上 下
1,337 / 1,811

モニカ全力の刺突

しおりを挟む


「これなら……っ!!」

 槍を構え、結界まで十歩程度の距離を駆ける。
 狙うは結界が一番薄くなっている場所。
 エルサちゃんの魔法で壊されたのか、目印のように入り込んでいたヤンさんの武器の刃はもうなくなっていたけれど、集中している今ならわかるわ。
 一番結界が薄く、そして外がよく見える場所……駆け抜け、全身を振るい、全力で魔力を纏わせた穂先を突き刺す!!

「くっ! のぉぉぉぉ!!」

 手応えはあった。
 槍は深く結界に突き刺さったわ。
 でも、向こう側まで届くより先に、私の勢いが結界に完全に受け止められた。
 それでも、リクさんの所に行くんだ! という気持ちで槍を持つ手に力を込めて、押し続ける。

 少しずつ、ほんの少しずつ槍がめり込み、刺し込まれている箇所からヒビが広がる。
 結界が割れる音、そして槍が進む手応え。
 私の魔力、籠手に取り付けたクォンツァイタの魔力は、まだ残っている!

「まだ、まだぁぁぁぁぁ!!」

 魔力を絞り出し、クォンツァイタからの魔力供給も合わせて、槍へと纏わせ、押し続ける!
 奥へ、奥へと進む槍の穂先……刃の部分は完全い結界内に入り込んだ……けど。

「こ、これでもダメなの!?」

 少しずつでも着実に進んでいるのは確か……けれど、穂先を突き込んだ事で走ったヒビは、徐々に修復されなくなって行っている。
 私が押し通すよりも、結界の修復の方が早い……!

「ただ槍を突き刺しているよりも、結界の修復は遅いのは確かなのだわ! このまま押し切るのだわ!」
「そうは……言っても……!!」

 エルサちゃんの声に応え、足を踏みしめてさらに突き込む力を強める。
 でも既に全力で押していたのもあって、めり込む速度はほとんど変わらない。
 このままじゃ、突き込んだ場所周辺の結界が修復されて、槍が完全に取り込まれる!
 これまで武器を突き込めた人達は、もしかしたらこの手応えを感じていたのかしら……?

 めり込んでいる部分のその周辺が徐々に修復されるのを間近で見て、いずれ押す事も抜く事もできなくなる、という感覚。
 実際に目の前でその光景が見られ、突き込んでいる槍を持っている私だからこそ感じられるもの。
 ただ見ているだけじゃ、わからなかった事。
 人一人分程度、割れた結界の中に入り込んでいる私は、もしかしたらこのまま結界に取り込まれるのではないか……なんて事すら頭をよぎってしまう。

 その前には、手を離して逃げる事はできるけれど……でも、それで退いたんじゃ、結界を破ってリクさんの所にはいけない!
 周囲では、結界の修復を遅めようとしているのか、それとも自分達で結界を切り開こうとしているのか、声と共に武器を打ち付ける音が聞こえてくる。
 ここまでして、皆で頑張ったのに、それでもまだ結界は破れないの!?

「そこから離れろ! 取り込まれるぞ!」
「え!?」
「なんなのだわ?」

 突然、私に降りかかる声……いえ、周囲に響いたのね。
 どこかで聞いた事があるようなその声、女性の声に、思わず頭上を仰ぎ見る。
 けどそこは、結界しかなかった。

「まったく、無茶しちゃ駄目よ~。あまり力は使えないのに……どっせい!」
「きゃっ!」
「だわ!?」

 さらに別の声が聞こえたと思ったら、今度は何かに引っ張られる。
 結界に突き刺していた槍がすっぽ抜け、私とエルサちゃんが漏らした悲鳴を残しての浮遊感……のち、硬い地面にお尻を撃つ衝撃。

「つぅ……一体何が……?」
「アース、少々どころかかなり強引ですよ」
「ごめんなさいねぇ。引っこ抜きたかっただけなの。今は大きな力を使えなくなっているくせに、力加減もできないし……」
「アースは代わりにその中に入って、修復を止めておくんだな」
「チチ、チチチー!」

 代わるがわる聞こえる声、男性のものや女性のもの。
 その中で、一番聞き覚えがあるうえ人の言葉を成していない声に気付いたわ。

「もしかして、フレイちゃん?」
「チチ―!」

 リクさんがフレイちゃんと呼んでいた、炎の精霊……フレイムスピリット、だったかしら。
 そのフレイちゃんが、私の声に応えるように目の前でポッと火が点き、人の顔になる。

「あれ、前に見た時は人の体を持っていたのに……?」

 燃え盛る炎は人の顔、男性とも女性とも、どちらとも取れる顔だけれど、一応声は女性っぽいから女の子かしら。
 でも以前、センテの南でリクさんが召喚し、負の感情が……というやり取りをしていた時は、ぼんやりと人の形っぽかったはず。
 けれど今はその体、いえ、上半身はなく、赤く燃え盛る炎は顔だけになっていたわ。

「チチ、チチチチー!」
「えーと……」
「あー、確かモニカだったか? フレイの言葉はわからないだろうから、簡単にだが代わりに説明するぜ。今このウォーさんを含めて、ご主人からの魔力が途絶えているんだ。だから、俺達はこうして以前よりも小さくなっているってわけだ」
「ご主人……あ、リクさんの事ね」

 フレイちゃんが、私に何かを伝えようとしているけれど、何を言っているのかがわからない。
 どうしようかと思っていたら、代わりにウォーさん……えっと、ウォータースピリット、だったわよね。
 そのウォーさん……私より身長の低い、アマリーラさんくらい小柄な全てが青い女性が、教えてくれたわ。
 ウォーさんがご主人って言うのは、召喚したリクさんの事で……魔力が途絶えているというのは、エルサちゃんとの繋がりが途絶えたのと同じって事かしら。

「だから、あまり大きな力は使えねぇ。全力なら、この結界も壊せるんだが……まぁ、両方ご主人の魔力だから、当然だな」
「は、はぁ……」
「とりあえず、あっちで支えているアースの事は謝るよ、ちっと手荒になっちまったが、あのままじゃ結界の修復で取り込まれかねなかったからな。もう少し、自分を大事にして引くべき時は引きな」

 あっち、と示した先には土できた人……私どころか、ユノちゃんよりも小さな体の土の人が、両手を挙げてさっきまで私がいた場所にいたわ。
 あれは何をしているんだろう? 足は地面と繋がっているようだけれど、挙げた手は何にも触れていない……ポーズをとっているだけにしか見えないわ。

「……支えているって?」
「あー……あの格好を見ただけじゃわからないか。今アースは全力で力を放出して、さらに地面から力を吸いながら、結界の修復を止めているんだ。残っている魔力が少ないながら、土から力を得られるアースだからできる事だな」
「な、成る程……?」

 説明されたけど、あまりよく理解できなかったわ。
 土から力をって……アースと呼んでいたから、確かアーススピリットだったかしら? 土の力を司る精霊、スピリットだってリクさんが言っていたような。
 あ、だから土と足が繋がっているのね。
 とにかく今、そのアースさんが両手を挙げている事で力を使い、結界が修復されてしまわないようにしている、というのはわかったわ。

「ウォーター、行きますよ」
「おう。あ、ちょっと待ってくれウィンド、ちゃんと話しとかないと」
「……そうですね。我々の力だけでは不十分でしょう。では私からお話を少々。ウォーターは準備があるでしょう」
「任せるぜ」

 そう言って、ウォーさんは呼びに来た小さな緑色の男性と交代して、私の前から離れて行った――。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

さんびきのぶたさん

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

異世界転生令嬢、出奔する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,940pt お気に入り:13,934

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:61,554pt お気に入り:3,771

とある婚約破棄の顛末

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:163pt お気に入り:7,608

転生したら召喚獣になったらしい

BL / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:2,176

9歳の彼を9年後に私の夫にするために私がするべきこと

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,445pt お気に入り:105

車いすの少女が異世界に行ったら大変な事になりました

AYU
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:582pt お気に入り:52

処理中です...