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ロジーナと隠し事
しおりを挟む「まったく、子供の姿なのをわかっていて、使い分けるんだから厄介だよ……はぁ。変な噂が広まらなければいいけど。誤解されるような事だけ、周囲に聞こえるように大きな声を出すんだから……」
「リクの噂なら、もう散々広まっているのだわ。これ以上別の噂が広まっても、特にどうという事はないのだわ?」
センテを見て回る道中、溜め息交じりにエルサと話す。
なんだか、途中の誤解しか生まないロジーナの言葉のせいで、異様に疲れた気がする……精神的な事なんだろうけど。
破壊神がどうのという話は、それなりに小さめの声量で話していたから、騒がしい場所だった事もあって誰にも聞こえていなかっただろうけど、俺をお兄ちゃんと呼ぶ時に限ってわざと叫ぶようにしていたからね。
……離れてから気付いたけど、絶対に外に聞こえないように結界を張っておけば良かったと、後悔もしている。
「それはそうかもしれないけど……でも、知り合いの耳に入ったら嫌だよ」
俺に関しての噂は、国中に広まっているのはもうすでにわかっている事だけど、尾ひれに背びれが何重にも付いているような、荒唐無稽な噂もあるのを確認している。
虚実入り混じっている状態で、その中に別の噂が一つ混じるくらいだから、エルサの言う通りどうって事はないんだけど……戦争に向けて、国民がそちらに意識を向け始めているから、俺の噂自体も下火になっているようだし。
とはいえ、それでもさすがに知り合いの耳に入って、さっき近くにいた兵士さん達のように、ドン引きされたり嫌悪感混じりの視線を向けられるのはさすがに嫌だ。
特に、モニカさんには知られたくない……真実どころか誤解でしかないんだけど、それでもね。
「まぁ、リクに関する誤解は私には関係ないのだわ。それよりもリク、あの破壊神……面倒だからロジーナと呼ぶのだわ。そのロジーナだけどだわ、何か隠していたのだわ」
俺にとっては大問題なんだけど、エルサにとっては興味の薄い事のようだ。
ともあれ破壊神の事……ロジーナ呼ぶ事にして……エルサもやっぱり同じ事を感じたようだ。
「俺もそう思ったよ。隔離されていた時と違って、時間稼ぎをしなくていいからなんだろうけど……話したくない事がある様子だったね」
口ごもったり、誤魔化したり……何度も目を逸らしたりもしていた。
隠し事が苦手なのかはわからないけど、言えない何かがあるんだと思わせるには十分だ。
「どちらかというと、俺を魔物達がいる東門付近に近付かせたくないみたい……だったかな?」
「リクが戦わないからとか、臆病者呼ばわりまでしていたのにだわ。言っている事が矛盾しているのだわ」
俺が戦わない代わりに、魔物と戦っているとロジーナは言っていたけど……だったらなんで、俺を近付けたくないんだろう?
会いたくないから、というのは嫌われている様子からわからなくもないけど、それだけが理由だとは思えなかった。
何か、他にあるような……?
「戦わないなら、近付くなって事かな? まぁ、戦わない人間が近くにいても邪魔なだけだろうけど……いや、そうじゃないか」
「邪魔になると言っても、戦わないならリクは魔物に接近はしないのだわ。魔物の群れの中に突っ込むロジーナの邪魔になるとは思えないのだわ。他の人間に気を遣うような、そんな殊勝な性格でもないのだわ」
「そうだよね……」
俺が行くとしても、土壁の内側くらいでどうしてもの時以外は戦わないように注意しているから、それ以上魔物に近付かない。
でもロジーナの戦い方はユノに似ているみたいで、魔物達に突っ込んでいくようだから、俺が邪魔になる事なんてないだろう。
まぁ、兵士さんや冒険者さん達の邪魔にはなるかもしれないけど……エルサが言っているように、それを気にするような様子はないからね。
気にするなら、最初からロジーナを止めようとした兵士さん達を、殴り飛ばして強行突破した挙句に、魔物達の所へ突撃なんてしないし。
「何か焦っているようにも感じたのだわ。……そういえば、自分の身のためとも言っていたのだわ」
「言っていたね。人間になったから、人間の中に混ざるためにだけかと思っていたけど……何かあるのかもしれない」
「そこらの人間じゃ、相手にならないのだわ。だったら、人間の味方をする事で自分の身の安全を……と言うわけではないのだわ?」
「……そうか。いくら魔物の味方をした場合に、人間から排除される可能性があるとしても、ユノと同等ならどうにでもできるよね」
ロジーナの腕前見ていないからわからないけど、多分ユノと同等の強さだと考えて良さそうだ。
話に聞いている戦いだけでなく、ユノと表裏一体みたいな話だからって想像だけども。
ただそう考えた場合、さすがに国の軍隊全てを相手に……とまでなると話は別かもしれないけど、そこらの人間には絶対に負けないはず。
だったらわざわざ人間に混ざらなくても、破壊神らしく行動する事だってできたはず。
それなのに、人間の味方をして魔物を俺の代わりに倒すよう、協力しているのには何か理由があるのは間違いない。
まぁ、その理由がまったくわからないわけなんだけど。
「俺が魔物に近付いちゃいけない理由がある? いや、戦う事は止める気配がなかったから、そうじゃないか。だったらなぜ……?」
「東側に近付くなって事なのだわ? 魔物だけとは限らないのだわ?」
「うーん、そうかもね。魔物を倒さなくちゃいけないけど、魔物以外に何かある……と。それに、できるだけ早く魔物を倒したい様子でもあった……」
うんうんと唸りながらエルサと推測を重ね、結論が出ないまま、日が沈むまでセンテの様子を見て回った。
その際、兵士さんや冒険者さんとすれ違う事もあったし、王軍も到着したようでそちらの兵士さん……明らかに装備の質が違う人達もいたけど、皆魔物討伐への意気込みを語っていた。
街の人達は、俺がいればと相変わらずの様子だったけど……。
――それから数日……というか二日程でセンテに到着した王軍は、マルクスさん指示の下各地へと配置されて魔物の掃討を開始。
西門と南門の周辺の魔物の探索と掃討、そして、北側は外壁にいる侯爵軍の援護を受けつつ、王軍で包囲殲滅を進めている。
王軍も魔法を使う事があるので、数に余裕があったクォンツァイタを支給。
俺は怪我人が出た際に、治療をしたりワイバーン達を見たり……カイツさんがやり過ぎないように注意しながら過ごしていたけど、北側の掃討作戦は最初だけエルサに乗って空から見守らせてもらっていた。
やっぱり、侯爵軍と王軍だと結構違いがある気がするね……練度とかは、シュットラウルさんが頑張っているのもあって、負けていないように思うけど。
容赦がないというべきかな。
魔物自体は単体だと強くないので、兵士さん一人でも楽々対処できそうだったんだけど、それを数人がかりで確実に止めを刺す。
逃がしたり、不意を突かれないよう十分以上に周辺に気を配りつつ、確実に数を減らして行った――。
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