余裕がないんだろうけど。

「そうかもしれませんけど……これは、怪我をした人が手当てをしている途中で暴れて、それで……」

 痛みや錯乱など、酷い怪我をした人が暴れる事だってあるんだろう。
 それでも懸命に、自分の怪我を放っておいて治療に専念しようとするこの女性には、頭が下がる思いだ。
 今でも周囲を忙しなく行き交っている人達、全員そうなんだろうな。

「成る程……」

 女性に頷きながら、頭の中で魔法にイメージを構築。
 ある程度使い慣れた魔法だ、結界程じゃないけど失敗はしないはず……。
 女性の手の甲に、俺の手の平を触れさせて……魔力を変換させて魔法を発動!

「……ヒーリング」
「え、は……?」
「んー、うん。もう大丈夫そうですね」

 魔法名を小さく口ずさみ、ぼんやりとした緑色の光を確認。
 戸惑っている様子の女性をそのままに、数秒待って、触れさせていた手を離して女性の手の甲を見てみると、傷跡すらなく綺麗になっていた。

「え……そんな、あんな一瞬で傷が……?」
「一応、こういう魔法が使えるんです。どこか他にも痛い箇所はありますか?」
「いえ……あ、あれ? そういえば、他にも小さな傷になっていたところも、痛くないような……?」

 俺に言われて、呆然としかけながら自分の体に意識を向けた女性。
 やっぱり、他にも傷を受けていたかぁ……まぁ、自分の事そっちのけでこんな過酷な場所で手当てをしていて、手の甲しか怪我をしていないなんて事はないよな。
 それにしても、自己治癒能力を増幅させる魔法だからか、触れていた手の甲以外の傷も治っているのか……傷が小さかったせいもあるんだろうけど、体全体に効果があるんだろう。

 予想外とは言わないけど、思っていたより効果の幅は広いのかもしれないね。
 ユノやエルサを実験に付き合わせた甲斐があった、かな? まぁ、それはすでにエルフの村で成果を出しているけど。

「今やって見せたように、これなら何か手伝える事があるんじゃないですか?」
「た、確かに……こんな、一瞬で治療できるのであれば、助かる人が、生きられる人がたくさん……う、うぅっ!」
「え、あ、ちょ、ちょっと!?」


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