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リクはリクという存在

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「人間は、ヒュドラーやレムレースを単独で討伐できないし、そもそも街を覆う結界を張れたりはしないわ。まぁ、エルサちゃんとの契約もあるんでしょうけど」

 モニカさんの言葉に、深く頷くシュットラウルさんとマルクスさん。
 それ以外にも、大隊長さん達この部屋にいる全員が頷いていた。
 そんな馬鹿な……。
 確かに、エルサと契約してドラゴンの魔法を使えるようになってから、人間離れしてきたなーとか考える事はあったけど!

「むぅ……」
「まぁリクさんが本当に人間かどうか、というのは私にはどうでもいいのよ」
「どうでもいいの!?」

 どうしたら納得してくれるのか、と眉を寄せて考えている俺に、あっけらかんと言うモニカさん。
 ここまで現実……いや、俺が普通の人間とは違う事を突き付けておいて、どうでもいいって……。

「リクさんがリクさんであるって事実が私には大事なの」
「あ、うん。そうなんだ……」

 なんだろう、そうモニカさんに言われてそっけなく答えてしまったけど……なんとなく胸に温かい気持ちみたいなものが芽生えている気がする。
 一瞬にして、俺が人間かどうかなんて些細な問題に感じられた。
 認められたのに近いのかな? その相手がモニカさんだからかもしれない。

「それにねリクさん。話を戻すけど、リクさんが一人で国や世界をなんてヘルサルでゴブリンと戦っていた時にはわかっていた事よ? いえ、おぼろげながらでもエルサちゃんを連れて戻ってきた時、もっと言えば、魔法を初めて使った時かしら?」
「魔法を……って、あの時の事かぁ」

 今回も使って、今もセンテ周辺を凍らせている魔法……魔法名は適当にブリザードと勝手名付けたけど、言われてみればそうなのかも?

「あんな事ができるのは、通常の人間の枠からは外れていると言ってもおかしくないわ。それにほら、大量のゴブリンを殲滅した光を見た時は、あぁこの人は一人の人間ができる事を軽々と超えられるんだなって思ったわよ」
「直に見たわけではないが、あのヘルサル防衛戦の報告を聞いた時は、すぐには信じられなかったな。まぁ、それがあったからリク殿を私の下にと考えたのだが」
「多少の怪我人は出ても、死者ゼロですからね。王都にいた私はその話を聞いてあり得ないと他の者達と叫んだくらいです」

 ま、まぁそうかもしれない。
 モニカさんの言う通り、いくらドラゴンの魔法が使えるからといって通常の人間の魔力なら、ゴブリン全てを殲滅なんてできなかった……例え、エルサから魔力を供給されていたとしても。
 実際には、俺がとんでもない魔力を持っていたからエルサの方に流れているけど、本来はドラゴンの方から契約した人間に魔力が流れるとか。
 その魔力で、ドラゴンの魔法というイメージを具現化させて、強力な魔法を扱えるはずなんだけど……俺自身の魔力で尋常じゃない威力になっていたりする。

 ヘルサル防衛戦の時、とてつもない数のゴブリンがクラウリアさんのせいで押し寄せてきたわけだけど、あのまま俺が一緒に戦うくらいの協力だったら。
 死者はゼロどころか数百、いや数千とかヘルサルの街そのものも危うかったかもしれない。
 シュットラウルさんは侯爵領内のできごととして、それを覚悟していただろうし、離れた王都で結果を聞いたマルクスさんや、他の人達があり得ないというのもわからなくはない。

「あの後リクさんは意識を失ってしばらく起きなかったけれど、あのゴブリン達を殲滅できるというそれだけで、国一つくらい相手にできると思うわよ?」
「そうだな……その光というのは私は話に聞くだけだが、万を越えるゴブリンを一瞬で消滅させられるというだけで、脅威と言うだけでは済まん。一つの国でどうにかできる戦力ではあるまい」

 確かにあの光……超々高温の炎なんだけど、それが使えるだけで十分なのか。
 あの後は使える気がしなかったけど、もし使えるのならそれこそ王都に直接叩き込めば、それだけで国全体が混乱する。
 大きな王都と王城が、一瞬で消滅するわけだから。
 まぁ、姉さんもいる王都や王城に対して、そんな事をやる気は一切ないけど。

「そう考えると、リク様が冒険者になっていたのは良かったと言えるかもしれません。おかげで侯爵様の勧誘も強硬されず、国に取り込もうという動きは少なくなりました」
「……今考えると、私にとっては痛恨の悪手だったな、あれは」
「ですね。もしリク様を国に取り込んでいたら、利用しようとする馬鹿者が現れていたでしょう。その者には過ぎた力であるにもかかわらずです。バルテルは陛下が止めるよう言い付けましたが、実際には暴走して凶行へと発展しました」
「そのバルテルも陛下を人質に取ったのを、リク殿が斬り伏せた。私はあの場にいたからな。ふむ、そう考えるとリク殿を国に取り込むのではなく、最高勲章を与えて英雄と讃えるよう判断した陛下は、さすがにご慧眼か」

 シュットラウルさんとマルクスさんが、ヘルサル防衛戦後のあれこれを話しているけど、あの時姉さんは俺の事を知らなかったし、俺も知らなかった。
 冒険者だったから、マックスさんやヤンさん達の協力もあってシュットラウルさんの勧誘は退けられたけど……。
 あぁそういえば、バルテルが凶行に走る直前、俺を利用しようと発言して姉さんに諫められ、逆ギレに近い形で行動を起こしたんだったか。
 もし俺が冒険者になっておらず、国に仕官とかしていたらマルクスさんが言うように、他にも利用しようとする人が出てきたのかもしれないね。

 女王様が姉さんだとわかれば、姉さんが俺の事を直に見て知ることができれば多少は抑えられたとしても、場合によってはそれこそバルテルが直接接触してきて何かしらの、悪い事が起こっていた可能性は高い。
 そう考えると、俺に冒険者への興味を持たせたロジーナや、冒険者になれるよう色々教えてくれたマックスさん達のおかげで今こうしていられるとも言えるか。
 冒険者になっていなかったら、ヘルサル防衛戦の直後に俺は連れて行かれていたかもしれないし……その先が王都なのか、シュットラウルさんの所なのかはわからないけど。

「ね? マルクスさんもシュットラウル様も、リクさんが一人で国を滅ぼせる事なんか、あまり気にしていないの。だから、リクさんが自分の力で申し訳なく思う事なんてないのよ」
「モニカさん……」

 思わず呆けた顔でモニカさんを見る俺に、柔らかい微笑みを返してくれる。
 もしかしたらモニカさんは、さっき俺の説明で皆が押し黙ってしまった時、俺が申し訳なく思っていた内心を見抜いてこういう話をしたのかもしれない。
 敵わないなぁ。

「いや、多少は気にしているのだが……まぁリク殿が自分の意思で、この国に何かするとは思っていないがな」
「リク様は、常に誰かを助ける事を指針に行動していらっしゃったと、私は近くで見て感じています。リク様が本心からそう望む事はないでしょう」

 シュットラウルさんやマルクスさんも、俺を信じてくれているって事みたいだ――。


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