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氷は物理で割る物

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 目が覚めたレッタさん、興奮状態で話せる様子じゃなかったらしいのに対応するのはロジーナとユノ。
 ロジーナだけじゃないのは、今回悪巧みをしていたのがロジーナとレッタさんだから、二人だけにするのはまずいだろうからだね。
 一応、ソフィーも一緒にいるから、めったな事にはならないだろうと思う。
 ソフィーは、俺とモニカさんのスケート遊びが終わってしばらくすると、夜食に満足して眠気に誘う割れながらも、グラシスニードルを試した結果を伝えるため、鍛冶の親方衆の所へと駆けて行った。

 も取って来たのは朝方だったみたいだけど……俺達は申し訳ないけど寝ていた、休める時に休まないとね……そこからすぐに限界がきて就寝。
 数時間程で起きてきたので、ついでにお願いした。
 休もうとしなかったから、できるだけ楽な仕事をお願いしたつもりだ。
 レッタさん本人にはロジーナがいれば大丈夫だし、ユノもいる。

 魔力誘導とやらで魔物を集めようとしても、周囲には現在魔物がいない状態だから、ほとんど見ているだけだろう。
 何もなければ、居眠りをしていいくらいだし。
 そんなこんなで、モニカさん、フィリーナ、カイツさんは昨日の解氷作業の続きをするため、センテの外へ。
 カイツさんは、ワイバーンの研究に集中したいのに……とブツブツ言っていたけど、フィリーナが無理やり連れだした。

 今は少しでも、魔法が使える人が欲しいからね。
 ちなみに俺も、その三人についてセンテの外に来ている……ユノとロジーナがレッタさんの担当になっているため、氷を割る事ができなくなった変わりだ。
 昨日は派手にやっていたみたいだけど、それでも結構氷を割るのは役に立っていたみたいだ。
 ……手加減して割るの、注意しないとなぁ。

「リク、なんか今日は昨日までとは違うのだわ? ほんのり、ご機嫌風味なのだわ」
「風味ってなんだよ。食べないで」

 氷を割るための作業を開始する前、横でフワフワと浮かんでいるエルサに言われて突っ込む。
 風味って……俺から流れる感情から何かを察したんだろうけど、それは食べ物に対する感想で使う言葉だ。

「……まぁ色々とね、考える事があったというか。いい事もあったから、かな?」
「ふーん、だわ」
「自分から聞いておいて、興味なさそうに答えるとは……」

 これがツンデレか、いや違うか。
 エルサの返答は置いておいて、俺がご機嫌っぽいのは昨日の夜、自分の気持ちを自覚したからだ。
 なんでこれまで気付かなかったんだろうとは思うけど、それよりも晴れ晴れしい気持ちの方が勝っている。
 昨日の今日で、モニカさんの近くにいられる事が嬉しいなんて、乙女っぽい理由もあるのかもしれないけど。

「それじゃ、私は行くのだわ~」
「うん、お願いするよ。あまり無理はしないでね」
「リクじゃないのだから、無理も無茶もしないのだわ~」

 小さな翼を二枚だし、ゆっくりと羽ばたかせてふよふよと離れていくエルサを、苦笑しながら見送る。
 とはいっても、どこか遠くへ行くとかではなく、ただ単にモニカさんやフィリーナ達など解氷作業をしている人達の手伝いをしに行っただけだけども。
 魔法が使えない俺と違って、エルサはいつも通り魔法が使えるからね。
 氷を割る担当になった俺とは、作業する場所が違う。

 俺とは違ってやり過ぎない程度に、氷を融かしてくれるだろう。
 体を大きくして、広範囲の氷を融かせば……と思うけど、大きくなるとその分寒さを感じてしまうらしいのと、今は魔力を溜める期間だからと言ってエルサに断られた。
 ずっと頑張っていてくれていたし、手のひらサイズくらい小さくなってしまったのもあって、しばらく魔力を蓄えておきたいんだろうね。
 まだまだ以前のように十枚の翼を出せないみたいだし、俺から流れる魔力が必要なんだろう。

 エルサ自身で回復できる魔力は、一定までらしいし。
 俺の魔力で上乗せしたいんだとか……なんだか、ツヴァイやクラウリアさんの状況に似ているな、と思った。
 まぁ、それを言うとエルサが怒りそうだし、契約という繋がりがあるから同じレはないんだろうけど。

「さて、こうしていても寒いだけだし、さっさとやりますか……!」

 昨日より多く、あちこちに作られた大きな焚き火で暖は取りやすくなっている。
 けど、焚き火の前にいても周囲の氷から発せられる冷気を、全て防げるわけじゃない。
 どうせ寒いなら、さっさとやるに限ると自分に喝を入れて、焚き火の前を離れる。
 あるよね、寒い日に暖かいこたつの中から離れがたいとか、暖房の聞いた部屋や布団の中から出たくなくなるとか……。

 あぁ、モニカさん達の方、火の魔法を使っているから暖かそうだなぁ。
 なんて誘惑に耐えつつ、寒さで硬くなっていた体を軽く柔軟で解す。

「手加減、手加減……」

 昨日は、地面の氷が隆起してしまう程の力を込めてしまったからね。
 そんな事にならないよう、今日は手加減を念頭に入れて拳を軽く握る。
 ストレートではなく、ジャブのような気持ちで……ボクシングには詳しくないし、打ち付ける先は地面だけど。

「んっ!」

 意識が変わったからだろう、平常時やこれまではあまりわからなかった、魔力が全身を駆け巡るのを感じつつ、拳を地面の氷に打ち付ける。
 途端……。

「うぉ!?」

 拳を打ち付けた部分が大きく沈み、さらに拳を中心にして周囲にひび割れを発生させた。
 俺の立っている場所どころか、三メートル以上先にまでひびが届いている。

「ちょっとやりすぎたかな? 昨日よりはマシだけど。割ると言うより、破壊だねこれは」

 コツコツと、靴で地面のひび割れを確かめながら呟く。

「まぁでも、これくらいなら隆起させちゃうよりは全然いいし、大丈夫か」

 拳を打ち付けた部分は足がすっぽり入るくらい沈み込んでいるから、引っかかって少し危ないかもしれないけど。
 でも尖った氷もできていないので、近くで転んだ時の危険度は少ないと思う。
 危険度としては、隆起させる、割る、ひびを入れるの順番かな……もちろん、隆起させるが一番危険だ。
 槍のように尖った氷が出来上がっていたからなぁ。

「とはいえ、もう少し加減はした方が良さそうだから……」

 氷に入ったひび自体は、むしろ滑りづらくなって良さそうだけど、一度で広がる範囲が広い。
 火の魔法を当てれば、隙間に入って融かしやすくはなるだろうけど……というか、結構深くまでひびが入っているのに隙間を覗き込んでも、奥はまだ氷なんだなぁ。
 それに、拳を打ち付けた部分が沈みこみすぎだ。
 もう少し加減をすれば、へこむ深さも少なくなりそうだね。

「とはいえ、もうちょっと手加減か。やり過ぎると、割れない可能性もあるし……そうだ、ちょうど冷たかったし……」

 加減をし過ぎると、氷への影響を与えられなくなりそうだからと考えたところで、いい事を思いついた。
 早速、焚き火の近くにいる兵士さんに頼んで、手ごろな布を用意してもらう。
 ハンカチよりも、少し大きいくらいかな。
 それを右手の拳に巻きつけて完成……っと――。


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