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キューはエルサ優先

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「うーん、もしかしたらそうかもね……本当に巻き込まれるかはわからないけど、食事会とかを開いて、シュットラウルさんが続けそうな気配はあったと思う」
「エルサちゃんも頑張ってくれたからね。私もそうだけど、侯爵様達もエルサちゃんを讃えるのに、躊躇する事はないと思うわ」

 モニカさんがこちらを見ながらそういう……篝火に照らされて、苦笑しているのがよくわかる。
 エルサは適当に流すか調子に乗るか、のどちらかだと思うんだけど、俺に対してどうこうというのは正直もっと躊躇して欲しかったりする。
 ここに至っては、慣れていないとは言わないけどやっぱり気恥ずかしいからね。

「とにかく、キューを要求するのだわ! キューがたらふく食べたいのだわ! ようやく、落ち着いて美味しくキューを食べられるのだわ!」
「はいはい、宿に戻ったら用意してもらうから……先に用意されているかもしれないけど」

 俺の頭にくっ付いたまま、ジタバタと暴れるエルサ……よく落ちないな。
 主張はわかったし、俺も同じくお腹が減っているから気持ちはわかるけど、もう少し落ち着いて欲しい、近所迷惑だから。
 いや、まだ非常時の体制が解かれていないから、篝火以外では兵士さんと見られる人達が道を行き交っているし、民家には人の気配はないんだけどね。
 一般の人達は、別の場所に集まっているらしいから。

 後行き交っている兵士さん、俺が戻ってきている事などは既に連絡が言っているのか、驚いたりする人は少ないんだけど……すれ違う時、わざわざ止まって敬礼はしなくていいんですよ?
 一度言っても、我々はリク様のおかげでこうして生きていられます! ですので自然と溢れてこうするのが正しいと……なんて言っていて続きそうだったので、諦めている。
 一体何が溢れるのかは疑問だったけど、そこを掘り下げると食事がもっと遅くなりそうだった。

「私達が戻ってまた出る時、宿の人達が張り切っていたのが見えたわよ? 多分、腕に寄りをかけて料理を作っているんじゃないかしら? エルサちゃんのキューだと……張り合いがないかもしれないけど」

 リーバー達に乗って戻ってきた時、宿の庭に降りたから俺達が戻ってきている事は、報せがなかったとしても皆知っている。
 俺とモニカさんはすぐに庁舎へ向かったけど、それでも数人とは挨拶をしていたからね。
 張り切っているとモニカさんが言っていても、やっぱり平常時と違って大きな贅沢ができる程潤沢に食材があるわけじゃないので、それなりだろうね。
 まぁそれでも、宿で出る食事は美味しいんだけども。

 皆、俺には涙を流しながら感謝を言っていたから、意識が飲み込まれてあれこれしちゃった分、素直に受け取っていいのか悩むところだった。
 まぁそれが、庁舎での皆への申し訳なさとかだったんだけど。

「キューはただそれだけで美味しい、完璧な食物なのだわ~」
「……美味しいのは否定しないけど、本当に完璧かどうかはどうだろうなぁ」

 キューを使った料理というのもあるけど、エルサはヘタを取ってそのまま食べるのを好む。
 だから料理をする人にとっては確かに張り合いがないかもね……美味しいのは俺も好きだから認めるけど、完璧かどうかは首を傾げる。
 味や見た目は地球のキュウリと同じで、ただ呼び名が少し違うだけだと思うけど、それなら栄養などの点でちょっとね。
 本当のところは誤解で、世界一熱量が低い……つまりローカロリーな果実なだけであって、実際に栄養がないわけじゃない。

 とはいえ、他にも野菜や果物には栄養豊富な物もあるわけで。
 キューが完璧な食物というのはさすがに同意できないなぁ。
 大好物で、キューさえあればいいとすら考えていそうなエルサだからの言葉だろう。

「とにかく、キューを食べるのだわ。キューがなかったら暴れるのだわ!」
「駄々っ子じゃあるまいし……まぁでも、キューは絶対用意されているはずだから、もう少し我慢しててよエルサ」
「エルサちゃんがキューが好きな事は、皆知っているから大丈夫よ。魔物と戦っていた時でさえ、宿には優先的にキューが運ばれていたらしいし」
「え、そんな事になっていたの? 確かに、戦闘中で王軍が到着する前で物資が不足しがちな状況でも、キューだけはエルサが満足するまで出ていたけど……」

 てっきり、センテが食糧集積場の役割を担っていたから、備蓄が多くあってキューが余っていたんだと思っていた。
 けどキューだけはエルサに食べさせるために、集められていたのか。

「センテだから、なんとかなっていたって思っていたよ」
「それもあるでしょうけど、さすがにね。今キューは空前絶後の人気になったから、国内全体でキュー不足に陥りかけているのよ? エルサちゃんが一度に食べる分だけでも、家庭の何日分あるか……」
「そう言えばそうだった」

 キューが不足しかけている、というか値上がりは既に起きていたんだった。
 空前絶後というのは言い過ぎだと思うけど、王都では確かにかなりの人気で、噂の広まりと共に段々と他の場所でも人気が出て来ていたのは間違いない。
 このままじゃ高騰し過ぎたり、不足して満足に食べられなくなるかも、というわけでエルサが全力……かどうかはともかく、農地の拡充のためにハウス化する俺を手伝ってくれている部分もある、と思う。
 エルサは一食でキューを数十本、百は食べないくらいだから……体を大きくした状態なら数百本は食べられそうだど、食事をする時は小さい状態だ。

 それだけでも、一食あたり一人一本が通常と考えたらとんでもなく多い。
 センテだからって言っても、キューが不足するのは間違いなかったんだなぁ。

「皆、エルサちゃんに頑張ってもらいたかったんでしょうね。期待というか……実際に活躍してくれていたし。それに、他の人がキューを食べられなくなっても、大きく困る事もないのが理由だと思うわ」
「まぁ、そりゃそうだよね」
「私は、キューが食べられなくなったら困るのだわ」

 エルサが困るのはわかるけど、多分他の人達が困る事が少ない食材だからという理由が一番大きいか。
 キューを優先的に他へ……エルサに回しても悪い影響はほとんどないだろうし、むしろ他の食材より都合が良かったのかもしれない。
 利害の一致というか、それでエルサは頑張ってくれたわけだからある意味安上がりだ。

「エルサちゃんはそうよね。でも、ヘルサルからも届いているみたいだから、不足したり食べられなくなったりする事はないと思うわ」

 エルサを安心させるように、そう言うモニカさん。
 ヘルサルからって事は、向こうで備蓄していた食糧が運ばれていたとかだろうか?

「そうなの?」
「えぇ。農場を作ってすぐの頃に植えたキューが、収穫されたみたいなのよ。どこから何を運んで来るかは、私も詳しくは知らないけど……ヒュドラーが見つかる前に、宿の人達が話しているのを聞いたわ。やっぱり、魔力溜まりのある場所だからか、収穫までが早いみたいね。他の作物も、直に収穫されるみたいよ」


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