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白い剣の活用

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「ガァ?」
「えっと、あ、成る程。ありがたいけど、ここで炎はちょっとね」

 なんなら溶かす? とばかりに口をパカッと開けるリーバー……一瞬何をしようとしているのかわからなかったけど、すぐに理解して首を振る。
 少々の熱では表面を溶かすのも難しそうだし、空気穴があるとはいえ結界で包まれた限定的な空間だから、リーバーの炎は危ない。
 魔物を焼き殺せる炎の勢いだと、酸欠になりかねないしそれでも溶かせそうにない。
 皆が無事なくらいに加減したら、それはそれで氷には一切影響がなさそうだし。

「これもリクさんの魔法の影響なのよね? だったら、さっきの植物みたいに吸収するっていうのはできないの?」
「うーん、もしかしたらできるかもしれないけど、難しいと思うよ。あの植物は魔法とは違うからだし、この氷付いた部分は魔法の影響だからね。一度発動された魔法の魔力を吸収っていうのはちょっと……」

 自分の意識はともかく、使ったのは俺自身の体なのでわかるんだけど……植物は俺の魔力やら力やらを使って、物質化してこの世界に顕現したようなもの。
 対して魔法は、魔力を変換してあらゆる現象を引き起こす。
 そのため、純粋な魔力や力の結晶とも言える植物に対しては、自分の魔力を介して干渉できたけど魔法は一度現象として成っているから、魔力を触れさせても干渉は難しい。

 結界みたいに、維持のために常に魔力を使われているなら、ある程度感覚として状態が伝わって来るけど、それでもそのくらいだ。
 とはいえ、今この説明をモニカさん達にわかるように説明しようとしても、無駄に時間がかかるし、理解してもらえるかはわからないので、とりあえず難しいしほぼできないだろうという事にしておく。
 もしかしたら、何か方法があってできるのかもしれないってのもある。

「でも成る程、魔力を吸収ね。俺の魔力だから俺が……というわけにはいかないけど、いい物があるよ」
「え?」

 そうモニカさんに言って、こちらを窺っているフィネさん達にも見せるように、腰に下げている剣を抜く。
 その剣は、鞘はそのままだけどヒュドラーと戦う時に、剣身が割れて内側から新たに出てきた物。
 白い剣と適当に呼んでいる物だけど、意識が飲み込まれてから使われていなかったからか、今はあの時のような輝きはなく、ただ白いだけだ……まぁ、陽の光を反射して輝いていると言えば輝いているけど。
 そういえば、モニカさん達と対した時に俺の意識を乗っ取っていた負の感情の塊は、なぜこれを使わなかったんだろう?

 動いて場所がズレれば、植物に与えていた力が途切れるというのはわかるけど、腕は動かせたんだから使ないなんて事はない。
 魔力を注ぎ込めば剣身が伸びるため、届かないからとかそういう理由ではないはずだ。
 ……魔力を強制的に吸収して使われるから、かな? 負の意識は魔力に性質が似ているようだったし、剣に吸われたら負の意識とかも吸収されて使用されたのかもね。
 ヒュドラーはともかくとして、同じく複数の魔物の意識が魔力になったレムレースに対しても、かなり有効だったし。

「その剣……そういえば、いつの間にかもっていたけど。リクさん、その剣はなんなの?」
「これは、今まで使っていた剣が……」

 抜いた俺の剣を見て、モニカさんが不思議そうに尋ねて来る。
 モニカさんだけでなく、フィネさんやリネルトさん……エルサも、知りたかったようでジッと俺の藩士を聞いてくれた。
 とは言っても、黒い剣の剣身がヒュドラーとの戦いに耐えられずに割れた事、内部に刺し込んだ相手の魔力を吸収する事。
 それから、持っている俺の魔力を使って剣身が伸びる事などを簡単にだけどね。

 吸収した魔力が少しだけ使用者に還元されるというのは、落ち着いた時に話そう……今必要な話じゃないから。
 ……剣の話しも今必要うかと問われると疑問ではあるけど。

「魔力を吸収、だからあの時レムレースが……」
「うん。モニカさん達から、レムレースは死んだ魔物の魔力や思念からできているって聞いたからね。ヒュドラーからも魔力を吸い取れたし、それなら魔力そのものとも言えるレムレース相手なら、特に効くんじゃないかなって」

 レムレースのような、魔力集合体のような魔物には特攻の剣とも言えるよね。
 突き刺してからは、魔力を吸収し続けていればまともに魔法すら使えなくなっていたし。
 まぁヒュドラーもほとんど何もできなくなっていたけど……体をまったく動かせない程じゃなかったから、特攻とは言えないかな。

「とにかくこれをこうして……この氷が魔法で引き起こされた現象だから、この通りってね」

 皆に見せていた白い剣を、出入り口を塞いでいる氷に突き刺す。
 魔力吸収モードの剣は、氷に含まれていた魔力を吸い取って薄っすらと輝き始めた。

「そこまで軽々と突き刺さると、削るのが精一杯と思った私はなんだったのかと思ってしまうわね。でも……溶けて行っているわ」
「リクはほんと、よくわからない事をよくわからないうちにやるのだわ。呆れるしかないのだわ」

 切れ味も効果も、俺というよりこの剣なんだけど……呆れられるのはちょっと納得いかない。
 けど、他の事で色々やっているので仕方ないと思う事にする。
 ともあれモニカさんが言っているように、剣を突き刺した場所からじんわり広がるように溶けて水になっていく氷。
 さすがにさっきの植物のような純粋な魔力とかではないので、消滅したり蒸発したりはしない。

「ん? 何か違う感覚が……?」
「リクさん、どうかしたの?」
「いや、何がってわけでもないんだけど……まぁ、あまり気にする事じゃないと思う」

 氷が溶けていき、少しずつ剣を進めていくと先の方で少しだけ違う感覚を覚えた。
 剣ごしだし、そもそも金属並みに硬い氷すら軽々と突き刺せる剣なので、ほんのちょっとした違和感でしかなかったけど。
 でも、それで何かあるわけでもなく……若干、白い剣の輝きが増したくらいだ。
 もしかすると、氷の中でも濃い魔力を含んでいる部分に触れただけなのかもしれないし、もしかしたらエルサの言っていた洞穴の入り口みたいな効果で、奥の方は表面みたいに硬くなっていなかったのかもね。

「うん、大分いい感じ。これなら割れそうだね」

 突き刺した白い剣が魔力を吸収して、溶かして行っているのはその剣身が触れた部分付近に限られる。
 今では、腕を通すくらい穴が氷にぽっかりと開いてはいるけど、それで皆が通れるわけじゃない。
 剣を奥まで届かせるように真っ直ぐ腕を入れて、肩付近まで行ったから……大体四メートルくらいの穴は開けた。
 というか、いくら分厚い氷とは言ってもそこまでじゃないし、剣先からは何もない空間に突き抜けているという感覚もあるので、内部に入り込んでいるはずだ。

 それに、氷を硬くしている原因の魔法……そのための魔力はほぼ吸い尽くしたので、後は簡単に割れるだろう。
 簡単に言うと、目の前の穴の開いた氷は魔法で凝縮された氷から、ただの氷になっているってわけだね。
 ……わかりにくいか――。


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