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結界に走るヒビ割れ

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「そして、折れた時に霧散するのは纏わせた魔力。だから、大きいショートソードの方を折れば広範囲に広がるの。そしてその広がった魔力が自然の魔力を集める」
「それをマインゴーシュの方で回収して……ってわけね」
「放っておいたら、他の魔力と同じでただ霧散するだけなの。けれど、すぐに回収して纏わせる事に成功したら……」
「威力が増す……どころか倍増する」
「なの!」

 だから、あの時左手のマインゴーシュで円を描くようにしていたのね。
 霧散し始めた自分の魔力が、周囲の魔力を集めてなくなる前に回収していたんだわ。

「リクやエルフみたいに、可視化できるくらいの魔力を持っているのなら、いずれ気付いたかもしれないの。でも、可視化できないくらいの魔力でそこに気付いたのは凄いの。細かい事までわかっているかはわからないけどなの」
「話は聞いていたが、おそらくマルクス殿はあれを感覚でやっているな。ユノ殿の言うような事は、人間でもそこまで知っている者はいないと思う。私自身も初耳だ」
「人間は、エルフに魔法関係の研究を頼り過ぎなの。もう少し自分達でも研究するべきなの」
「……耳が痛いな」

 私達が今使っている魔法やそのための理論なんかは、基本的にエルフが研究したものを素地として人間が解析したもの。
 魔法を使うための呪文なんかは、エルフとの取引でだけど。
 だから、シュットラウル様の言う通り、今ユノちゃんの言った事を知らない人は多いと思う……自然の魔力を集めて魔法を使う、というところで止まっているから。

「だがなんにせよ、マルクス殿のあれは何度も使えんな。とはいえ、切り札としては素晴らしい」

 ショートソードを折る……自分の武器を使えなくするわけだから、いざという時に、それも一度きりしか使えない技よね。
 でもその一撃で、リクさんの結界に刃を突き立てる事ができる程の威力が出るなら、切り札としては十分過ぎる程の威力だと思うわ。

「それじゃ、次のアマリーラさん達はあの突き込んだマインゴーシュの場所を狙って、さらに奥まで……」
「いや、そうはならないようだぞ?」

 修復される前に、マルクスさんが突き刺した場所を集中的に攻撃すれば、いずれ結界を破れるかもしれない。
 そう思った私の言葉を否定するようにシュットラウル様が言った後、マルクスさんを示すとそちらでさらに動きがあった。

「……っっ!」
「あれは、魔法!?」
「ふむ、マルクス殿は魔法が使えたか」

 マインゴーシュを突き刺しているそのままの状態で、さらに魔法を放ったマルクスさん。
 声はほとんど聞こえないけど、マルクスさんの手元から沸き上がる炎で、どんな魔法を使ったのかわかった。
 シュットラウル様の言葉は、まさに私が思った事でもある。
 魔法を使っている所を見た事がないから、勝手に使えないと思い込んでいたけれど……。

「纏わせていた魔力を、そのまま魔法に使った……とかなの。多分」
「……成る程、それでさらに魔法の威力すら上げる……といったところか。あれを理論ではなく間隔でやっているのなら、戦闘センスの塊だな。さすが王軍で大隊長にまでなっただけはある」
「あっ!」

 ユノちゃんとシュットラウル様の話を聞きながら見守っていると、唐突に変化が訪れた。
 マインゴーシュの先から出ていると思われる魔法は、結界に阻まれてマルクスさん本人に向かって炎を吐き出している。
 大丈夫なのだろうか? という私の心配を余所に、次の瞬間大きな破裂音と共に爆発……どうやら、炎を出す魔法ではなくて爆裂させる魔法だったみたいね。
 そしてその爆発は、結界内部で行われたからなのか……。

「結界が……!」
「ヒビが入っているの。あくまで表面的なものだけど……いくつかは簡単に割れるようになったの」
「人間も存外やるのだわ。集まって集まって、それでようやくと思っていたのにだわ。一人であそこまでやり遂げるのは、中々ないのだわ。マルクス、覚えたのだわ」
「エルサちゃんが、キューをもらわなくても人の名前を覚えるなんて……」

 私の頭にくっ付いたまま、状況を見守っていたエルサちゃんも感心したみたい。
 マルクスさんの名前、むしろ今まで覚えていなかったのね……と言いたいところだけど、キューを上げたりする人でなければ、ほとんどの人のな目を認識していない、というか覚える必要がないと、いつかどこかで聞いた事があるわ。
 そんなエルサちゃんが、名前を覚えるなんて……ヴェンツェル様とか、父さんや元ギルドマスターみたいな濃さで覚えさせるのではなく、実力で覚えさせるのは単純にすごい……かも?

「アマリーラ、リネルト!!」
「はっ! いつでも行けます!」
「はいぃ~!」
「マックス達も、出られるな!?」
「もちろんです!」
「はい、準備はできております!」
「こちらの魔法鎧は、ヒュドラーからの損傷がひどいですが、まだ動くのに問題はありません!」

 マルクスさんに感心、エルサちゃんの言葉に驚いている私を余所に、シュットラウルさんが号令を出し、アマリーラさん達や父さん達が動き出した。
 元ギルドマスターさんは、ヒュドラーの足止めの時魔法鎧が損傷し、本人も負傷したみたいだけど……結界に突撃して攻撃するくらいはできそう。
 怪我に関しては、リクさんに治療してもらっていたみたいだからね。

「次善隊はマルクスを回収! 救護班に回せ!」
「「「おぉぉぉ!!」」」

 そしてマルクスさん……自分へ炎が噴き出している状況で炸裂させたのだから、当然と言えば当然ながら、結界から弾き飛ばされていた。
 突き刺さっていたマインゴーシュも一緒にだけど、結界にヒビを入れただけでも殊勲賞ものだと思うわ。
 そんなマルクスさんは、魔法を炸裂させ至近距離で自分に返ってきたからか、大きな怪我はないながらも立ち上がれない様子。
 シュットラウル様の号令が届き、突撃していた次善隊の数人が回収に向かった。

「これが最後だ! 全力で放てぇ!!」

 マルクスさんが回収されて行くのを見計らい、間髪入れないように母さんの号令で北の魔法隊から……そして南の魔法隊からも再び魔法が放たれる。

「頼んだわよ……マルチプル・サイクロンペネトレイター!!」
「あれを見させられたら、奮い立たせるしかないな……ストームブラスト!!」

 魔法隊に続き、フィリーナとカイツさんによる魔法も放たれる。
 クォンツァイタを持っていてもかなりの魔力を消費しているためか、立っているのも辛いんだろう、弓を引く手が二人共震えているのが見て取れた。
 マルクスさんが自分への余波すら構わず、武器を折ってまで攻撃し、フィリーナ達魔法を使う人達は魔力を絞り出し……皆、結界を破るために全力を尽くしてくれている。

「……」
「ソフィー、まだよ。私達の出番はもう少し後……気持ちはわかるけどね」
「あ、あぁ……」

 剣を握る力を込めて、今にも走り出しそうな様子のソフィーに声を掛けておく。
 私やフィネさんもそうだけど、皆が頑張っている姿を見るだけの今はただただ辛い。
 それぞれに役目があるから……今勝手に動き出すわけにはいかない。

 わかっていても、ジッとしていられないものよね。
 ソフィーを止めておきながら、私も槍を持つ手に力が入り、歯を食いしばって耐えている状況だから……。


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