1,422 / 1,955
氷を滑らないための提案
しおりを挟む「成る程、上に乗って滑るのなら、穴を穿って自ら固定すればいいのか」
「そんな感じですね。ちょっとだけ取り扱いには注意がいりますし、多少動きが阻害されますけど、滑るよりはいいかなって」
アイススパイクはつまり、靴に太めの針を取り付けようって事だからね。
もしそれで誰かを踏もうものなら、氷より柔らかい皮膚は簡単に貫ける……鎧でガードはできるだろうけど。
あと、スパイク部分を突き刺すので、機敏に動けなくなりそうなのも欠点か。
滑らなくなるという利点が上回るから、使用する場所を考えれば悪くはないはずだ。
新しく靴を作って履き替えるのではなく、脱着式にする事でコストも抑えられる……と思う。
脱着式にする方がコストがかかったり、しないよね?
ちなみに針としたのは、俺自身がアイススパイクに詳しくないからこんなものだろうと思っての事なのと、細かく説明しようとしても伝わらないだろうからっていう理由。
できるだけ簡単に作れそうな物として、そう考えた……今回以外で、需要はほとんどなさそうだしちゃんとした物を作る必要もないからね。
開発に時間をかけている場合でもないし。
「針を靴底に、折れない耐久性も必要ですから、少々手間取るかもしれませんが……明日には作れるかと。今は、センテの鍛冶職人達が結集して協力してくれていますから」
「緊急で戦いのための武具製作のため、集まってもらっているからな。まぁ、今は一部にワイバーン素材の武具製作を任せてはいるが。それらも含めて、リク殿の提案した物を作るのはマルクスが言っているくらいか。量を作るのには数日といったところだな」
「滑らないようになればもっと作業が捗りますし、効率アップは必要ですから、よろしくお願いします」
センテは農作物の集積場ではあるけど、何故か鍛冶師も多い……農具とかに必要だからかな?
王都を除けば人口は国内一のヘルサルよりも多いらしいから、協力してもらえれば簡易的なアイススパイクはすぐに作れるだろう。
最初に少しくらい手間取っても、俺の考えている限りでは複雑な物でもないので、量産もすぐにできるはず。
使用する人数が千人近い規模だし、使っていれば壊れるのも当然なのでかなりの数を用意するのに時間がかかるのは当然として……金属が足りない、という事は多分なさそうかな。
魔物との戦闘で使えなくなった武具があるから、それを再利用するみたいだし、ヒュドラー戦前もそうして不足しがちな装備を支給していたりもしたようだからね。
「すぐに手配しましょう。少々席を外します」
「うむ、頼んだ」
「よろしくお願いします」
マルクスさんが、アイススパイクの準備をするよう伝えるため、部屋を出る。
ロジーナの話をするため人払いをしていたから、いつもと違って部屋の中に執事さんとか、伝令などを担当してくれる兵士さんとかがいないからね。
しばし、マルクスさんが戻って来るのを待つ。
「……戻りました。すぐにセンテにいる鍛冶職人を集めて、最優先で仕上げると意気込んでいました」
「え、報せを向かわせたんじゃ……」
戻ってきたマルクスさんは、満足そうな笑顔で何やら不思議な事を言った。
職人さん達に伝える伝令を送るなら、まだ答えは返ってこないはずなんだけど……。
「ちょうど、鍛冶職人をまとめている親方衆が、ワイバーン素材の装備について報告に来ていたようでしたので、直接伝えました。皆、リク様からの提案とあって最優先で当たってくれるそうです」
「そ、そうなんですか……まぁ良かった、のかな」
まとめてくれている親方衆なら、作る物の詳細もすぐにわかってくれただろうし、伝令を向かわせて伝言ゲームになるよりはわかりやすいと思う。
マルクスさんの言葉からは、その親方衆の底知れぬ意気込みのようなものが感じられたけど……俺が提案したからって、無理をしようとしていないか少し心配だ。
「思っていたより、やる気になってくれているようで」
「まぁ今この街でリク殿に頼まれて、断らない者はいないだろうし、皆真剣に取り組んでくれるだろうからな。それに、滑らないためだけの物をというのも、一つの理由だろう」
「そうなんですか?」
「ここしばらく、センテは魔物との戦いが続いていたからな。鍛冶師達は皆、武具を作るのに専念していたはずだ。それが、戦いとは関係ないような物がようやく作れるのだ、喜びこそすれ、嫌がる者はいまい」
やる気になっている理由を予想しながら話す、シュットラウルさん。
戦うための物ばかり作っていて飽きたから、他の物を作ってみたいという事だろうか。
いや、暗い雰囲気が漂って鬱々としていたからもあるのかもね……戦中は、そうなるのも当然ではあるけど。
「武具を作る事に喜びを感じる者もいますし、専門の者もいますが……鍛冶で製作するのはそれだけではありませんからね。リク様提案のアイススパイクも、使い方や改良すれば別の事にも使えそうですが、とりあえず戦闘とは直接関わりのない物ですし」
マルクスさんの言葉で、なんとなく納得した。
鍛冶職人が扱うのは金属製品全般で、別に武具に限った事じゃないからね。
鍋とか農具もそうだし、馬車の一部にだって金属製の部品がある。
それこそ、靴に金属を仕込んで丈夫にした物だってあるからね……まぁこれは、細かい金属加工というよりも、金属板を入れるくらいみたいだけど。
武具を製作するだけじゃないから、それ以外の物もたまには作りたいっていうところかな。
「あとは寒さをなんとかすれば……」
「それに関しては、リク殿が来る前にマルクス達と考えていたんだが……」
寒さ対策に関しては、シュットラウルさん達がどうにかしようと考えてくれていたらしい。
それは、薪などの火が点く物を各地に配置。
一定の間隔で暖を取れる環境にする……早い話が、そこかしこで焚き火をするって単純な方法だね。
ただ、氷を溶かした場所だけだとまだまだ狭い。
そこで、さっき俺が提案したアイススパイクがあれば、氷の上でも多少動きやすくなるので、焚き火を設置するのも容易になるから、実行しようってわけらしい。
「成る程、それなら体が冷えてもすぐ暖められますね」
「もちろん、先程話していたように服を重ねて着る事で、少しでも寒さを防ぐなどの方法も必要だがな。それに、外に出た者の報告では現状、センテの周囲……少なくとも凍り付いている地面のある場所では、他に何もなくなっている」
「そうですね。戻って来る時に空からも確認しましたけど、木々なんかもありません。まぁ、俺がやった事なんですが……」
「だが逆に、そのおかげで気軽に火を点ける事ができる」
隔離結界以外は、俺が作った石の壁以外センテ周辺はまっさらになっている……まぁ多少の起伏くらいはあるだろうけど。
少なくとも、魔物も含めて生き物や草木などはない状態だから、延焼の危険性は極めてい低い。
気軽に火を点けるというシュットラウルさんの発言は、聞き方によってはちょっと危ない気もするけど……魔法で融かす代わりにもなってくれるはずだから効率的と言えるかもしれない。
凍てついた地面の端まで行けば多少気を遣う必要はあるだろうけど、そこまで氷を融かせられればもう焚き火をする必要もないからね――。
0
あなたにおすすめの小説
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜
難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」
高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。
だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや——
「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」
「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」
剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める!
魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」
魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」
神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」
次々と編み出される新技術に、世界は驚愕!
やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め——
「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」
最強の頭脳戦が今、幕を開ける——!
これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語!
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる
暁刀魚
ファンタジー
社会勉強のため、幼い頃から暮らしていた山を降りて現代で生活を始めた男、草埜コウジ。
なんと現代ではダンジョンと呼ばれる場所が当たり前に存在し、多くの人々がそのダンジョンに潜っていた。
食い扶持を稼ぐため、山で鍛えた体を鈍らせないため、ダンジョンに潜ることを決意するコウジ。
そんな彼に、受付のお姉さんは言う。「この加護薬を飲めばダンジョンの中で死にかけても、脱出できるんですよ」
コウジは返す。「命の危険がない戦場は温すぎるから、その薬は飲まない」。
かくして、本来なら飲むはずだった加護薬を飲まずに探索者となったコウジ。
もとよりそんなもの必要ない実力でダンジョンを蹂躙する中、その高すぎる実力でバズりつつ、ダンジョンで起きていた問題に直面していく。
なお、加護薬を飲まずに直接モンスターを倒すと、加護薬を呑んでモンスターを倒すよりパワーアップできることが途中で判明した。
カクヨム様にも投稿しています。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる