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センテに戻る方法

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「と、とにかく……エルサの考えている通りなら、隔離結界の中は大丈夫って事だよね? うん、失敗と言える程の事にはなっていないってわけだ!」

 現象としての理屈はわからないけど、とにかく大丈夫という事で元気よく声を出した。
 頭にくっ付いているエルサからは、お前が言うなと言わんばかりに締め付けられたけど……うん、そうだね、ちゃんと確かめずに魔法を使った俺が悪いよね、ごめんなさい。

「ある程度安心できるとはいっても、隔離結界に開いた穴の付近は今見えている地面のように凍っていると思うのだわ。もしそこに誰かがいれば……」
「氷漬けになっているかもしれないね」
「……結界の穴を出てすぐはリクさんが凍らせる前の、赤い地面だったから、私達が出た後は出入口に近付く人はいないと思うわ。けど、空いた穴の近くには誰かがいてもおかしくないわね」
「私達が出る前にはぁ、シュットラウル様が近くで兵士達をまとめていましたねぇ。もしかしたら、誰かはいるかもしれませんねぇ」

 さすがに、一切影響がないと期待するのは危険らしい。
 ブリザードの魔法は赤熱した大地ですら凍てつかせるわけで、もしそれに人が触れたら……一瞬でカチコチに凍りそうだね。
 触ってバラバラになったりしなければ、コールドスリープ的な感じで息を吹き返すかもしれないけど、それに期待するのはちょっとね。

「え、えーっと……とりあえずここの結界の外を見る限り、もう大丈夫そうだから早く戻らないと。というか戻ろってどうなっているか確かめないと!」
「そうは言うけどだわ、どうやって戻るのだわ? 私はまだ魔力が少ないのだわ……最大効率でリクから流れる魔力を得られるようこうしているけどだわ、それでもまだまだかかるのだわ」
「あ……そうだった……」

 とにかく隔離結界の中が今どうなっているのか、確かめるために戻らないと! と思ったけど、今すぐだと手段がない。
 エルサはさっき皆を受け止めるために、大きくなるので精一杯だったし今すぐもう一度はできない。
 ここにいる皆を乗せて飛ぶなんてのも不可能だろう。
 というか、俺の頭にくっ付いているのって居心地が良さそうにしているけど、一番魔力吸収の効率が良かったんだね……まぁ、これまでにも似たような事は言っていた気がするけど。

「凍ったのなら、今の地面を歩いて戻るのはどうかしら? さっきまでは、靴どころか何もかも溶かしてしまうから歩けなかったわけだし」
「うーん、それもしばらくは止めておいた方がいいかな。できなくはないけど……」

 モニカさんの提案に、腕を組んで考えながら否定し、理由を話す。
 俺達を囲んでいる筒状の結界を解けば、今すぐにでも外に出られるだろうけど……危険だ。
 魔法の影響というか、空に広がった魔法はもう影響力を失っていて、赤熱していた地面において突かせる役目を完了している。
 でも、急激に冷やされた地面は周囲の気温を極端に下げている……要は寒い。

 魔法を使った中心であるこの場所は特に、もし結界がなかったらバナナで釘が打てるくらいになっていると思う。
 そんな状況で、寒さ対策を一切していない装備の俺達。
 歩くとするとここから隔離結界の穴が開いた場所、センテの南東まで時間にして一時間近くかかるだろうし、寒い中だとさらに速度が落ちる。
 急激に冷やされた影響で、ドライアイスに水をかけて白い煙が出るように、空気中の水分や水蒸気が冷やされて氷や水のつぶが舞っている状態。

 つまり、真っ白な煙のようなものが発生していたりする。
 そんな地面の上を歩こうとしたら、煙で周囲が見えにくいだけでなく凍傷になってしまいそうだ。
 完全防寒していれば別だけど……。

「そんな事が……こういった経験はないから、どうなるのかまではわからなかったわ」

 俺の話を聞いて、口に手を当てて驚いているというより恐れているような様子で、結界の外を見るモニカさん達。
 白い煙は、立っている俺達の目線よりは低いけど、あそこに行けば足下は全く見えなくなるだろうなぁ。
 
「まぁそうだよね。俺も、経験というか単に知識として知っているだけだから……」

 理科の授業とか実験、その他にテレビ番組とかで見た知識で、この世界にはほとんどないものだろう。
 少なくとも、研究としてはないだろうね……姉さんなら、俺と同じように知識としてあると思うけど。
 経験としては、日本人でもこんな南極のど真ん中にいきなり放り出されるような事はないし。
 いや、やったのは俺なんだけど。

「今こうしているように、リクさんが結界を使いながらというのはどうでしょうかぁ? それなら、寒さに凍える事なく移動できそうですけどぉ……」

 戦闘時と違って、相変わらず間延びした話し方をするリネルトさんに聞かれる。
 同じ事を考えたようで、フィネさんもコクコクと頷いていた。

「やれるかやれないかで言うと、多分できるよ。でも、結界を張り直しながらだと、その場の寒さを和らげる事はできないし、暖めがらだとすぐにというわけにもいかないかな」

 結界は外と内を隔絶するだけで、移動して張り直した際に俺達の周囲を取り巻く気温なんかは、どうしようもない。
 結界を張って、その場で別の魔法を使って暖を取りながら……というのもできなくはないけど、結局時間がかかり過ぎる。
 他に戻る方法がない場合の、最終手段だね。

「今ある結界を移動させながら、というのもできるけど……どちらにしても、ワイバーンを運ばないといけないからね。現実的じゃない」

 ワイバーン達は、人を乗せて飛べるわけだから当然大きいし、重い。
 以前エルサがやったように、結界で包んで運ぶなんて事もできるけど、これも結界を張り直すのと同じように、時間がかかってしまう。
 魔力はそれらを実現するくらいは余裕であるんだけど、俺はエルサ程器用じゃないからね。

 囲んでいる結界を、少なくとも足下にも新しく張って凍った地面に触れないようにしつつ動かし、さらにワイバーンを包んだ結界を動かして……というのは難しい。
 精々、どちらか一方の結界を動かすので精一杯だ。
 寝ているユノとロジーナは誰かが背負って行けばいいけど、ワイバーンを全て持って運ぶのも難しいし。

「せめて、ワイバーンが起きてくれれば。誰か一人でも、先に戻せるのに……」
「……ガァゥ?」

 なんて、俺が呟いたのに反応したわけじゃないと思うけど、落ちて来てからずっと意識を失い……というかユノ達と同じように寝ていたワイバーンの声がした。
 他の魔物とは違う、鳴き声とわかる声だからこれはリーバーか?

「リーバー! 大丈夫!?」
「ガァ、ガァゥ」

 俺が反応するよりも早く、モニカさんが目を開けてこちらを見ているリーバーに駆け寄った。
 モニカさんの呼びかけに対し、リーバーが顔を……首をもたげて大丈夫と応えるように鳴く。

「リーバー、ありがとう。おかげで、リクさんを助け出せたわ。ほら、あの通り!」
「ガァ?」

 モニカさんの感謝に、少しだけ首をかしげるようにしたリーバーが俺を見た――。


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