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塞がれる道とリーバーの献身

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「ぐぬ……あぁ、これがリクさんの力……」
「アマリーラさん! 恍惚とするのは止めて下さい! それただ単に捕まっているだけですから!」
「くぬっ! このっ!」
「もう、疲れるわね……さすがに全部は対処しきれないわよっ!」
「モニカがリクの所に行くまでの我慢なの! 捕まっても、少し力を吸われるだけなの! うきゃー!」
「ユノ! くっ……って、はぁ……駄目ね。さっきのでほとんど体が動かないわ。モニカ、必ずリクの所へ辿り着きなさいよ!!」

 後ろから聞こえる皆の声……アマリーラさんは伸びた茎に絡め捕られたのだろうか? 多分間違いないわね。
 植物を斬る音がほとんどなくなり、声だけが私をリクさんの所へと送り出すようになった。
 ワイバーンと一緒に皆も絡め捕られてしまったんだろう……ユノちゃんとロジーナちゃんは、無理してさっきの光を使ったみたいだし、まともに動けずってところかしら。
 ……ごめんなさい、皆……ありがとう。

「必ずリクさんの所へ……!」

 決意と共にそう言って、植物の中を突き進んだ。
 きっと、リクさんを助け出せばこの植物もなくなるはずだから……というか、そうじゃないとユノちゃん達もあれだけ無茶してないだろうからね。

「モニカ、危ない! のだわ!」
「っ! ありがとう、エルサちゃん!」

 突然、下から私の顔目掛けて伸びてきた茎……突き進む速度と相まって、反応が遅れて避けられないと思った瞬間、頭にくっ付いていたエルサちゃんが前足……手? ではたき落としてくれた。
 いつの間にか、少しだけ大きくなってくれていたみたい、ちょっとだけ重い。

「っ! あぶっ! リーバー!」
「ガァ、ガァー!」

 それからも、何度も私やリーバーへ向かって伸びて来る茎を避け、勢いのままリーバーが引き千切る。
 突入直後は振り切れるくらいだったのに、伸びて来る茎が増えたわね。

「後から突入したのが、皆捕まったみたいなのだわ。だから、こちらに集中するようになったみたいなのだわ」
「成る程ね……」

 他の皆が捕まり、攻撃を加えられるどころか力を吸い取り始めたから、とかかしら。
 無事なのが私しかいないため、こちらに集中しているってわけね。
 槍を使って振り払う手伝いをしたいけど、フィネさんに貸したし……そもそも効果速度が早すぎて、スレスレで伸びて来る茎を避けるくらいしかできそうにないわ。
 ……結局ユノちゃんの言う通り、槍を持たなくて正解だったみたいね。

「リーバー、炎なのだわ! このまま一気に突き進むのだわ!」
「ガァウ、ガァァァァ!!」

 エルサちゃんの言葉に反応して、口から炎を吐き出すリーバー。
 リーバーも全力を出すところだとわかってくれているのか、その炎はロジーナちゃん救出時よりも激しい。
 魔法も炎も効きにくいとはいえ、その勢いは伸びて来る蔦を焼け落とし、奥へと進む私達の道を開けてくれたわ。

「ありがとうリーバー! っ、見えた!」
「リク、リクなのだわ! 間違いないのだわ!」
「ガァ!」

 リーバーの吐き出した魔法の炎がなくなり、伸びて来る茎どころか壁のようになっている植物を、焼け焦げさせた先に地面が見えた。
 そこにたたずむのは一人の人間……エルサちゃんも認めているように、リクさんで間違いなかった。
 まだ距離があり、はっきりとは見えないけれどそれがリクさんだと断定できる。

 何故か……なんて疑問には思わない。
 だって、この戦いが始まってからずっと追い求めてきた人なのだから。
 でも変ね、リクさんはただそこに立っているだけに見えるわ……怪我をしているとか、動けないとかではないみたいなのに。
 もちろん、植物の茎に絡め捕られているというわけでもないのに、と思っていたら。

「ガァ!?」
「リーバー!?」

 リクさんの姿が見えて油断したつもりはないのだけれど、再び伸びてきた茎がリーバーの翼を掠めた。
 痛みから声を上げるリーバーに、驚きの声を上げる私。

「ガァ、ガァゥ」
「ほっ、良かったわ……」

 でもすぐに、なんでもない事のように声を出すリーバー……ほとんど瞬間的に再生されて血は流れなくなったみたい。
 痛みと驚きで声を上げただけで、深刻という程ではなかったみたいね。
 でもそうよね、忘れがちだけれどリーバー達、協力してくれるワイバーンは再生能力を持っているんだったわ。
 討伐対象として戦う際には、リクさんやユノちゃん達以外には厄介と思える能力だけれど、こうして味方になると頼もしい能力だわ。

「安心していられないのだわ。あれを見るのだわ!」
「あれは……塞がって行っている!?」
「みたいなのだわ」

 リーバーノ再生能力にホッとしたのも束の間、私の頭にくっ付いたまま少し大きくなっていたエルサちゃんが促した先を見る。
 そこには、佇むリクさんへの道を、ユノちゃん達が開けてくれた穴を塞ぐように、まるで意思を持っているかのように、植物の茎が盛り上がり、葉が重なっていく。
 私達をリクさんの所へ行かせないとでも言うかのようね……。

「リーバー急いで! 閉じられたら、開ける手段がもう私達には……!」
「ガァァ!!」

 ほとんど落下しているような状態から、リーバーが畳んでいる翼を動かし、さらに加速。
 息をするのも苦しいくらいの速度の中で、塞がれて行く道へと向かう……リクさんを目指して!

「……ダメ、間に合わない……!」

 リーバーにしがみつつ、声を絞り出した。
 迫る地上、そしてリクさん……だけど私達がそこへ辿り着くよりも、植物が道を塞ぐ方が早い!
 このままじゃ、激突するだけでリクさんの所へは……!

「グガァァァウ!!」

 大きく吠えたリーバーが、再び炎を吐き出す。
 これまで以上に、いえ、これまでとは比べ物にならない程の激しい炎が、塞がりつつあった植物へと向かう。

「リーバー!?」
「ガッ! ガァァゥ!!」

 焼け落ちず、炎を受け止めたその場所へリーバーがそのまま突っ込んだ。
 衝撃、減速と共に四方から伸びて来る茎に捕まる……そう思った瞬間、再び吠えたリーバーが植物を引き千切りながら抜け出した!
 ……けど、次の光景を見て私は絶望した。

「ほとんど塞がって……」

 なんとか抜けた茎や葉の壁だけど、それを抜けた先にはさらに分厚く葉が重なり、茎が絡んで強固な壁になっていたのが見えた。

「どうすれば……っ、リーバー!?」
「ガァ!」

 さっきよりも強固になっている壁を見れば、力を振り絞ったリーバーでも突破は不可能。
 私は武器を持っていないし、持っていたとしても貫く事はできそうにない……エルサちゃんは魔力がないし。
 諦めるしかないと思えるその状況で、壁に向かって加速したリーバーは、任せろとでも言うように鳴いた。

「ただ体当たりしても……!」

 リーバーが思いっ切り体当たりしたところで、分厚い葉と茎が絡み合った壁は抜けられそうにない。
 そのはずなのに、速度を落とさないまま急降下したリーバーは、突然体を傾けた。

「ガァ、ガァゥ!! ガッ!!」
「っっっ!! リーバー!!」
「これを狙っていたのだわぁぁぁぁ!?」

 顔からではなく、体を叩きつけるようにしたリーバー。
 その背中から、衝撃と共に投げ出される私とエルサちゃん。
 ほんの少しだけ……完全に閉じ切っていなかった壁の隙間に、私達を飛びこませた……。
 浮遊感と落下感。

 しがみ付いていたはずのリーバーから離れ、勢いよくその隙間に入って落ちる私の耳には、エルサちゃんの声だけでなく、リーバーの後は任せたと言うような声が聞こえた――。


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