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レッタさんが帝国の深部に潜り込むまで

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「というかそもそもに、あいつ……ユノが言っているカスも人間なのよ? つまりあんたが創ったんじゃない
「人間は創ったけど、それはもっともっと昔の原初の人間なの。今の時代の人間まで、どんな人物になるかまではどうにもできないの。どうにかするにしても、過干渉になるの」

 この世界の人間は、元々が創造神であるユノが創ったのは聞いている。
 だからある意味ユノが創ったと言えなくもないけど……数千年、もしかしたら万にも及ぶ年数で代替わりしてきた人間の、子孫の性格や考えたまでユノの責任にはならない……と思う。
 今はともかく、創造神の力なら性格をマシにするくらいはできるらしいけど、それは膨大な干渉力を使うし、禁止されている事だとか。
 神様だからって、なんでもできるわけじゃないんだなぁ、わかっていたけど。

「まったく、人間を創る時に幅を広げ過ぎなのよ。魔物ように一つの種族はその枠を越えないように作れば、思惑を外れて動くのもいなくなるってのに」
「それじゃ面白くないの。あらゆる生き物は子々孫々で繁栄したなら、能力や考えが逸脱してこそ新しい何かが生まれるの」
「はぁ、それがあなたの創造論とか言うよくわからないものだったわね。私は、ただ破壊するだけだからそんなもの必要なかったけど。とにかく、そうしてレッタを協力させる振りをさせて、帝国の中枢に潜り込ませたのよ」

 二人の話している事はよくわからなない部分もあるけど、とにかく十人十色というか、同じ人間でも考え方や能力が違う事で、化学反応のように何かが起きる事を期待している、というので考えておこう。
 とりあえず、魔物がほとんど個体差がなく、種族で能力などが決まっている理由が判明してしまったけど。
 例えば、上位種みたいなのがいるとはいえ、ゴブリンならゴブリンとして、どれだけの数がいてもそのすべての能力は一定で変わらないって事だろう。

 味方になってくれたワイバーンには、それぞれ個性みたいなものが見え隠れしているから、これは帝国で人間の魔力を核に注ぎ込んで復元した事や、再生能力を無理矢理付けたからなのかもしれない。
 人間の魔力が入り込んでいるから、可能性が広がったってところかな。
 単なる推測だけど。

「少しいいか? レッタという女性は、一度帝国に捉えられていたのだろう? それも、第一皇子……現皇帝かもしれないが、それにも知られているし、能力も当然知られている」
「えぇそうよ。顔を覚えているかは、あれの性格からして微妙なところだけど……そこらに転がっているおもちゃくらいにしか考えていなかったみたいだし。でも、レッタの特殊能力については、間違いなく知っていたわね」
「だがそれなら、どうやって中枢に潜り込むなどできたのだ? 正式な手順を踏んで、解放されたわけでもない。姿を見せれば再び捕まるだろう?」

 ロジーナに疑問を投げかけるシュットラウルさん。
 レッタが捕まって実験されていたのは間違いないのだから、能力の事も含めてレッタという人物の事は当然知られている。
 その状態で潜り込もうとしても、スニーキングという意味ならまだしも、協力する振りをするのだから当然姿を見せたりもするわけで。
 捕まっていたレッタさんはロジーナの神的な力で抜け出したのだとしても、再び見つかればまた詰まるのも当然だ。

「いや、待てよ……知って……いた?」

 俺もどうして? と疑問に感じて考えている間に、シュットラウルさんがロジーナの言葉から、何かに気付いたようだ。

「ご明察。レッタを連れ出した時までは、確かにレッタの事を知っている者がばかりだったわ。けど、私がレッタに関する記憶を封印したの。消せば楽なんだけど、そうしたら赤ん坊と変わらなくなるし、莫大亜干渉力が必要になるからね、レッタに直接関係しないから面倒だったのよ」

 赤ん坊って……つまり、記憶の封印は一部のみに限定できるけど、記憶の消去はどの記憶かを選べないって事だろう。
 全ての記憶が消されたら、日常的な動作すら忘れてしまうだろうから、確かに生まれたばかりの赤ん坊みたいになってしまうのかもしれないね。
 レッタさんに対してじゃないから、願いとか想いとかも関係なくて、干渉力を多く使ってしまうから避けたらしい。

「ただ、記憶の封印はいずれ解けて思い出す事もあるから、絶対とは言えないのよね。それはそれで、面白い事になりそうだからいいんだけど。思い出して、信用していた協力者が実は元々……なんてのもいいでしょ? まぁ、人間の自己防衛だかでの封印より堅固だから、死にそうな目に遭っても解けない事の方が多いけど」

 そう言って笑うロジーナは、少しだけ破壊神としての本性みたいなものが滲み出ている気がした。
 ユノが、ジト目で見ているのを俺から見て、勝手に少し和んでからレッタさんの話に集中する。
 記憶の封印をされて、誰もレッタさんの事を知らない状況……それこそ、レッタさんという人物がいたという記録も含めてなくなった。
 さらにロジーナが、レッタさんの顔を別人のように変えたのだとか、こちらは直接なのであまり干渉力が必要ではなかったとか。

 ちなみに、元の顔のレッタさんの方がロジーナから見て美女だったらしいけど、度重なる凄絶な経験によってボロボロになっていたらしい。
 要は、再生のための整形をしたみたいな感じ、だと思う事にした。
 顔を変えたレッタさんは、俺が見た事のある顔で、多少本来の年齢よりも若くなっているとか……一部の女性が聞いたら羨ましがりそうだね。
 とにかくそれでロジーナの手引きもあって、帝国の中枢に入り込んでクズに取り入ったレッタさん。

 特殊な能力に関する記憶も封印されていたので、それを売り込んで利用させてやる振りをしている、という事らしい。
 捕まった時と違って、レッタさんが本心はどうあれ協力的だったのと、ロジーナが傍にいてあれこれ知識を授けるとともに、おかしな手出しはさせないように細工していたので、問題なく潜り込めたとか。
 今では、クズの傍にレッタさんがいるのは当然で、片腕とまで言われて重宝されるまでになっていたみたいだね。

「不便だったから、私は人間の体に入って……まぁ今の姿ね。レッタの娘と偽って帝国に。それで魔物の研究に帝国のエルフを巻き込んで、進めさせたのよ。とは言っても、私がやったのはちょっとした助言だけ」

 レッタさんと表向きは母娘としていたのは、その頃からだったのか。
 道理で、俺と会った時も違和感が一切なかったわけだ……あの時のロジーナちゃんは、好奇心旺盛で俺が持っていた剣に興味を持つちょっと女の子っぽくない子供だったけど、可愛らしい感じだった。
 無邪気な子供だったのに今では……。

「……何よ? 何か言いたい事でもあるの、リク?」
「あ、いや。特には……?」

 初めてセンテ行きの乗り合い馬車で出会った時の事を思い出しつつ、ロジーナを見ていたらジト目で見返されてしまった。
 あの時と見た目は同じなのに、雰囲気は子供っぽさの欠片も感じない。
 ユノならまだ、子供っぽい行動をするのでそういった可愛らしさはあるんだけど……。
 あまり深く考えないようにした方がいいかな、これは……ロジーナが俺をジト目で見るのが止まらないからね――。


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