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中央の対ヒュドラー戦
しおりを挟む「とりあえず、こちらの撤退は大丈夫そうだね。今の魔法で、奥の魔物達の動きも少し鈍くなったみたいだ。よし、さっさと次のヒュドラーに向かおう!」
魔物達はまだまだいる……確実に数は減っているのは間違いないけど。
俺の魔法を警戒したのか、それともレムレースやヒュドラーといった協力過ぎる程の魔物がやられたからなのか。
東側の俺がいた場所、ヒュドラーの死骸がある向こう側から進行する魔物の歩みは遅い。
あとは一度撤退して体勢を立て直した侯爵軍に任せておけば、しばらくは凌いでくれるはず。
そう考え、俺は周囲でまだかすかに動いている魔物に対し、輝く剣を振りながらマックスさん達が戦う、中央のヒュドラーがいる方へと向かった。
正確な位置は今いる場所からはわからないけど、中央に向かえば発見できるだろう……ヒュドラーの巨大さは、他の魔物達と比べて飛び抜けているから――。
―――――――――――――――
「ギャギャギャ!!」
「ヤン!」
「助かります! はぁっ!」
「ぬぅん!」
「フシャ……!」
ヒュドラーの首、そのうちの一つが放った炎の球。
それを狙われたヤンの前に出て、右手に持っている盾……緊急で改良されたタワーシールドを構え、受け止める。
俺が受け止めたのを見計らって、ヒュドラーの隙に後ろから躍り出るのはヤンと元ギルドマスター。
本来の二人の体を、二回り以上も大きくしている魔法鎧の重さをほとんど感じさせない動きで、ヒュドラーの体を斬り付け、打ち付ける。
俺の右手にはタワーシールド……巨大で重いはずの盾だが、それが魔法鎧の大きさにも合っていてそのためにあるんじゃないかと思わせるくらいしっくりくるもの。
左手にはショートソードのように見えるが、ロングソードを握っている。
魔法鎧が大きく、片手でもっていると、剣が小さく見えてショートソードに見えるだけなのだがな。
ヤンは、籠手部分に取り付けた刃のみの剣、素手での戦いと同じように動き、両手の籠手の刃でヒュドラーの肉を斬る。
もちろん、剣である以上斬り方などには気を付ける必要はあるが……籠手に取り付けて手に握らない分、素手と変わらないくらいの手数で相手を攻め立てられる。
今も、一度ではなく数度……両手合わせると十に近い数、ヒュドラーを斬り付けていた。
ヤンの籠手にある両刃の剣は、柄がないためリーチという意味では短いが、特別な仕掛けがしてある。
フィリーナが魔法鎧の調整をしてくれた時に、それぞれに合わせて改良してくれたものだが……剣身の部分は熱が発生し、鋭さで斬る以外にも熱で焼き切る事もできる魔法具だ。
現に、ヒュドラーの体を斬り付けた部分は、一部が熱で溶けているし、また別の部分は黒く焦げている。
他方、元ギルドマスターは巨大なハンマーで、ヤンが斬り付けた後のヒュドラーの体、斬り開かれた内部を強烈な一撃で打ち付ける。
これにはヒュドラーも痛みを感じてたまらず、うめくような人ならざる声を上げていた。
元ギルドマスター、鍛えて素晴らしい筋肉をしているだけあって、軽々と巨大なハンマーを振り回す姿は圧巻だ。
大きな魔法鎧に体が覆われていて、ちょうどいい大きさのように見える巨大なハンマー……これにも仕掛けがあって、同じくハンマーの打撃部分には熱が発生する。
当然ながら、こちらもフィリーナ特別性。
ヤンが焼き切った傷口を、さらに元ギルドマスターがハンマーの打撃と熱で易々と再生できなくする……という連携が可能になっている。
リクのように、ワイバーンすら軽々と斬る事はできない俺達には、こういった工夫で対処するしかないからな。
俺にも、そういった特別な魔法具があればよかったんだが……さすがに三人全員分の武器を用意する余裕はなかった。
まぁ、急遽ではあるが、俺にはヒュドラーの吐き出す魔法を防ぐ、ワイバーンの皮を張り付けたらしい盾があるがな。
「マックスさん!」
「わかっている! ぬぅ……!」
ヤンが戻り、俺が盾を掲げて吐き出された氷の塊を受け止める、
ヒュドラーに対しては、ヒットアンドアウェイが基本。
巨大な体に取りついて攻撃を繰り出せてればいいのだが、それは複数の首がさせてくれない。
頭上から来る攻撃に対して、避けるか盾で耐えるかしかないからだ。
「くっ、あれだけやっても勢いが衰えぬか……!」
さらにヒュドラーから炎が吐き出され、俺の盾の後ろに回りながら唸る元ギルドマスター。
調整のおかげで多少窮屈なくらいで済んでいるが、魔法効果があっても重さはそこそこ感じる魔法鎧をして、通常とそん色ない動きをさせる二人は、さすがだ。
ヤンは、もう少し筋肉を付けた方が良さそうだが……持ち前の素早さが少々鈍い、年のせいかもしれんがな。
「俺達に、ヒュドラーを倒す事は不可能だ。精々耐えるだけ耐えて、そしてリクが来た時にすんなり倒せるよう、消耗させるんだ!」
炎を盾に受け止め耐えつつ、目的の再確認。
どれだけ魔法鎧が優秀でも、ヒュドラーを倒す事はできない……巨大なヒュドラーの首に、俺達の攻撃を届かせることが不可能だからだ。
ヒュドラ―の巨大な体躯を軽々と飛び越えられれば話は別だが、俺達には高い位置にある首に対する有効な攻撃手段がない。
できるとしたら、地上を這いつくばるように動く俺達に向かって、顎を広げた首が噛み付こうと向こうから迫ってくるタイミングくらいだ。
だがヒュドラーは、口から吐き出すように放つ魔法を主体に戦うため、体を斬り付けて消耗させる、攻撃を凌いで消耗させる、といった手段しか今のところ取れていない。
戦闘開始直後、取るに足らない存在と見なしたか、ヒュドラーが直接噛み殺そうと迫ってきた際に、痛烈な一撃で首の一つを潰しただけだ。
その首もすぐに再生され、警戒されているのか次の機会はまだ巡っては来ていない。
結局のところ俺達にはやはり、足止めに徹して消耗させる事しかできないのだろう……俺達にはな。
「くっ、くぅ……!」
炎の勢いに押され、踏みしめた足が地面を抉りながら後ろに下がる。
俺自身の力だけでなく、盾の重さや魔法鎧の重さまで加わっているのに、なんて勢いだ!
張り付けられたワイバーンの皮がなければ、盾を融かす熱量と破壊する勢い……これがSランクの魔物か!!
以前まだ現役だった頃、一度だけマリー達とSランクの魔物を見かけた事があるが、あの時は無謀に挑むなど考えず、さっさと逃げて正解だったのだろうな。
「マックス!」
「大丈夫だ! それよりも……」
「わかっています! うてぇーっ!!」
元ギルドマスターの叫びに答え、後ろにいるヤンに声で示す。
するとすぐに、俺達よりもさらに後ろへ向かって大きく叫ぶヤン。
「ギギャー!」
「グギー!」
「フ、フシュ……!」
次の瞬間、ヒュドラーの首目掛けてとてつもない勢いで殺到する何か。
それらは、命中し、肉をえぐり取って貫通し、いくつかの首を潰した。
「何度見ても、えげつないですね」
「私達三人が渾身の力で攻撃しても、あれ一つ分にも満たないのだが……」
「まぁ、威力や勢いはエルサが増しているようだが、あれ自体もリクが作った物らしいからな」
放たれたミスリルの矢と呼ばれる、リクが作った飛び道具の効果を見て、ヤンや元ギルドマスターと共に何度目かの呆れの声を漏らした――。
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