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地下施設の役割

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「……私の助言と、エルフの研究成果を合わせてようやく、帝国の魔物を利用するための研究は前に進めたわ。もちろん、レッタの協力もあってね」

 俺から視線を外し、話を続けるロジーナ。

「それまでの帝国は、どう考えても実を結ばない無駄な研究ばかりだったのよね……だからこそ、焦ってレッタに対しても非人道的な人体実験を、繰り返していたんでしょうけど」

 ロジーナが言うには、帝国の研究は的外れな事が多かったらしい。
 だから、ロジーナとレッタさん、それから帝国のエルフが協力しなければ、おおよそ利用するなんて無理なものだったとか。
 つまりレッタさん達が帝国の研究を数年どころか、数十年は早めたと言っていいらしい。

「じゃあもし、ロジーナやレッタさんがいなければ、こっちの国が魔物の大群に襲われる事は……」
「先の事はまた別でしょうけど、少なくとも数十年はなかったでしょうね。自然発生的に起こった、魔物の大量発生と暴走とかなら別だけど。それも、何度も起こる事じゃないわ。ただ……」
「ただ?」
「研究が進んでいなければ、帝国は酷い事になっていたでしょうね。レッタのような罪人だけならまだしも、罪のない人を巻き込む事を躊躇していないのよ。レッタの故郷が壊滅させられた事を考えても、それは間違いないし、近くで見て犠牲を厭わないとも感じたわ。いえ、あれからすると犠牲とすら考えていないかしら。自分以外は、全て自分のために存在しているとしか思っていないようだし」

 レッタさんの故郷の事を考えれば、帝国のクズが研究の遅れをどうにかしようと多くの人を巻き込むのも納得できる。
 多分、心も痛まないんだろう。

「我が国に魔物をけしかけた事と、魔物の利用が上手くいかず、帝国の民に多くの犠牲が出る……アテトリア王国の貴族としては、自国の犠牲者が出る事は看過できん。だが、正直なところどちらが良いのかはわからないな」
「こちらは、リク様のおかげで大きな被害が出ていないからこそ、そう思うのかもしれません。多少なりとも犠牲者は出ていますが……今の所、街や村の壊滅という事はありませんから。帝国の方にロジーナ殿が現れなければ、犠牲者と言う意味ではそちらの方が多かったかもしれません」

 シュットラウルさんとマルクスさんが、眉をひそめて話している。
 確かに、ロジーナ達がいなければヘルサルからこのセンテまで、各地で魔物が大量に押し寄せて来るなんて事は、なかったのかもしれない。
 そうなればアテトリア王国の方での犠牲者は少ないどころかいなかったわけで……ただその場合、帝国では強行で無駄な研究によって犠牲者が膨れ上がり、レッタさんのような人ももっと多く出てきてしまっていた可能性もある。

 マルクスさんが言うように、俺だけじゃないけど皆で頑張って犠牲者が増えないように戦ったからこそ、帝国に大きな犠牲者が出たらと考えて、悩んでしまうのかもしれない。
 こちらの被害がもっと大きかったら、帝国の犠牲者と天秤にかけるような事すら考えられないだろうから。

「それに関しては、あまり考え込む必要はないわ。だって帝国は、他国……もちろん基本的には隣接している他国に対してだけど、そちらにも何かをするような計画を立てていたから」
「隣接、という事は我が国にもですか。それはどのような計画で?」
「そこまでは知らないわ。レッタもね。魔物の研究が進んだから立ち消えになっていて、そういった計画があった……という話をレッタが聞いただけだもの」

 マルクスさんの質問に、首を振るロジーナ。
 計画があった話をきいただけで、その計画自体はよく知らないらしい。
 もしかしたら、計画を立て始めたくらいだっただけで、レッタやロジーナが現れて研究が進み、見向きもされなくなったとかかもね。

「そうか……だが、帝国のやっている事、やっていた事を考えるに、ろくでもない計画なのは間違いないな」
「そうですね。もしかしたら、こちらの国に研究施設を作って何かがあっても、帝国側は知らんぷりで痛くもかゆくもない……なんて事かもしれません」

 シュットラウルさんも想像しているように、どんな計画であってもまさかアテトリア王国を豊かにとか、帝国と手を取り合って仲良く、みたいな計画じゃないのは間違いない。
 多分、ツヴァイの地下研究施設がこの国で造られていたような事と、近いんじゃないだろうか。
 とそこまで考えて、ふと思いついた。

「ツヴァイのいた地下での研究施設ですけど、あれってどう考えても一年や二年じゃ作れませんよね?」
「規模を考えれば、そうですね。あれ程の施設を地下になど、一朝一夕で作れる物ではありません」
「ですよね。だったらもしかして、ロジーナが聞いた計画っていうのは、あぁいう施設を各地に作って、とかかもしれませんね……」

 地下研究施設は、学校の体育館より少し大きいくらいだった……小部屋が多くあったから、実際にはそれ以上だろう。
 地上に作るならまだしも、地下にそんな広さの施設を作るなんて、それも人知れずバレないようにとか、数年がかりだろう。
 下手したら十年前後とかかかるかもしれない。

 ヘルサルにゴブリンが押し寄せたのも、近くの地下施設でとクラウリアさんが言っていた。
 もしかしたら、他にもあるのかも?

「あぁ、地下施設は既に見つけているんだったかしら。あれは準備段階だった物をこちらの国の魔物を調べるために、作っていた施設だったかしら。核の研究が進んで、侵略……は最初から考えていたようだけど、本格的に侵攻するために少し方向性を変えてだけど、そのまま作ったみたいね」
「それって、他にも何か所かあったり?」
「まぁ一か所だけじゃ、広いこの国の魔物を調べるなんてできないわ。結局、この国の魔物は関係なく研究はしながらも、核から魔物を復元してその魔物を要所で侵攻に合わせて暴れさせる……みたいな計画に修正されたいみたいだけど」
「……つまり、ヘルサルの時やルジナウムもそうだったわけだね」

 研究施設として、他国を利用するために作っていたけど帝国での研究が上手くいったため、奇襲するための施設になった、というところだろう。
 王都でも、魔物が押し寄せた時に帝国は軍を集結していたみたいだし、ヘルサルだけでなくルジナウムなどでも、同じような事を考えていたのかもしれない。

「という事は、もしかしてこのセンテに魔物が来たのも!?」
「今回は侵攻というより、要衝の壊滅を狙っていたわね。でも、進行までは考えていないはずよ。どちらかというと、備えるためかしら? 帝国の帝位が交代して、完全に帝国全土を掌握してあれが覇道とか馬鹿な事を信じて疑わない妄想を、実現するためってところかしら。それを、私とレッタが利用したの」

 他がそうならもしかして? と考えて口に出したら、ロジーナが静かに首を振った。
 今回に関しては侵攻というよりも、備えのためだったらしい。
 というよりも、本格的に動き出す前にセンテという要衝の壊滅を目論んでいたんだろう。
 アテトリア王国を弱めるためだろうね――。


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