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戦い方の違い
しおりを挟む「だがよく見て見ろ、着ている物にほころびがほとんどない……さすがに、ヒュドラーが迫っていた時はある程度服が破れていたりはしたのだが」
「服ですか……確かに今着ているのは清潔感があっていいと思いますけど」
まぁ、ヒュドラーの近くで見かけた時は、俺はトレジウスさんにあまり注目していなかったから、よくわからないけど……。
なんにせよ、破れてボロボロになりかけている服なら、買い替えるなり着替えるなりする者じっゃないだろうか?
「Cランク冒険者にとってはな、服は貴重な物だ。数着くらいは持っているだろうから、ヒュドラーの時のは今着ていないだけだろうが……綺麗すぎるんだよ」
「綺麗すぎる……それがいけない事なんですか?」
「いや、悪いとは言わん。まぁ、リクが怪我をする事がほとんどない……モニカから聞いたが、一度くらいだったか? それくらいだから実感がないのだろうが……」
俺が怪我をした時って、確かルジナウムで魔力が尽きかけていた時だったね。
あの時の服は、怪我をして服も破れたけどそもそもに魔物の返り血とかで汚れ過ぎていた。
とはいえ、気を失って起きた時に街の人が新しい服を作ってくれて、それをありがたくもらったんだけど。
「見た限り、今トレジウスが来ている服は新しい物ではなく着古されている」
「……そうですね」
「なのに、冒険者として活動をしておきながら、損傷が少ない、汚れが少ないのはな……」
マックスさん曰く、Cランク冒険者がこなす依頼では、新しい服をとっかえひっかえできるなんて事はないらしい。
まぁ、服はそれなりに高価だからね……大体は中古の服を金貨や銀貨で取引する事が多い。
新品は物にもよるけど、金貨が数枚飛んで行く事だってある。
トレジウスさんの着ている服は中古だろうけど、当然販売されるにあたって綺麗に修復して、汚れも落としているはず。
そういった服を着つつ、あまり目立ったほころびや汚れがないのは、冒険者としての活動をしていればちょっとおかしいらしい。
もちろん、着ている本人が服を大事に扱って、破れれば修復し、汚れれば洗うのは当然ではあるけど限界がある。
Eランクに多い、薬草採取なんかはともかく魔物と戦う依頼をこなす事の多い、Cランクの依頼をやっていたら汚れないわけがない。
俺だって、何度も魔物の返り血で汚れたし、自分が怪我をする事はなくても服を何かに引っ掛けて破れてしまう事もある。
その度に、モニカさんに縫ってもらっていたりするけど……ほんと俺って、モニカさんにお世話になりっぱなしだな、というのはともかく。
つまり、泥臭い依頼仕事をする冒険者として、綺麗すぎる服なのは簡単な依頼ばかりをやっているためではないか、という事をマックスさんは言いたいらしい。
「自分の、パーティも含めてだが、ランクや実力に応じた依頼をしていない証とも言える、と俺は思っている。もちろん、だからといって生きるか死ぬかわからないような、厳しい依頼を無謀に受けるのは違うがな。それに、どういう依頼を受けるかもそれぞれ自由だ」
「成る程……」
つまり、簡単な依頼ばかりを受けているのに、誰かに師事するような壁にはぶち当たっていない、という事だろう。
ギリギリの戦いをするような依頼であれば、服はもっと汚れているはずだから。
しかも、センテはまだ通常通りに戻っていないから、マックスさんに頼み込むために綺麗な服を買って着てきた……という事でもない。
服などを売っている店が、開店していないから買えないし。
「だからまず、俺に師事するより前にもっとやれる事があるだろうとな。それと極めつけは……あれだ」
「あれ……?」
マックスさんが指さした先は、トレジウスさんの腰あたりかな。
そこには、ショートソードが二本……いや、ショートソードより短い剣だね。
ナイフと言うには長い気もするけど、とにかく特注品っぽい二つの剣、ショートソードとナイフの中間くらいの剣がトレジウスさんの左右の腰にあった。
「どう見ても、あれは俺向きじゃないだろう? 俺は大きめの武器を一つか、盾を持っている戦い方だからな」
「あぁ~、確かにそうですね」
以前、マックスさんの戦いをヘルサル防衛戦で見た時は、大剣と呼ばれる俺の身長より大きな剣を、両手で持ってぶん回していた。
まぁそれは大柄のマックスさんのイメージ通りではあるんだけど。
それ以外だと、直接見る事はほとんどないけど基本的に、ショートソードなどの小回りの利く武器と盾を持って戦うのがマックスさんだ。
二本の剣を扱うのはちょっと違う。
「師匠なら、多少なりとも器用に扱って見せるが……俺には無理だな。盾が武器代わりになる事があるとはいっても、根本的に戦い方が違う。どちらかと言うと、ヤンに近いだろう」
「そうですね……」
ヤンさんは、突き出した刃を持つガントレットを両手に付けて、それで戦う。
剣二本とはまた取り扱い方が違うとは思うけど、マックスさんよりはヤンさんの方が近いかもしれない。
確か……侯爵軍の一部の兵士さんとか、クレメン子爵の騎士さんが、二本の剣を使って器用に戦うんだったっけ。
模擬戦をした感じだと、素早く動いて左右どちらからでも切りつけて来る二つの剣で翻弄するタイプで、まず盾で受けに回る戦い方とは違って手数で押すというところかな。
「多少の知識などを教える事はできても、戦い方を教える事はほとんどできないだろう。トレジウスが、筋肉に目覚めてと言うならば話は別だが……」
「そんな風には見えませんね」
トレジウスさんの体格は中肉中背……よりちょっと細身に見えるかな。
とにかく、マックスさんやヴェンツェルさんといった、筋骨隆々タイプとは正反対だ。
もちろん、トレジウスさんも剣を扱う以上それなりに鍛えているだろうし、筋肉もあるんだろうけど……そちらに頼って戦うタイプじゃないのは、見た目からはっきりとわかる。
「トレジウスのパーティメンバーだって、似たようなものだ。見る限りで俺と同じような戦いをする奴はいないだろう」
誰がパーティメンバーかは、紹介されていないのではっきりわからないけど……なんとなくさっきの反応でこの人達かな? という目星は付けている。
その人達も、全員が細身というわけではないけどマックスさんのように、剣と盾、もしくは大剣を使うようには見えないし、別の武器を持っている人ばかりだ。
「誰か他に教えてやれる適任がいれば話は別だが……それなら、俺に師事するのではなく、実践で鍛えた方が良さそうだろう?」
「そう言われると、確かにそう思いますね」
「というわけでだリク。今思いついたんだが……少し協力してくれないか?」
「え? ちょっと嫌な予感がするから断りたいんですけど……マックスさんから言われたら、断れませんね……」
「さすがリクだ。頼りにしているぞ?」
「あまりされたくない頼りですけど、はぁ……」
ニヤリと笑うマックスさんに、嫌な予感が胸に湧いてきたけど……お世話になっているマックスさんからのお願いだからね、断れない。
まぁどうしても俺が断りたくなるような事だったり、誰かが酷い目に合うような事を考える人じゃないので、そこは信頼しよう。
そう思って、マックスさんからの提案を聞いた。
成る程、そう来るか……そういえば以前、悩んでいるような事を話した事があったっけ――。
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