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衝動に駆られず冷静なリク
しおりを挟むさて、他にも西門は……成る程、アーちゃんが壁になってウォーさんやウィンさんが頑張っていると。
フレイちゃんはまだ向かっている途中か……一番広範囲にレムレースへと有効な攻撃ができるフレイちゃんがないから、反撃とはいかないまでも持ち堪えているようだ。
なんだ、心配しなくても考えていたよりは被害が少なそうだ。
もちろん、そこかしこに避難しようとしていた人の物だろう、馬車だったものや生物だった物らしき何かが散らばっているけど、想像していた程の惨状じゃない。
「ふぅん、成る程。レムレース以外はあまり強力な魔物は潜ませていなかったみたいだね」
「……もしかして、西側の状況の事を言っているの?」
「うん、そうだよ。魔力を広げてちょっと調べてみたんだ」
「それは……魔力ではなく意識を飛ばしていると言うのよ。どれだけ魔力が多かろうと、詳細に状況がわかるわけがないわ」
そうなのかな? でも魔力に性質を加えて広げているのは確かなんだけど……。
まぁ、そこに目があるように、まるで見ているように感じられるのだから、意識を飛ばしているというのも間違いじゃないのかもしれない。
「どちらでもいいかな。感じ取れて、わかるって事が重要だから」
「んなわけないでしょ。魔力を介していたとしても、それだけの事を知覚しておいて平静を保っていられるのは、尋常じゃないわ。それは、神の視点よ」
「神の視点……成る程。確かに、全てを俯瞰して見ているような感覚だから、その通りなのかもしれないね」
言われて見るとそうだと感じる。
神の視点……今周辺を探っている事に対して名前を付けるのなら、それが一番正しく思えた。
成る程、ユノやロジーナが神様だった時に世界を覗くとこんな感じに見えているのかもしれない。
単なる想像だけどね。
「……随分冷静ね?」
「ロジーナは俺がどうなるのか想像していたのかわからないけど……なんだろうね、凄く考えが覚めているというか。確かに荒れ狂うような、気が狂いそうになる程の衝動みたいなものは感じるんだけど」
冷静な自分と、荒れ狂う破壊的な衝動を抱える自分、二つが内側にあるとはっきり自覚できる。
今表面に出ているのが冷静な部分なだけで、もし何か他のきっかけがあればあっさりと衝動に全てを任せてしまいそうになるんだろうな、という感覚もだ。
ただ、どれだけの衝動に駆られようとも、胸に去来する思いはただ一つ……。
「あぁ、こんなものか……ってね。そう思う気持ちがほとんどなんだよ。自分がこれまでどれくらい甘かったのか、やろうと思えばできていた事をしなかったのか。そして、どれだけ自分以外を過大評価していたのかってね」
「レッタの言った事を気にしているの? 確かに、リクはできるはずの事をしようとはしない節はあったけど、それは周囲を巻き込まないため。自分一人で完結するならともかく、必ず他への多大な影響が出るからよ」
「俺に自覚させようと……いや、人や魔物も関係なく破壊させようとしていたのは、ロジーナもじゃない? 俺を慰めようとしているのかな?」
「は、そんなつもりはないわ。けど、最初とは事情が違うの。何度も言うけど、私は今人間になっているのだから」
「あぁ、そうか……そうだったね」
そういえば、ユノが以前人間になっている状態で、外的な要因で死亡する事があったら神にも戻れず人間としての死を迎える……というような事を言っていたっけ。
細部は違うかもしれないけど、大体はそんな感じだったと思う。
つまり、ロジーナもユノも、今人間としてこの世界に入り込んでいる以上、死んでしまえばそれで終わりって事。
どうしてそんなリスクを負ってまで、人間に宿っているのかはわからないけど……だから、自衛のためにそこらの人間とは一線を画す能力を持っているんだろうけど。
でもそれは、ユノの意思や考えだし……いや、ユノもロジーナも俺の影響だったっけか……それなら、俺が責任を取らないといけないかな。
まだ二十にもならない年齢で、子供が二人増えたようなものかな? いや、ユノは一応妹としているから、義妹が二人増えたってところか。
両親を早くに亡くしたから、弟や妹は望めなかったし望もうとは思っていなかったけど、これはこれで嬉しいかもしれないね。
「おっと、喜んでいるばかりではいけなかったね」
「喜んで? 何を言っている……いえ、何を考えているのかはわからないけど、どうするつもりなの?」
「そんなに警戒しないで欲しいんだけどなぁ。俺は別にロジーナをどうこうしようとは思っていないから。恨んでもいないし、敵だとも思っていないんだよ」
訝し気に、それでいて持っている大剣を握る手に力を込めているロジーナ。
実際には向けられていないけど、妹ができたと考えようとした相手に剣を向けられそうな気配は、ちょっと悲しい。
「それに、今こちらに攻撃的な意思を見せないで欲しいな。そうすると、衝動が勝手に動き出しそうだからね」
「……簡単に私がやられるとわかっているような口ぶりね」
「これまでの俺なら、適当な理由を付けて加減して、もしかしたら大きな怪我をさせられたかもしれないけど……今はそうはならないからね。これは予想とか想像じゃなく、決まっている事だよ?」
「ちっ……」
ロジーナ自身もある程度わかっているのか、剣を握る手から力を抜くのが見えた。
舌打ちして、表情は忌々しそうに歪んでいるけど……おかしいなぁ、嫌な顔をさせるつもりはなかったんだけど。
破壊神としての力を振るえる状態ならともかく、今のロジーナはあくまで人間。
人間と言うには、身体能力が高すぎる気はするけど……でも、それでも人である事は違いない。
多分、干渉力を気にせず全力の破壊神ですら戦えるだろうな、という思い上がりや傲慢とも思える考えが頭の中にあるんだけど、多分それは正しい。
だからこそ、今のロジーナが襲い掛かってきたとしても簡単にあしらえるだろうし、それは場合によっては命を絶つ事にも繋がりかねない。
……いつも失敗と言っている、やり過ぎや威力が高すぎるなんて事に対して、加減や配慮をする気が一切ないから。
「それにしても、喋り方はこれまでのリクとあまり変わらないけど、雰囲気ががらりと変わったように思えるわ」
「そうだね……俺自身は、魔力とか技術とか、そういう部分は一切変わっていないと思うよ。だけど、枷が外れた……というのが一番近い状態かな?」
「枷……ですって?」
「うん。俺にはこれまで、自分に対する自己肯定の低さや、見た目などもあって魔物に対する過大評価。それでいて、周囲の人を巻き込まない、影響を出さないなんて遠慮が大きかったんだ……」
多少なりとも自覚はあったけど、考えないように無視していた。
それがレッタさんに指摘され、俺自身と俺じゃない感情が大量に流れた事で、これまで踏み出せなかった精神的な何か……枷とロジーナには言ったけど、ストッパーのようなものがあって、それが壊れたみたいなんだ。
劇的な変化はなく、ただただ自分がこれまで考えてきた事ややってきた事が、どれだけ全てを侮って油断して、遠慮やその他の理由のせいにして加減していたかってのが、一気にわかってしまったってわけだね――。
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