1,322 / 1,811
リクを助けるための説得成功
しおりを挟む「ヘルサルに近いセンテにも、同じくリクに感謝している人は多いでしょう。冒険者達もです。そして、そのリクが助けを必要としている……かもしれない。私は娘のモニカやエルサちゃんの言っている事を、信じます。冒険者達も説き伏せて見せます……反対する人は少ないでしょうけど」
「一人だけの英雄、ではないのだろうな、リク殿は」
「本人と会った事や、見た事すらない者の中には訝しむ者もいますが……リク様に助けられた者は多く、そのほとんどは、私や侯爵様、そしてマリー殿のように信頼を寄せます。ですがそれは、リク様に全てを委ねるわけではなく、共に立って戦うと考えるような……不思議な力を沸き立たせるようです。私もそうですから」
「マルクス殿は、リク殿のおかげで大隊長になれたとすら考えていそうだな」
「はは、そうですね……出世欲はありましたが、実際に大隊長になると以前の方が気楽だったと思っていますよ。多くの部下達の命や民達、あり得ないと叫びたいほどの魔物を前にし、そして今大きな決断を迫られるのですから」
「人の上に立つという事はそういう事だな。私とて、侯爵として領地と多くの民を治め、軍を率いているのでな……時折、冒険者のように気楽に過ごしてみたいとすら思う事がある」
「あら、冒険者は冒険者で気楽でばかりもいられませんよ? ランクが上がればそれだけ責任のある依頼を受けなければあんりませんし、活躍すればするほど注目され、リクのように大きな問題の解決に駆り出されますから」
決意するようだった母さんの話から、和やかな雰囲気が広がる。
ちょっと私やエルサちゃんは置いてきぼりにされているけれど、重い責任を背負った人達の間で何か通じ合っている様子でもあるわね。
母さんは、私なんかよりもよっぽど長く冒険者をしていたし、多くの経験をしているからシュットラウル様達の気持ちもわかるんだろうけど。
「お二人もリクにはいろいろな思いがあるようで……いかがでしょう、ここはモニカとエルサちゃんの提案に乗ってみては? 冒険者は私と夫がまとめます。まぁ、センテとヘルサルのギルドマスターもいますから、協力してくれるでしょうけど」
「ふむ、冒険者の方は任せても問題なさそうだな。では、私も直属の部下や侯爵軍をまとめよう」
「侯爵軍は、既にまとまっているでしょうが……戦闘が続き、疲労もしているのにあれだけ士気の高い貴族軍を、私は知りません。王軍は問題なく。陛下より、リク様への協力は惜しみなくと下知されていますから」
「母さん、シュットラウル様、マルクスさん……」
「モニカ、感謝の言葉は全て終わってからよ。もちろん、提案者としてあなたはこれから皆の前に立つの。リクへの思いが強いのは、私達よりもモニカとエルサちゃんでしょ?」
「う、うん。もちろん……やれだけの事を……いえ、やれない事でもやって見せるわ!」
「わ、私は別にリクへの思いなんて強くないのだわ。キューへの思いならだれにも負けないのだわ」
そうして、思ったよりも長くなってしまった話し合いの方向性が決まった。
シュットラウル様は至急、北に布陣している侯爵軍を集め、次善の一手を使える兵士と使えない兵士とを別けた編成を進める手配をする。
マルクスさんは、次善の一手を使える王軍兵士の編成を進める中、エルサちゃんの提案で残っているミスリルの矢だったかしら?
リクさんが作った土を固めた物のはずなのに、異常に硬くてよくわからない貫通する性質を持つらしい矢を始め、弓矢など遠距離から放てる物を集め始めた。
魔物と相対する時、実際に一部で使え割れていたたららしいそこらに落ちている石などは、今回は使われない。
リクさんが提案したのは魔物に対して、結界に対しては矢などの突き通すための物、そのために作られた物が必要とはエルサちゃんの言葉。
エルサちゃんの魔法で威力増強する予定だけど、適当に攻撃を加えるよりも突き通す力の強い物の方が、結界への魔力干渉を強くできて打ち破るのに役立つらしいわ。
違いはよくわからなかったけれど、だから剣を持つソフィー達より槍を持つ私の方が、結界を貫き破るのに必要と似たようなもの……と言われて少し納得。
斬るよりも、突く方が前に進む力があるものね、それで合っているのか微妙かもしれないけれど。
母さんの方は、父さんとも話しをしてヤンさんやベリエスさん、それからヘルサルの元ギルドマスターを集め、冒険者をまとめていたわ。
冒険者の中には、次善の一手と似たような事ができる人もいたけれど、兵士達程ではないため後方支援。
ほとんどが魔法を後ろから放つ役目と、物資を運搬したりなどの雑用係だったけど……それでも、嫌な顔をする冒険者は少ないだろうというのが、ヤンさんとベリエスさんの見方ね。
元ギルドマスターは、非協力的な冒険者は拳でわからせるなんて言っていたわ。
願わくば、平和的な話し合いでわかって欲しところだけど。
「アマリーラ様ぁ、いい加減そこから離れて下さいよぉ……!」
「嫌だ! これはリク様の作った結界。その結界に触れている事こそ、リク様を感じられるのだ! リク様に救われたこの命、リク様を身近に感じる事が役目だろう!」
やると決めたからにはと、迅速に動いてくれるシュットラウル様やマルクスさん、それから母さん達を始めとした、兵士や冒険者。
皆結界を破るという目的のために動いてくれているのに、アマリーラさんだけは相変わらず結界に張り付いたまま動こうとしないのが困りものだったわ。
リネルトさんも駆け付けて、説得に当たったのだけれど……あまり効果はないみたいね。
アマリーラさんとリネルトさんを乗せていたワイバーン二体が、心配そうに見ている。
ちなみにボスワイバーンを始めとしたワイバーン達は、結界を破るまで待機。
結界に対して有効な攻撃があまりない事が理由ね。
でも、結界を破った後に役割があるから、という事で納得してくれた。
それぞれ、リクさんの身を案じている様子だったのが印象的だったわ……特殊なのでしょうけれど、魔物がそこまで人に懐いているのは驚いたわ。
「あぁ、リク様の力の片鱗……いや、砂粒程の力を感じる……」
頬擦りをしながら恍惚としているアマリーラさんは、他の人が引き剥がそうとしても頑として動かない。
というか砂粒程って、本当にリクさんの力を感じていると言えるのかしら……?
アマリーラさんがこんな危ない人……もとい、リクさんを信奉するようになったのは、以前からでもあるけど、ヒュドラーとの戦いを終えて下がってきた時からでもあるわね。
話を聞くと、戦闘に必死になり過ぎた結果、魔物達に酷い怪我を負わされたアマリーラさん。
もう自分が助からないと思って、せめてユノちゃん達を手助けするために壁になろうとしたんだとか。
助からないというのは、その怪我を実際に見た人……確か、私やソフィーと同じCランク冒険者の、トレジウスさんだったかしら、その人に聞いたのだけど――。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,117
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる