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倒せずだが足止めするだけ
しおりを挟む数十もの増幅されたミスリルの矢とやらが、ヒュドラーに降り注ぐ。
「……もう少し、一気に放てない物か? リクは大量に作っていたようだが」
リクが作っていたミスリルの矢……ただ持って投げただけでも、金属の鎧すら打ち抜く物だったのだ。
作った本人は、試し打ちをエルサの威力増加の魔法の輪を通してだけだったから、何もしなくてもよくわからない威力を発揮するのを知らないらしいが。
とにかく、そのミスリルの矢は大量に作られて山のように積まれていたのを、俺も見ているから一度に放てばヒュドラーも倒せるんじゃないかと思ったのだが……。
「あれは私も持ちましたが、どういうわけか一つ一つが異様な重さなのですよ。ですから、一度に大量に放つのは難しいのでしょう」
「むぅ……」
ヤンの言う通り、大きさにそぐわぬ異様な重さだったのは知っている。
俺達の後ろに控えている王軍は、千人近くの大軍勢ではあるが……一つ放つのに二、三人で放り投げなければいけないようだから、一度の射出の数を増やす事はできそうにないか。
威力増加は細かな狙いを定められないとエルサが言っていたが、だからこそある程度の高さに魔法の輪を作る必要があり、その高さまであの異様な重さをしているミスリルの矢を投げなければいけないわけで……。
「専用の弓でもあれば別でしょうけど、元は石の矢。木の矢のような軽い物を放つ弓では、使い物にならないでしょう」
「同じくリク殿の作った、皆を守るための壁があるからな。最低でもそれを越えるよう投げなければいけないのが、数を増やせない大きな理由でもある」
「はぁ、仕方ないか……やはり、倒す事を考えるよりリクが来るまでの足止めをするしかないな」
「そうなりますね」
「うむ」
通常の弓矢は、ヤンが言っているように木に金属の矢じりを付けた物で軽い。
それよりも数倍……いや、数十倍は重いミスリルの矢を放てるようには作られていない。
長弓という、矢の射程を伸ばし威力を上げた物もあるにはあるが、あれも同じく思いミスリルの矢を放てるわけでもないだろう。
結局のところ、俺達にはヒュドラーを倒す事はできないってわけだ、口惜しいが。
俺や元ギルドマスターくらいの筋肉があれば、一人で一つを投げる事がもしかしたらできるかもしれないが……それでも増える数は多くないからな。
そもそも、そうするとヒュドラーの足止め役がいなくなるからできない。
溜め息を吐き、潰された首の再生が終わりかけているヒュドラーを見上げた。
「……もう再生が終わるか。休憩できるのも短いもんだ」
「それでも、ヒュドラーが放たれたミスリルの矢に気を取られ、再生が終わるまでこちらも一息つけるのは、ありがたい事でしょう」
「戦闘を始める前は、延々と戦い続ける事も覚悟していたからな。実際戦い続けていたら、今頃動かぬ鎧になっていただろうが……」
ミスリルの矢は、ヒュドラーに対して決定的な攻撃にならない代わりに、俺達に対するほんの少しの休息になってくれていた。
それだけでもありがたいのは間違いない……元ギルドマスターも言っているように、ヒュドラーの首を攻撃できない俺達は、戦い続けていればヒュドラーからの攻撃の勢いに負けていただろうからな。
良くても、王軍のいる場所まで後退させられる。
最悪の場合は、俺達三人の全滅だ。
「それでも、多少は消耗させているようですね」
「あぁ。最初よりもあきらかに再生が遅くなっている」
どれくらいの間戦い、何度ミスリルの矢が放たれたのか……戦闘に集中していた俺達は数えていないが、ヒュドラーの再生速度は確実に落ちてきている。
だからといって、倒せる見込みがないのは変わらないが、それでも消耗させているという実感があるのは悪くない。
「来ますよ……!」
「あぁ……!」
ヤンに頷いて、タワーシールドを構える手に力を込める。
ヒュドラーが俺達を見下ろす……元ギルドマスターが、ハンマーを担ぎ直した。
警戒しているのか、いくつかの首はまだ王軍の方を見ていて、多少の注意が逸れているのはありがたい。
そういう意味でも、後ろからの援護はありがたい事だ。
「グワァーー!」
「っ、風か!」
「出ます!」
「行くぞぉ!」
首の一つから吐き出される魔法、空気の揺れが微かに見える……風の魔法か!
斬り裂く力はあれど、勢いなどは少ないので一番俺が盾で防ぎやすい攻撃だ。
いくつもの刃、風で作られた刃が俺の構える盾に当たって消えるのを見計らい、再びヤンと元ギルドマスターがヒュドラーに向かって飛び出す。
「足だ、足を狙え! 少しでも進行を遅らせろ!」
ヒュドラーに肉薄していくヤン達に、後ろから叫ぶ。
攻撃の勢いに押され、ある程度後退してしまっている現状、進行を遅らせるには足を狙った方が良さそうだ。
ヒュドラーに手と思われる器官はなく、比較的無防備でもあるからな。
これまでは、地面が揺れる程の重量感でヒュドラーが歩を進めた時、周囲の魔物を踏み潰していたから放っておいた部分でもある。
しばらく戦って、ミスリルの矢が放たれた直後は俺達の周囲はともかく、ヒュドラーの周囲にいた魔物も蹴散らされているため、狙うなら今だろう。
再生されるとしても、少しでも進行速度を鈍らせたい。
大分、後ろの王軍がいる石壁に近付いてしまっているからな。
「承知いたしまし……たぁ! せいっ!」
「ふんっ! ぬぅん!」
二本あるヒュドラーの体躯にしては短い足に狙いを定めたヤンと元ギルドマスター。
右をヤンが、両手の籠手に取り付けた熱の剣……ヒートソードとでも名付けようか、それを魔法鎧を着たヤン自身よりも大きな足へと振るう。
左の元ギルドマスターもほぼ同時に熱のハンマー、ヒートハンマーを軽々と操って右から左へ打ち付け、振り上げて振り下ろす。
「ギギャー!」
「へっ、苦しんでいるのか?」
頭上高くにあるヒュドラーの首から、大きな叫び声が上がる。
それは、完全に潰せはしないながらも、右足を深く切り裂き、左足の一部を叩き潰した痛みからだろう。
確実にダメージを与えられている事に、口角を上げて呟いた。
「フシャー!」
いくつかあるヒュドラーの首……俺達が相対しているのは六つの首を持っている。
そのうちの一つ、最も警戒すべき攻撃である酸を吐き出す首が動いた!
「っ! これはマズイ! 戻れ!」
すぐにヤンと元ギルドマスターに叫び、距離を離すよう忠告。
頭上から降り注ぐ酸は、ヒュドラー自身の足すら巻き込んで焼けるような音と共に、足先を融かしながらヤンと元ギルドマスターに襲い掛かった!
「ちぃ!」
「ぬっ! ぐあ!」
身軽なヤンは、舌打ちをしながらも素早く身を引き俺の後ろへ。
元ギルドマスターはヤン程の身のこなしではないためか、距離を取ろうと動きはしたものの、酸に当たってくぐもった声を出した。
「大丈夫か!?」
「な、なんとかな。だが……」
「左腕が……」
酸に襲われながらも、なんとか戻ってきた元ギルドマスターは左腕の一部の鎧が溶かされ、内部の肌が焼けただれているのが覗き見えた――。
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