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次善の一手の特殊な応用法
しおりを挟むそれにしても、私の頭にくっ付いているエルサちゃんのお腹の毛、モフモフとした毛が私の頭を包んでいるのがわかるわね。
成る程、と口にしたのはエルサちゃんとリクさんの魔力に関してだけじゃなく、リクさんはエルサちゃんを頭にくっ付けていた時、こういう気持ちだったのかと納得したからでもあるわ。
なんというか、優しく包まれているような……安らぎが頭から全身に伝わってくるような、それでいてちょっと癖になりそうな、そんな感じね。
少し、リクさんがエルサちゃんのモフモフにこだわる理由が、わかった気がしたわ。
えぇ、本当に少しだけね?
「ほら、まだやれるでしょ! マルチプル・サイクロンペネトレイター!!」
「少しくらい、休ませてほしいのだがな……ストームブラスト!!」
「「力を出し切れ! 放てぇ!!」」
そんな風に、エルサちゃんのお腹のモフモフを堪能……している場合じゃないのに堪能してしまっている中、フィリーナとカイツさんの魔法、そして魔法隊による魔法が放たれる。
今度は、全面が開けているのでフィリーナとカイツさんの魔法は真っ直ぐ結界へと向かう……魔法隊の方は、転身した次善隊がいるので相変わらず打ち上げられているけれど。
そして、魔法が放たれる瞬間、突撃した次善隊の最後尾による攻撃、そしてマルクスさんの攻撃も加えられた。
「……っっ!!」
声は聞こえなかったけど、いやそもそも何かを言っていたのかもわからないんだけれど、マルクスさんが振り上げた右手のショートソード。
それが結界へと打ち付けられた次の瞬間、その剣の剣身に向かって左手のマインゴーシュが振り下ろされるのが、遠目に見えたわ。
「え? なんで……?」
そう呟いた瞬間、マルクスさんのショートソードがマインゴーシュによって半ばから折れた。
なんで、わざわざ自分の剣を折るような事を……?
「おぉ、あの人やるの。次善の一手の仕組みをよくわかっているの」
「次善の一手の仕組み?」
マルクスさんを見て、疑問に思っているとユノちゃんが少しだけ驚いた声。
でも私のように、剣を折った事を驚いたわけじゃないみたい。
次善の一手の仕組みって言ったわよね……あれは確か、武器を持った手から魔力を這わせ、纏わせる事で切れ味などを増す技よね。
這わせて纏わせる魔力の量が多ければ多い程、威力が上がるはずだけど、それ以外の仕組みなんてあったかしら?
「よく見ているの。あー、フィリーナみたいに魔力を見る目があれば良かったんだけど、でも多分見ていればわかるの」
「見ていれば……?」
魔力を見る目、なんてフィリーナしか持っていないから私にはわからないけど、それでもユノちゃんは見ていればわかると言って、マルクスさんの方を促したわ。
次善の一手の仕組み……魔力と言っていたから、何かあるのでしょうけど。
私達が注目する中、マルクスさんはショートソードを折って振りぬいたマインゴーシュ、それを結界の前で一度だけ円を描かせる。
「一体何を……?」
あの動作に意味があるようには思えない……次善の一手は手から魔力を這わせて纏わせるだけだし、勢いをつけるための動作ですらない。
円を描かせたマルクスさんは右手のショートソードを捨て、マインゴーシュを持つ左手に沿えて体の右側で腰だめに構える。
そして、全身で体当たりをするかのように結界へ向かい、思いっ切り突き出した……!
「剣が結界に!?」
「そうなの。次善の一手の威力が増しているの。突き刺すくらいならできたようなの。次善の一手、という技をただ使うだけじゃなく、有効な使いかた、威力を増す方法を模索していた証拠なの」
「なんて事……」
つまりマルクスさんは、次善の一手が使えるようになった事に満足するだけでなく、それをさらに発展させようとしていたわけね。
私達も、次善の一手で強力で硬い魔物の皮膚を貫けるようになったのに満足していたのに、さらにその上を目指していたなんて……。
「で、でもどうして剣を折る事で、結界を貫くなんて事が……?」
突撃した次善隊は、それぞれ結界に多少なりとも傷を付けている事はあった。
けどマルクスさんのように、はっきりと武器を食い込ませられはしなかったのよね。
結界が硬いのか、突き刺したマインゴーシュも刃先が少し刺さっているだけではあるのだけど。
「次善の一手は武器に魔力を纏わせるの。けど、人間の魔力はどれだけ纏わせても限界があるの。人間の魔力って、本来は自然の魔力を集めるための核であって、量はさほど多くないからなの」
「自然の魔力を集める核……確かにそうね」
ユノちゃんの言う通り、私達人間が使う魔法は自分の魔力を核にして、自然の魔力を集め、それを魔法に変換して撃ち出す。
エルフも多少同じ事をやっているようだけど、自前の魔力でも魔法が使えるという部分で、魔力量も含めて人間と違うのよね。
「自然の魔力っていうのはつまり、他者の魔力なの。自分以外の魔力で、でも当然ながら有限なの」
「それはまぁ、そうよね。同じ場所で魔法を使い続けていたら、自然の魔力が少なくなるわけだし」
一人が使う魔法では大きな影響は出ないけど、今のように軍単位で魔法を使っていたら、周辺の自然の魔力すら使い果たして枯渇しかねない。
逆に、自然の魔力が集まり過ぎた状態になると、魔力溜まりが発生するらしいけど。
「今は皆、クォンツァイタからその魔力の一部を補っているの。だから自然の魔力が枯渇する事はほぼないの。それはともかくとしてなの。結界近くには今、攻撃が集中して自然の魔力が溢れているの。そしてさらに、そこらの魔力よりもよっぽど大きな魔力があそこにはあるの」
「大きな魔力……それってまさか結界?」
「そうなの。マルクスは、自分の魔力を核として周囲の魔力を集めたの。それを左手の武器に込めた次善の一手、だから結界にも刺し込めたの」
魔法を使うのと似たように、自然の魔力……特大の魔力の塊である結界、その魔力すら使った次善の一手ってわけね。
「でも、それじゃなんでショートソードの方を折ったの? 左手のマインゴーシュを折って、右手のショートソードで攻撃した方が威力が高くなるんじゃ?」
本人に聞いたわけじゃないけど、マルクスさんの利き腕は右。
だったら、左手に持ったままのマインゴーシュよりも、右手のショートソードの方が力も籠められるはずだし、武器そのもの重量も手伝って、威力が増すはず。
「それはあくまでただ剣を振るうだけならなの。マルクスが持っていた剣は、どちらの方が大きいの? そして、同じ量の魔力を纏わせるなら、どちらの方が濃くなるの? あと、長い剣と短い剣じゃ、どちらの方が折れやすい? なの」
「あっ……!」
ユノちゃんに言われて思い当たる。
ショートソードの方が当然大きいけど、その分同じ魔力量を這わせた時に薄くなる。
小さく、濃い魔力を這わせられるマインゴーシュの方が威力が上がるうえ、ショートソードの方が折れやすい。
それに同等の魔力を纏っていたら、マインゴーシュの方が強靭だから簡単にショートソードを折る事ができたのね――。
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