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挑発と捧げる適当な祈り

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「うん。でもあんまり無理はしないように。怪我をしても……まぁ、俺が治せるけど、戦闘中はそんな余裕がないから」

 念のため、無理はし過ぎないように注意はしておく。
 治癒魔法は、俺も治療されている側も少しの間動けなくなるから、ヒュドラーを倒しても他の魔物がひしめき合う場所で使うわけにはいかないからね。

「敵だったはずの私の心配なんて、お人好しね」

 ロジーナは俺の注意を苦笑しながら受ける。
 確かに敵だったけど、今は一応味方だ。
 見た目的にも、幼い女の子が怪我をしてそのままっていうのは、嫌だからね。
 あと、隔離されていた時から薄々感じていたけど、破壊神だからって完全な悪というわけではないような気もするし……だからって好き勝手に街や人を破壊されるわけにはいかないけども。

「よし、それじゃヒュドラー一体の足止めは頼んだよ。……良かった、断られなくて。ユノ、説得に成功したぞー。これで足止めするユノの危険も減ったね」
「……ちょっと待って、もしかしてヒュドラーの足止めは、そいつもやるの?」
「え、あ、うん。さっき話した魔法鎧でヒュドラーを一体。ユノとロジーナで協力して一体の足止めをするんだよ」

 振り返り、いつの間にか項垂れているユノに声を掛けると、ロジーナが反応した。
 あれ、そういえば俺、ユノも一緒にって言っていなかったっけ……?

「聞いていないわよ!?」

 俺を睨みつつ、叫ぶロジーナは隔離されていた時の事を思い出させる剣幕だ。
 言ってなかった俺が悪いけど、ここまで激しく反応するなんて……昨日のユノの反応で、予想はしていたけど。
 でももう承諾してくれたから、ここで反故にされるのは……って、ん? そうか、成る程。
 ちょっとだけ、ロジーナのプライドを刺激してみる考えが浮かんできた。

「確かに言っていなかったけど……でも、協力してくれるって言ったよね? あれ、もしかして今更嫌だなんて言わないよね? 天下の破壊神様ともあろう方が?」
「ぐっ……くっ……! 神を前にして、ほとんど敬おうなんて気もないくせに今更……」

 確かに、出会い方が原因でもあるけど確かに破壊神を敬おう、という考えはないけども……というか破壊神を敬うとか、邪教扱いされそうだし。
 でも、アルセイス様とかはちゃんと敬うようにしていたと思うんだけどなぁ。
 ユノに対しては、こっちはこっちで見た目女の子なのと、妹のように感じている部分もあって、こちらも敬う感じではないんだけど。
 でも悔しそうにしているロジーナを見ると、この線で行けば説得できそうだ。

「そういえばそうだったね。それじゃ……破壊神様、是非とも我らに力をお貸しください。その破壊の力を持って、我々と共に魔物の破壊に協力を……!」

 少し大袈裟に、恭しく礼をするようにしながら言ってみた。

「ぐぬ……」

 俺に詰め寄る程の剣幕だったロジーナは、大仰な俺の仕草に気圧された……というわけではないだろうけど、何かダメージを受けたように後退り、言葉を飲み込む。
 よし、効果的のようだ!

「リクは、それを刺激するのが上手いの……どこでそんな事を覚えたのか、それはそれで興味深いの。でも、私もちゃんと敬うの!」

 そんな悪い事みたいに言わなくてもいいと思うけど、俺の様子を見ていたユノは自分もと主張。
 神様達に共通する何かがあるのかな? でも、それでヒュドラーの足止めを承諾してくれるなら、お安い御用だ。

「おぉ、ユノ様創造神様。我らにその御力をお貸し頂き、共に邪悪な魔物を成敗いたしましょう。どうか、どうか我らと共に!」
「うんうん、リクから捧げられるのはちょっと癖になりそうなの」
「ちょっと、邪悪ってのは聞き捨てならないわよ! あれでも私が創ったんだから!」

 さっきまで拗ねていたり項垂れていたユノが、俺の恭しい見よう見まねの礼で笑みを浮かべ、ご満悦な様子。
 けど、今度はロジーナが俺の言った邪悪という言葉に、引っ掛かりを感じたらしい。
 作ったのは破壊神でも、その魔物を倒したりしていたしあれでもなんて言って扱いは雑なのに、そこは気になるんだ……。
 まぁ確かに、味方になったワイバーンを見ていると、魔物の全てが邪悪な存在ってわけでもないんだろうけど。

「リク、次は手を組んで欲しいの! それで私を……」
「ちょっと待ちなさい! 次の順番は私のはずよ! あと、邪悪というのは取り消しなさい!」
「ちょ、ちょっと待って。一度に両方はできないから……えっと……」

 神として敬われると、嬉しさとか他にも何かがあるのか……さっきまで絶対に近付こうとしなかったユノとロジーナが、二人して俺に詰め寄って来る。
 さすがに性質の違う二人を、一度に讃えられずに困りながら、しばらく順番に祈り的な何かを捧げ続けさせられた。
 うやむやになった感じだけど、とりあえずユノとロジーナは協力してくれるって事で、いいだんだよね?
 ロジーナのプライドを刺激したのは、意味があったか微妙だけど……。

「……なんだかんだ、仲が悪いというわけではないのかしら? でもリクさん、傍から見たら子供に懐かれている? 遊ばれている? ようにしか見えないわね。相手が特級じゃ済まない相手だけど……でも、ある意味リクさんらしいのかしら?」

 周囲で、準備を進める兵士さんや冒険者さん達の喧騒に紛れて、そんなモニカさんの声が聞こえた気がした――。


 しばらく後、ユノとロジーナが満足するまで相手をした頃に、隊長格の兵士さんが報告に来た。

「リク様、準備整いましてございます! 魔物達を押さえている王軍も、少しずつ引いている模様です……お疲れのようですが?」
「ぜぇ、はぁ……ははは、大丈夫、大丈夫です。ありがとうございます」

 肩で息をしていると、報告に来た兵士さんに心配されてしまった。
 ユノとロジーナ、間髪入れずに色んな祈り方を要求してきたからなぁ……極めつけは五体投地だった。
 ちょっと勢い余って、おでこを地面にぶつけたら小さなひび割れができてしまったし。
 それを見て、二人が俺を指さして爆笑していたけど……ちょっとだけ痛かったんだぞ?

 でも、さすが表裏一体の存在というべきか、笑いのツボは一緒だった。
 もしかすると、お互いを嫌っているようだったのは同族嫌悪みたいな事なのかもしれない。
 ……性質が真逆だからってのももちろんあるんだろうけど。

「それじゃ、始めますか……!」

 準備の終わった土壁の内側……うず高く積まれた砂や土を見て、腕まくりをしながら近付く。
 ここからは、迫るヒュドラー、強力な魔物達に対抗するための準備だ。
 昨日の作戦会議の後半、筋肉談義をするマックスさんとシュットラウルさんを余所に、ヤンさんや大隊長さんと話し合って決めた事。

「アイアンボーデン……ジョイント」

 イメージをし、魔力を変換して魔法名と共に解放。
 みるみるうちに、詰み上がっていた砂や土は既に作られていた土壁と同じ物を形作り、接続されて行く。
 元々の土壁をさらに分厚く、そして高く。
 最初の役目は、土壁の強化。

 魔物と正面から戦う際、土壁の有用性は既に実証されていたからね。
 それを強化して、強い魔物相手でも維持できるように、巨大な魔物からも隠れられるようにしようってわけだ――。

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