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呼び出したフレイちゃんとの触れ合い
しおりを挟むスピリットを呼び出すため、俺のおいでませコールにエルサは溜め息交じり、ユノは首を傾げながら地球に遊びに来ていた頃の事を思い出している様子。
確か、西の方でいらっしゃいませの意味を持つ方言とかだったはず……モニカさんは、あまり意味が分からないのかキョトンとしている。
まぁ日本の方言とか使っても、ちゃんと意味が通じるのは地球の、それも日本を知っている人くらいだよね。
他にも姉さんなら、わかると思うけど。
ともあれ言葉の内容はともかく、重要なのはイメージなので魔力の変換と解放と共に、俺の前に炎が現れて少しずつ大きくなっていく。
焚き火の火より大きくなり、一メートル前後の大木さんになったところで、人の形を取り始める。
「チチー!」
「おっと。フレイちゃん、急に呼び出してごめん」
「チチ、チチ―」
完全に人の上半身の形になったフレイちゃんは、俺に勢いよく抱き着いてきたので、それを受け止めた。
エルサやユノが言う通り、俺が呼び出した事を喜んでくれているようだ。
フレイちゃんの体を形作る炎は、フレイちゃん自身の意思で燃やすかどうかを決められるため、受け止めた俺は全く熱くない。
それどころか、ほのかな温かみを感じて安心感すらあるくらいだ。
「……リクさんに懐いているのね。でも、熱くないの?」
「全然。フレイちゃんは意思で、燃やす相手を決められるし加減も上手いみたいだから。敵じゃないなら触っても熱くもなんともないよ」
「チチ! チチー?」
「えっと、フレイちゃんが触ってみる? ってモニカさんに」
現れた人型の燃え盛る炎が折れに抱き着いたからか、驚いている様子のモニカさん。
服も含めて、フレイちゃんに接触している部分が一切燃えていない事を示しつつ、安全だと伝える。
フレイちゃんは、モニカさんの方に燃え盛る髪を持つ中性的な顔を向け、俺の言葉に頷いた後首を傾げた。
頭の中に直接、フレイちゃんの言葉の意味が伝わって来る……ボスワイバーンと、エルサを介しての通訳をしている時と、似た感じだね。
「えっと……大丈夫なら、触ってみたいわ」
少し躊躇する感じのモニカさん。
まぁ人型にはなっているけど、激しく燃え盛っている炎にしか見えないから、触るのを躊躇う気持ちはわかる。
実際には炎の熱なんかもないんだけど、見た目だけでも激しい熱が振りまかれているように感じるからね。
「チチー!」
「大丈夫だよって。触っても、火傷はしないから安心して」
「わかったわ」
フレイちゃんが大丈夫と頷き、俺からも安心させるように伝えるとおずおずと手を伸ばすモニカさん。
やっぱり、炎に触れると考えたら思い切りよく手を伸ばす事はできないか、こればっかりは仕方ないね。
「これは、寒い時に抱き締めて寝たいの!」
「ユノ……いつの間に……」
「チチー」
気付けば、俺に抱き着いている状態のフレイちゃんの背中に、ユノが抱き着いていた。
確かに寒い時なんかは、暖かい毛布よりも安心する暖かさを感じて、安眠にはいいのかもしれないけど……抱き枕や布団代わりってのはフレイちゃんに失礼じゃなかろうか?
当のフレイちゃんは、むしろ誇らし気な声を出していたけど。
「暖かくて……ふわふわしていてとても不思議。ユノちゃんの言う事も少しわかるわ」
そんな中、横からフレイちゃんに手を触れさせるモニカさん。
熱くないと確信できたのか、安心した表情になってすぐに優しくフレイちゃんを撫でるようになった。
モニカさんが言うように、フレイちゃんは不思議な感触だ。
人を触った時の感触や、エルサのモフモフとは違って、そこに確かに存在しているとわかる触れた手応えがあるのに、気を抜くとすぐになくなってしまいそうにも感じる。
綿菓子を触っているような感覚が近いだろうか……? 砂糖じゃないからベタベタしないし、触れた部分が燃え盛る炎に包まれているので、そこには確かに存在する証のような温度を感じるけど。
というか、俺の体に抱き着いている人……もとい赤く燃え盛る炎の塊、その背中に抱き着いているユノに、横から手を出して撫でているモニカさん。
……なんだこれ。
「確か、スピリットは他にもいるのよね? そっちも、似たような感触なのかしら?」
「どうだろう? フレイちゃんくらいしか触った事がないからわからないけど、同じじゃないような気がするかなぁ」
フレイちゃん以外のスピリットがどうなのか、モニカさんはちょっとした興味をそそられているようだけど……触った事がないからはっきりとした事は言えない。
想像だけだと、ウィンドスピリットのウィンさんは、もしかしたらフレイちゃんと似たような感じかもしれないけど、温度は感じなさそう。
ウォータースピリットのウォーさんは、水だから冷たそうで液体の感触かな? そもそもに、女性の体だったから安易に触れちゃいけない気がする。
アーススピリットのアーちゃんは、土だから堅そうだなぁ……アーちゃんには悪いけど、俺が触ろうとしたら喜びそうでも、積極的に触りたいとは思えない。
「チチ?」
「ん、どうしたのフレイちゃん?」
「どうしたのかしら?」
ふと、他のスピリット達の事を考えていたら、空を見上げたフレイちゃん。
それに促されるように、俺やモニカさんも空を見上げる……ユノは変わらず、フレイちゃんの背中に抱き着いたままだ、感触を堪能しているんだろう。
見上げたのが急だったからか、エルサがずり落ちそうになって、俺の頭にがっしりとしがみ付いたのがわかる……けど、空には何もない。
アマリーラさんや兵士さんが乗ったワイバーンのうち一体が、空を飛んでいるのが見えるかと思ったけど、それもない。
「チチ、チチ? チ……チチー!」
「ウィンさん……? 何か、思い出したみたい」
フレイちゃんは、その何もない空に向かって声を発した後、そういえば! みたいな事を言っていた。
何を思い出したんだろう? それに、ウィンさんっぽい相手の事を呼んでいたようでもある。
「チチ、チチチチー!」
「あー……離れちゃったの」
「どうしたのかしら?」
慌てた様子で、俺から離れたフレイちゃんは俺に何かを伝えるように、体の炎をさらに燃え上がらせて叫ぶ。
ユノは堪能していたフレイちゃんが離れてしまって残念そうに、モニカさんは首を傾げた。
えっと、ここからすぐ離れて……って言っているみたいだ。
「えっと、フレイちゃん。少し落ち着いて。何があったの? というか、何を思い出したの? 今、誰かと話していたみたいだったけど」
「チー……チー……チー……」
俺が落ち着くように言うと、小さく声を発しつつ人型の体を上下させるフレイちゃん。
言われた通り落ち着くために、深呼吸をしているみたいだ。
「チチチー、チチ、チチチチチ!」
「さっきのは、ウィンさんがフレイちゃんに呼びかけていたんだね。俺には何も聞こえなかったけど……」
フレイちゃんが何やら、身振り……というか上半身だけなので手振りを加えて、俺に説明してくれる。
ウィンさんから言われて、大事な事を思い出したって事らしい――。
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