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痛いけど無事に着地成功
しおりを挟む「これ、このまま落ちたら……?」
「地面は多分、リクの周辺は無事っぽく見えるけどだわ。私とモニカはペチャっとなるのだわ」
「そ、そうよね……」
リーバーから離れて、壁の隙間を通ってリクさんの所へ自由落下……まではいいんだけど、飛び込まされた勢いと高さから、グングンと地上が近付いて危機感が募る。
幸いにも、リクさんが佇んでいる周囲の地面は、赤い光の影響を受けていないようだけど、落ちたらペチャ、なんて可愛い音で済むとは思えないわね。
「はぁ、仕方ないのだわ。最後の力を振り絞るのだわ」
ものすごい勢いで地面に向かって真っ逆さまに落ちる私。
そんな私の頭にくっ付いたままのエルサちゃんが、溜め息を吐いた。
「え、エルサちゃん何を……? 魔力はもうほとんどないんじゃ……って痛い痛い痛い!」
「我慢するのだわぁぁぁぁぁぁ!!」
ギリギリと、エルサちゃんが私の頭を思いっ切り掴む、そのあまりの痛さに叫ぶ私。
同じく叫びながら、エルサちゃんがバッサバッサと羽ばたく……羽ばたく?
頭の上だからよく見えないけど、エルサちゃんが翼を広げて激しく羽ばたいているみたい。
さっきまで感じていた、恐怖心しかわかない落ちる速度がだんだんと緩やかになって行く……。
最後の力を振り絞るってつまり、エルサちゃんが羽ばたいて勢いを落とすって事なのね。
魔法を使う程の魔力がないからだと思うのだけど、そういえばエルサちゃんは大きくならなくても飛べるんだったわ。
さらに緩やかになる落下速度……それでも確実に落ちて行っているのだけど、これならペチャ! とかグチャ! とかならずに地面に降りる事が……。
「あ、駄目なのだわ。限界なのだわ」
「え、ちょエルサちゃ……ぐべっ!」
フワフワとするくらい、落下速度が緩くなって安心しようとした瞬間、気の抜けるエルサちゃんの声。
声そのものだけでなく本当に気が抜けたらしく、再び落下した私は勢いよく地面に叩きつけられた。
幸いなのかなんなのか、かなりの衝撃と痛みを感じつつも緩やかになった勢いのおかげで体を横にできたので、ペチャ! ともグチャ! ともならずに地面に落ちる事ができたわね。
「つぅ……エルサちゃん、できるなら最後まで頑張って欲しかったんだけど……」
「し、仕方ないのだわ。途中も頑張ったし、これまでも頑張っていたのだわ……」
「そうだけどね……まぁ、でもおかげで助かったわ。ペチャッとならずに済んだみたいだし」
「感謝するといいのだわ……」
骨が折れているとか、そういうことはないみたいで全身を打ち付けた痛みに耐えながら立ち上がる。
でも、あのままの勢いで頭から落ちていたら、子供には見せられないとんでもない状態になっていただろうし、助かったのは間違いないわね。
「何はともあれ、ありがとうエルサちゃ……ちっちゃくなったわね?」
「もうこれくらいにしかなれないのだわ。これ以上は逆に元の大きさに戻ってしまうのだわ」
元の大きさっていうのは、私達を乗せて飛ぶくらいの大きさかしら?
なんでそうなるのかはわからないけど、起き上がる際に衝撃で私のお腹に乗っていたエルサちゃんを持ち上げると、手の平に乗るくらいの大きさになっていたわ。
色々と力を使い果たす寸前……といったところなのでしょうね。
「……あれ? モニカさん?」
「っ! リクさんの声!」
「……モニカも、アマリーラの事をとやかく言える感じじゃなくなってきているのだわ……」
右手に乗ったエルサちゃんとのやり取りをしていると、横から聞こえる私の心を躍らせる声。
間違いなくリクさんの声! そう思ってガバっとそちらへと体を向ける私に対し、手の上から呆れたようなエルサちゃんの声。
何故かしら、エルサちゃんとやり取りしていると他の事を忘れる……わけじゃないんだけど、締まらないやり取りになってしまうのは。
もしかすると、リクさんに緊張感があまりないのもそのせいなのかしら? いえ……リクさんの性格もあるわね。
なんて頭の片隅でどうでもいい事を浮かべながら、声がした方を見ると。
「リ、リクさん!」
「久しぶりだね、モニカさん。でもどうしてここに?」
そこには間違いなく、見間違えようもなくリクさん本人がいた。
キョトンとした表情で、相変わらず緊張感がないようなのほほんとした声を出してこちらを見ているわね。
どうしてもなにも、必死になってここまで来たのに……気が抜けるような、むしろ怒りが沸いてくるような、妙な感情が沸き上がるのを感じるわ。
「ひ、久しぶりって……リクさん、あれから一日も経っていないわよ?」
複雑な感情を押し殺し、ちょっとだけ隠しきれずに表に漏れながらも、リクさんに声を掛ける。
どうしても、今そんな話をしている場合じゃないような事を口に出してしまうのは、リクさんの無事が確認できて何を言っていいかわからないからかもしれない。
ともあれ、久しぶりなんてそんなわけはないわ。
ヒュドラーやレムレースを北側で倒したリクさんと別れてから、まだ半日程度しか経っていないはずだもの。
「え? 何を言っているの……って、あぁそうか。隔離結界の中にいたらわからないよね。あれを作ってから、十日くらい経っているよ?」
「十日!? え、何……どういう事、なの?」
十日? え、十日!?
リクさんが何を言っているのか、よくわからない。
だって、ヒュドラーを全て倒したらしい……という報告を聞いて兵士達が突撃したりして、そうしていたら結界に閉じ込められていたのだわ。
その後すぐに皆を集めて必死で外へ出たわけで、日が沈んだなんて事もないはずだわ。
驚いたというかわけがわからなくなって、思わず頭の中でエルサちゃんと同じ語尾になってしまったのだわ。
「……隔離結界って名前でわからなかったけどだわ、あれはつまり空間をずらしたって事なのだわ?」
「もちろん。だってあの赤い光を見たでしょ? あれを重ねた多重結界だけで、防げるわけないじゃないか」
「重なっていたせいで半透明なのではなく、空間がズレていたから外が見えにくかったって事、なのだわ……」
「え、何? 一体どういう事なの? リクさんとエルサちゃんは何を言っているの?」
リクさんとエルサちゃんが話す内容がよくわからず、私は首を傾げるしかできないわ。
確かに、魔物を殲滅したあの赤い光は強固な結界だけで防げるか? と言われたら頷けないわ……いえ、そもそも私には赤い光がどれほどの物なのかを正しく理解できていないのだけど。
ただ空間をずらしたとか、あれから十日も経っているなんて、意味がわからないもの。
「モニカ、思いだすのだわ。リクと私がしばらく戻ってこなかった時の事を。あれと同じなのだわ。あの時私とリクはこことは違う別の空間に閉じ込められていたのだわ。その中では朝から昼くらいまでしか経っていないのに、こちらでは数十日経っていたのだわ」
リクさんやエルサちゃんがいなくなった事に関しては、詳細は落ち着いてから話すと言われていたから、よくわからない部分もあるけど……。
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