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マックスさんの提案
しおりを挟む「トレジウス、俺がお前に教えてやれる事はないが……いや、なくはないか」
「っ!? そ、それは一体なんでしょうか?」
「まず一つ、必死になれ。無理や無茶をしろとは言わん。命を投げ出すような事は、冒険者としても人としてもやるべきではないからな。ただ、今のこの街の状況はお前も知っているはずだ。その復興に尽力し、その他の人達とも協力して、自分を見つめ直せ。少なくとも、多少の怪我や服が破れる程度には頑張る事だな」
「必死になる……」
「とはいえ、現状のこの街では無茶も無理もできんだろうが。危険はないが、やれる事はあるというのは、幸運だぞ」
街の中で、復興のために雑用をするか、それとも外に出て寒い中氷を解かす作業を手伝うか、だからね。
街から離れれば離れる程、焚き火などの用意ができていないからさらに極寒となって、遭難して命の危険……なんて事もあるかもしれないけど。
あと、氷に乗って滑って転んでちょっとした怪我なども。
とはいえ、魔物が一切いない現状では危険がないと言うマックスさんの言う通りだ、兵士さんが主に作業しているから、外に出ても指示に従っていれば遭難する事もないし。
「それと共に、自己を鍛える事だ。そこは、同じパーティのメンバーでも、他の冒険者と共にでも構わん。今この街には、これまで以上の冒険者が集まっている。それこそ、リリーフラワーなどはちょうどいい相手かもしれんな。お互いBランクのパーティ同士だ。共に研鑽できるだろう……男所帯のパーティからの提案を受けてくれるかは知らんが」
リリーフラワーの人達、ほとんどが男に近付こうとしないからね。
獅子亭で働いて、ある程度は緩和されているようだし、ルギネさんやアンリさんは、俺ともまともに話してくれるようになったけど。
でもルギネさん、俺と話している時いつも顔が赤くなるんだよなぁ……やっぱり男が苦手で無理しているんだろうか?
「そうして、街の復興と自己の研鑽を済ませた際には……リクの作るクランに口利きしてやってもいいぞ?」
「リ、リク様の……クラン!?」
「あはは……」
マックスさんがクランと言った瞬間、トレジウスさんだけでなく見守っていた人達が全員ざわめいた。
そう、マックスさんからの提案はこの事。
俺が以前、クランを作るかどうか……で悩んでいた話を覚えていたんだ。
ある程度の人選はマティルデさんに任せて良さそうだけど、見込みのある人がいれば俺が直接勧誘なりして加入してもらうでもいい。
もちろん、モニカさん達も誰かを加入させたいと思えば、俺と同じくだけど。
以前は作るかどうかを迷っていた俺だけど、帝国に関する話を聞けば聞く程作った方がいいという考えになっている。
というか今は、帝国に対抗するために作るべきとすら考えている……帝国との問題がなくなった後は、どうするか決めていないけど。
とにかく、帝国との戦いがどのような形になるにせよ、なんらかの方法であちらに意識を向けられる集団が、国以外にもあった方がいいだろうと思ったんだ
もちろん、姉さんを始めとしたアテトリア王国や、冒険者ギルドとは情報の共有や連携をしながらだし、帝国とは関係なくとも、冒険者としての依頼を受けたりもするけどね。
と、今はまだクランはできていないし、作る前提で考えている段階だけど……とにかく、それならトレジウスさん達を俺のクランに入れてみたらどうか、というのがマックスさんの案。
当然、今後次第で見込みがないと判断されれば、マックスさんからお断りをすると言ってくれた。
俺としては、人間的に大きな問題はなく確かな実力者が数人加わってくれるのは、願ってもない事なので断ったりはしない。
まだクラン自体作っていないので、口利きを保証してもいいのかという疑問もあるけど。
アテトリア王国内の冒険者ギルドを取りまとめている、マティルデさんからの提案だし、俺も作る方で前向きに考えているから問題はないだろう。。
多分、押し付けられる可能性を考えて、さっきマックスさんの提案を受ける直前に、嫌な予感がしたんだと思う。
「どうだ……お前がこのまま燻ってはいたくない、と考えるなら悪い案じゃないと思うが?」
「た、確かに……リク様の作るクランに、この俺が……いえ、俺達が……」
問いかけるマックスさんに、トレジウスさんは希望の光を見出したような表情になっている。
さっきまで落ち込んでいたのが嘘のようだ。
ただ、トレジウスさん一人のために、パーティメンバーも含めて俺のクランに口利きというのは良いのだろうかと思ったんだけど、周囲の人達を見る限り問題なさそうだ。
トレジウスさんの仲間と思われる人達は、驚いてはいるけど喜んでいるような雰囲気を醸し出しているから。
他の人達は、羨ましそうに見ているけど。
いや、俺がクランを作ってそこに入るからって、特別いい事があるわけじゃないですけどね?
帝国に関する事以外は、基本的にこれまでと大きく変わらない冒険者としての活動をしてもらおう、と考えているし。
多少、話す機会とか増えたり、訓練をしたりする事くらいはあるかもしれないけど。
「どうだ? 燻っているのが嫌なら、私しに師事するよりもリクと共にある方が、いいとは思わないか?」
「それは確かに……」
トレジウスさんを俺のクランに、という方向でまとめようとするマックスさん。
言われた本人も、トレジウスさんのパーティメンバー達も、乗り気な様子になっていくのが窺える。
でもちょっとだけ待って欲しい、ただクランに入って冒険者としての依頼を受ける、というだけじゃなくて他にも目的がある事を言っておかないと……。
「ちょっとだけ待って下さい。その、俺がクランを作ったらそこに……というのは構わないんですが……」
ここに残っている冒険者さん達は全員、センテのためにヒュドラーとかが迫って来ているとわかっていても、逃げ出さずに立ち向かおうとした人達だから。
人となりとしては詳しく知らない部分はあるけど、多少なりとも信用できる人達なのは間違いないから、クランに入ってもらうというのは別に構わない。
トレジウスさん達は、マックスさんが言っていたように服が綺麗だとしても、それは慎重に自分達ができる範囲での依頼をこなしていた、というだけ可能性もあるわけだからね。
向上心が絶対必要とまではいわないけど、ここでこうしてマックスさんに頼み込んでいたという事は、冒険者としてなのか個人としてなのかはともかく、向上心そのものはあるんだろうし。
けど……。
「その、まだ詳しくは言えませんが……俺が作ったクランに入るという事は、魔物と戦うだけじゃないんです」
帝国の組織が、とかまではまだ公表されていない部分も多いし、今回のセンテが魔物に囲まれた事だって、原因はレッタさんで帝国側にある、というのは知らされていないはず。
だから魔物以外と言っても、どこでどうという事までは言えないけど、人を相手にする可能性が高いという事は伝えておかないといけない。
兵士さんよりも、人を相手にする機会が少ない冒険者だけど、ないわけじゃないから……大丈夫だとは思うけど。
でも、知らないうちに戦争に関わる事になっていた、という事はないようにしたい。
……今戦争に参加するとは言えなくても、クランに入ってもらった後にはある程度伝えるつもりだけどね。
さらにその前の意思確認みたいなものだね――。
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