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クランに入るうえでの必要な覚悟

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「魔物以外、となると……野盗とか、不届き者の人間とという事でしょうか? それなら、俺達も依頼を受けた事がありますので……」
「そういう事もあります。もちろん、野盗の捕縛などに関する依頼を受けたりもするでしょうけど、それだけじゃありません。まぁ、人を相手にする事もあるとは考えておいて下さい。もちろん、罪もない人をとは全く考えていませんけど……」

 もし戦争に参加して、マティルデさんから言われたのは帝国に協力して出て来るであろう、冒険者さん達をなんとかして欲しい、という事は言われている。
 冒険者さんは、闇ギルドなんてものがあるとしてそこから参加している人が多かったとしても、とにかく帝国のためにと戦う人だっているはずだ。
 それに、帝国の兵士と絶対に戦わないわけじゃないだろうし……命令されているだけで、罪がない人だって当然いるはずだ。

 関係のない、全く罪がない人と積極的に戦うなんて事は考えていないけど、逆に帝国の兵士になっている時点で、それそのものが罪だと断じる事ができる程、俺は吹っ切れてはいない。
 ……色々、中途半端かもしれないけど。
 だから、野盗のように明らかな悪人以外とも戦う可能性がある事くらいは、知っていて欲しいと思う。

「場合によっては兵士さんや冒険者さんとも、戦う事があるかもしれません」
「そ、それはつまり、この国に反旗を翻す事もある……とリク様は仰るのでしょうか?」

 兵士や冒険者と聞いて、トレジウスさんが目を見開く。
 マックスさんやフィネさんを除いた、俺の話を聞いていた人達もにわかにざわめいていた。
 うーむ、伝え方が悪かったかな……勘違いさせてしまった。
 俺はアテトリア王国に対して反意なんて一切ないし、兵士や冒険者と言ったのは帝国に対してだ。

 まぁ、はっきり帝国がとは言えないから仕方ないのかもしれないけど。
 そもそも、本当に反意気があるんだったら、冒険者ギルドの前でこんな話をしたりしないんだけどね。
 ヤンさんやベリエスさん達は、俺やシュットラウルさんと話していて、帝国に対してというのはわかっているだろうけど。

「いえいえ、そうじゃなくて……俺はこの国に対して何かを、なんて一切考えていませんから。えっと、この国とは別のとだけ考えておいて下さい」
「は、はぁ……兵士ってのはちょっとよくわかりませんが、冒険者という事でしたら問題ありません。冒険者の中にも、悪人はいるのでちょっとした事なら野盗と同じくありましたから」

 詳細はわからなくても、アテトリア王国に対してではないのであればと、頷くトレジウスさん。
 他の人達も、ホッと息を吐いている。
 離れた所で、もし俺が国に敵対するのならどこか遠くに逃げなければ……ヒュドラーに襲われるよりもヤバい、なんて言っていたのが聞こえたりもしたけど、見境なく戦いを挑んだりしませんからね?
 まぁ、国に反意を持っていたら、そんな風に思えたりもするかもしれないけど。

「……まぁ、荒くれ者も多くいるからな。今はリクの前だからおとなしいが……リクだって、何度か他の冒険者に絡まれそうになっていただろう?」
「そういえば、そんな事もありましたね」

 初めてヘルサルの冒険者ギルドに行った時とか、王都の冒険者ギルドとかで、絡まれそうになる事はあった。
 ヤンさんやマックスさん達によって、止められたしほとんど酔った勢いでもあったみたいだから、戦うというのとはちょっと違うけど。
 ともあれ、マックスさんが言いたいのはちょっとした喧嘩くらいなら、日常茶飯事ってところなんだろう。
 命の取り合いにまで発展するかはともかく、お互い怪我をする事くらいはあるってわけだね。

「リ、リク様に絡むなんて……命知らずな事を……」

 マックスさんの言葉に、戦慄するトレジウスさん始め集まった冒険者さん達。
 命知らずって、絡んできた相手を問答無用でぶっ飛ばすとかしませんから……もし武器を持って襲い掛かって来たら、制圧くらいはさせてもらうけど。

「とにかくそういうわけで……もちろん魔物と戦う事が多いとは思います。けれど、人を相手にする可能性も高いという事は知っておいて下さい」
「は、はい。わかりました……」

 とりあえず、俺が思っていたより人と戦う可能性に関して、忌避感を抱いている人は少なそうだ。
 というか、いない様子にも見える。
 やっぱり冒険者をしていたら、俺とは違ってそういった事に対する覚悟とか決意があるのかもしれないね。
 ある程度長く冒険者をやっている人達、という事もあるんだろうけど。

「なんにせよ、リクのクランにと考えるならまずはこの街で、頑張る事だな……」

 そう言って、俺に合図を送るマックスさん。
 いつまでもここで話していると長くなるので、ここは任せて冒険者ギルドに入れって事らしい。
 まぁ、言っておくべき事は伝えたし、後は任せて大丈夫だろうと俺はフィネさんと一緒に、建物の中に入ってヤンさんのもとへと向かった。


「あれで良かったのかな……詳しい事はまだ話せないとはいえ、皆乗り気な様子だったけど」

 冒険者ギルドに入り、受け付けでヤンさんに用がある事を伝えると、すぐに奥へと案内される。
 その途中、案内してくれる人の後ろを歩きながら呟いた。

「今はあれくらいしか言えませんし、見込みのない者達であればそもそもマックスさんが、リク様の所にとは言わないでしょう」
「そうかもしれませんけど……やっぱり、人と戦うために人を集めるというのは、いいのかなって」

 俺の呟きが聞こえたフィネさんが、そう言ってくれるけど俺としてはちょっとだけ首を傾げてしまう。
 魔物とのみ戦うのであれば、特に気兼ねはしないで済んだんだろうけど……人と戦う可能性を考えるとね。
 日本で育った倫理観みたいなのも関係しているのか、今でも俺は人と戦う事に対して躊躇する部分がある。

 そりゃ、模擬戦とか訓練でなら剣を向けたりはするけど、命の取り合い……はっきり言えば殺し合いとなると話は別だからね。
 まぁ倫理観というのなら、魔物も生き物でワイバーン達みたいに友好的になってくれるのもいるわけで、人相手じゃなければいいという事にはならないんだけど、それはともかく。

「私は、騎士でもありますのでそういった想定はしており、実際に人相手に戦った事もありますから、人と戦うために集められたとも言えますね。もちろん、人を相手にする事が喜ばしいとまでは思いませんが」

 フィネさんは冒険者兼騎士なので、経験はあるんだろう。

「新たに戦った事すらないような者を集める、というのであれば少々話は変わるのでしょうが……リク様のクランで集めるのは冒険者。それも、新人ではなく熟練の者達です。それぞれの考えもあり、リク様が深刻に受け取る必要はないかと」

 全員が全員、熟練の冒険者さんかどうかはともかく、新人はほとんど加入しないとは思う。
 マティルデさんの方で探してもらうにしても、クランを作る目的が目的なので、冒険者になり立てといった人は連れて来ないはず。
 だから、フィネさんが言う通りある程度の経験と覚悟をしている人達が集まるんだろう。
 トレジウスさんや、外にいた冒険者さん達はそれなりの経験をしてきているはずだし……俺が気にしすぎ、考え過ぎなのかもしれないね――。


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