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支えたい気持ち
しおりを挟む「やっぱりね。ちょっと妬けちゃうけど、でもそれがリクさんだから」
「妬けるって……? いやまぁ、それでもさっきみたいにするのは、モニカさんだけというか……」
「え?」
唇を尖らせるモニカさんに、何か言っておきたくて、思っている事を口にする。
意表を突かれたような様子で、目を開いて俺を見るモニカさん。
そんなに、意外だったのだろうか?
「私……だけって……?」
「え、えっと……言葉通りというか……。その、今モニカさんに言われてさ、想像してみたんだ。他の人が転びそうになったらって」
その想像に使われたのは、姉さんだったりするんだけど……他の人が転ぶ姿が、なんとなく思い浮かばなかった。
氷の上なら、誰だって滑って転ぶ可能性があるのにな。
あと、子供ならそういう事があるかもって思ったけど、浮かんだのが無邪気に走り回る事のあるユノで、むしろ他の人よりも転ぶ想像ができなかったり。
なんだかんだと、ユノは謎のバランス感覚で転ぶ姿を見た事がないからかもしれない。
「……想像してみたら?」
「うん、さっきみたいに引き寄せて、転ばないように俺が支える……支えたいなって思えるのは、多分モニカさんだけなんだと……思い、ます」
顔から火が出ているんじゃないか、と思える程熱くなってしまい、最後は敬語になってしまった。
駄目だなぁ、こういう時もっと恰好良く言い切れればいいんだけど、慣れない感が強くて情けない。
女性陣の中に男が俺一人、という状況がこの世界に来てから増えたけど……だからって、こういう事に慣れるものじゃないんだね。
これまでも、親しい女性と言えば姉さんくらいだったのも、影響しているかもしれないけど。
……日本で学校に通っていた時は、一応話しをする女子とかはいたけど、特別親しい女の子とかはいなかったからなぁ。
「私、だけ……?」
篝火に照らされたモニカさんが、俺を見る。
その瞳は、なんとなく潤んでいるように見えたのは俺の気のせいなのだろうか?
「う、うん。じ、実際に誰かが転びそうな場面がないから、絶対とは言えないから、想像なんだけど……」
頷くだけでいいのに、言い訳をするように言葉を発してしまって、失敗したなと後から気付く。
慣れていないから、というのも言い訳になるかもしれないけど、こういう時ついつい自信をなくして余計な事をあれこれ付け加えてしまう。
「そ、そうよね。そう……同じ場面に遭遇していないから、想像よね!」
なんだか焦った様子のモニカさん。
「うん……そうなのよね、やっぱり……」
すぐに何やら呟きながらうつむいてしまう。
俺の余計な言い訳が原因だと思うけど、このまま何も言わないでおくのはいけない気がした。
でもなんて言えば……そうだ!
「そ、その……さっきまでグラシスニードルを皆で試していたでしょ? その時、何度かモニカさんが転びそうになるのを、支えていたんだけど……」
バランスを崩した程度だったから、もしかしたら何もしなくても転ばなかったかもしれないけど。
滑りやすくした簡易的なスケートリンクよりも滑らない状態だったし、グラシスニードルも足に装着していたし……。
「ほ、他の誰かが転ばないと考えたんじゃなく、偶然モニカさんの近くにいたからとかでもなくて、なんというか……無意識なんだけど、モニカさんの近くで待っていたというか。ごめん、転びそうになるのを待っていたっていうのは、モニカさんに失礼だよね」
だって、モニカさんが転ぶのが当然と思っているようにも聞こえるから。
別にモニカさんは、他の人達と違ってどんくさくてよく転ぶ、みたいな事は全然ないのに。
「無意識に……? 確かに、グラシスニードルを試していた時は、何度かリクさんに支えてもらっていたけど……」
少しだけ、顔を上げるモニカさん。
「う、うん。あの時は無意識だったんだけど、よくよく考えてみると、俺が支えたいのはモニカさんなんだなぁって……そう思うんだ」
もちろん、ソフィーやフィリーナがあの時俺の近くで、手が届く範囲で転びそうになったら支えようとしていただろうけど。
でも、自分から……無意識とはいえモニカさんの近くに位置取って、いつでも支えられるように能動的に動いたのは、今伝えた気持ちがあったからだ。
「ほらあの時さ、モニカさんよりソフィーやフィリーナの方が、疲れていたでしょ?」
カイツさんもだけど、魔力を使い果たしかけていたからね。
さっき聞いたけど、モニカさんは解氷作業が終わってからは魔法を使っていなくて、魔力が残っていてソフィー達程きつそうじゃなかった。
「なのに俺は、自然とモニカさんの近くに行っていたんだよ。もし転びそうになったら、支えてあげられるようにって」
最初は、グラシスニードルを受け取ったり話を聞くために、ソフィーが一番近かった。
なのに実際試す段階になって、意識しないうちにソフィーの近くから、モニカさんの近くへと移動していたんだ。
それ意識せず、無意識だったんだけど……つまりそれは、モニカさんを支えたいと思っているというわけで。
ソフィーやフィリーナに言うと、モニカさんを優先しているみたいで失礼かもしれないけども。
ちなみに、ソフィーに聞いたら「あの時モニカのそばで支えるのが正解だった。もし私が滑って転びそうになったとしても、モニカのそばを離れようとしていたら、突き飛ばしてでも転んで見せる!」なんて言っていたけど、完全に余談だね。
「リクさんが……私を……?」
「……うん。だ、だからさ……こう他の人と同じってわけじゃなくて、モニカさんだからって言うか……」
真っ赤な顔で俺を見るモニカさんの視線に耐えられず、顔を逸らしながら急に恥ずかしくなって、はっきりしない言い方になってしまう。
なんでだろう、こういう時決められない自分が本当に情けない。
つい数秒前までは、なんとかモニカさんに伝えなきゃって話せていたのに。
普段なら大丈夫なはずなのに、今モニカさんに真っ直ぐ見つめられると、照れくさいやら恥ずかしいやら……。
「うん、うん……そうなのね。リクさん……ありがとう」
「お、お礼を言われるまでもないっていうか、うん。その……」
なんだろう、顔に火が付いているくらい熱かったのが、今は火を噴いているくらいの熱を持っている気がする。
いや、本当に火を噴いていたら大変だけど。
とにかく、頭の中、心の中がいっぱいいっぱいで、わー! ってなっている……むしろわー! って叫びたい。
これは一体……なんて、あまり深く考えるまでもなく、経験不足な俺でも、今更ながらに物凄く鈍い俺でも、理由がわかってしまう。
「……ガァ?」
「っ!」
自分がどういう気持ちなのか、なんとなく察してしまった瞬間、ふと周囲の音が耳に入るようになった。
これまでわからない感情に振り回されて、モニカさん以外を気にする余裕がなかったからかもしれない。
ともかく、聞こえたのはリーバーの声……そちらを見てみると、リーバーがジーッと食い入るように俺とモニカさんを見ていた。
首を傾げてもいるので、何をしているんだろう? とでも考えているのかもしれない。
さっきまで、楽しく氷の上を滑っていたのが、急に止まって何やらよくわからない話をしていたら、疑問に思っても当然か……。
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