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泣いている女性に弱いリク
しおりを挟む「あーあ、リクさんが女の人を泣かせたわー」
「まったくリクは、見境がないからなのだわー」
治療の手伝いができる、助けになれる事の証明の意味もあって魔法を使って見せたんだけど……何をどうしたのか、女性が急にポロポロと涙を流して泣き始める。
それを見て焦る俺に、モニカさんと頭の上のエルサから場にそぐわない、咎めるような茶化すような事を言われた。
「う、うぅ……!」
「あ、いや……泣かせるつもりは……」
両手で顔を覆って鳴き続ける女性を前に、モニカさん達から言われたのもあってわたわたしてしまう。
泣いている女性に、どう対応したものかなんて一切わからないし、突然だったから。
「はぁ、リクさんは仕方がないわね。……大丈夫ですよ、ほら。張りつめていて、安心しただけですよね?」
「は、はい……うぅ、すみません……」
「いいんですよ」
溜め息を吐いたモニカさんが俺と場所を代わり、優しく女性を抱き締める。
背中を撫でながら、慰めるモニカさんの腕の中で頷く女性……成る程、こうすれば良かったのか。
っても、さすがに男の俺が初対面の女性を抱き締めるわけにはいかないからなぁ。
「はぁ……モニカさんがいてくれて助かったよ」
「リクは、もう少し女の子の扱いに慣れた方がいいのだわ。私の事も、もっと丁寧に扱うのだわー」
少し離れて、息を吐きながらわたわたしていた自分を落ち着かせていたら、エルサから溜め息交じりに言われた。
「そう言われてもな……というかエルサは女の子って年」
「……何か言ったのだわ?」
「イエ、ナンデモアリマセン、デスマス」
確かに、もう少し慣れた方がいいのかもしれない……不用意にデリカシーのない事を言いそうになった俺を、エルサがくっ付いている頭を、ギリギリと締め付けられる。
思わず、ボスワイバーンのような口調で謝った。
「すみません、急に泣き出してしまって。困らせてしまったようで……」
「いいんですよ。それだけ、怪我人の手当てに必死だったって事ですから」
「そ、そうですよ。気にしていませんから」
少し経って、ようやく泣き止んだ女性がモニカさんから離れ、深々と頭を下げる。
モニカさんは最初からだけど、俺もこの段階になれば何故泣き出したのかも理解できているから、気にしていない。
というか、それだけ怪我をした人達の手当ては過酷だったわけだし、何人もの助けられない人を見てきたって事でもあるんだろう。
「ありがとうございます。年上の方に抱き締められるのも、ちょっと恥ずかしいですね……いえ、年齢とかは関係ないかもしれませんけど」
年上……モニカさんの事だろうけど、女性の方が年齢が下だったのかぁ。
なんて思いつつ聞いてみたら、まだ十五歳にも満たないらしい……女性というか、女の子だね。
服だけでなく、髪や顔も汚れていたので年齢がわかりづらかった。
というより気を張っていたからだろう、俺からは年上に見えるくらい大人びて見えていたからなぁ。
幼いとも言えるくらいの年齢の子が、ちょっと緩んだら泣き出してしまうくらい張りつめて怪我人の手当てをしていると考えると、沈痛な思いだ。
人手が足りないんだろうな……と思ったら、自分で志願したらしい。
それだけ、誰かを助けたい気持ちの強い女の子なんだと、モニカさんと二人で感心した。
「全てを助けられるわけじゃないけど、できるだけの事はやってみるよ」
「はい! 少しでも助かる人が増えるのなら、私は嬉しいです!」
笑顔で頷いてくれる女性……女の子は、まだ満面の笑みじゃないのは仕方ないか。
絶対に全員を救えるなんて、俺にも言えないし……そこまでの事はこの子も期待していないだろうから。
それでも、数人だろうと全体から見れば少なくても、できるだけの事はしてみせる。
密かな決意をしつつ、女の子の案内で怪我をして運び込まれた人の所へと向かった。
「……」
「これは……」
怪我人がいるテントに入って、絶句する俺とモニカさん。
テント内はそれなりに広いんだけど、敷物の上に寝かされている人達が所狭しと並んでいる。
パッと見てわかる程、酷い怪我をしているのはエルフの村で見たのと近いけど、人数はそれ以上だった。
外にまで聞こえる程、叫んだり唸ったりしている人達もいて……意識があるのかないのか、静かに横になっている人はまだましな方。
怪我を負った時の恐怖からか、痛みもあってなのか、錯乱して暴れようとしている人が手当てに当たっている人達に抑えられていたりもした。
一言で片づけたくはないけど、いうなればただただ凄絶(せいぜつ)。
手足が折れていたり一部がない人はまだマシな方で、お腹を魔物に食いちぎられたのか、見えてはいけない物が見えている人も。
「あ……」
絶句している俺達の横を、布でくるまれた人が運び出されて行く……。
布が足りないのか、完全に全身を覆えていなくてチラリとどうなっていたのかが見えた。
顔の一部どころかほとんどが焼けただれていたんだ……他にも傷を負っているかはわからなかったけど、助からなかったんだろうな……。
「必死なのもありますけど、見ていたら段々と何も感じなくなっていくんです。そして、気付けば手当てのしようがない人と、助かる可能性がある人を、選別しています。本当は、全員助けてあげたいのに、手当てしてあげたいのに……」
「それは……うん、そうなんですね」
隣にいる女の子が、テント内の様子を見ながら淡々と語るのに、俺はわかるなんて軽々しい言葉を掛けてあげられない。
慣れてはいけないと、女の子と会う前に考えていたけど……慣らしてしまわないといけない事だって、あるのかもしれないな。
よくわかっていない俺が、偉そうにわかった事を言うわけにはいかないから。
「とにかく、治療をしてみるよ」
俺にできる事は、魔法を使って助けられる人を助けるだけ。
「はい、よろしくお願いします。少しでも、一人でもリク様の力で救ってあげて下さい……」
「……うん」
女の子は、再び深々と頭を下げた……その手はギュッと、力強く握られていた。
「リクさん、この人なら!」
「うん、なんとかなると思う。頑張ってください、すぐに楽になりますから!」
「う、うあぁ……」
モニカさんがこのテントの責任者らしき人と女の子と一緒に話し、俺が怪我人を治療する許可を得た。
そうして、俺の治癒魔法で治療できそうな人を探し、どんどん治していく。
部位欠損した人は、放っておけば出血などで危険だけど、治癒魔法でなくなった部分を再生してやれば大丈夫。
千切れたり切れたりした段階のショックでも、まだ意識を保っている人をモニカさんが見つけ、唸るその人に声を掛けながらヒーリングの魔法をかけてあげる。
テント内に緑色の魔力の光が溢れ、なくなっていたはずの腕が再生し、顔色も良くなっていく。
激しい痛みがなくなったからか、安らかな表情になって意識を失ったけど、規則正しい呼吸をしている。
よし、この人はもう大丈夫そうだな。
「治療した人は、しばらく安静にしていれば起きると思います!」
「畏まりました! 誰か、手伝って!」
「はい!」
治療した人は、別の場所で安静にして休んでもらうために、手当てに当たっていた人に声をかけて、運び出してもらった――。
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