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突き抜けたのかもしれない

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「夢だったとか? いやそんな馬鹿な……」

 白昼夢でも見たのか、キツネにつままれたような気分にもなるけど、地面から氷像が出てきたのは間違いないはず。
 体もあちこち痛いし。
 いや、体が痛いのは俺がジャンプして着地に失敗しただけとも言えるけど……でも、そのジャンプをするための原因となった氷像は、確かに存在したはずだ。
 まさか、また意識を乗っ取られたとかじゃないだろうし。

「んー……?」

 不思議に思いつつ、体の痛みが引いていくのを待ちながら、首を傾げる俺。
 しばらくそのままでいると、モニカさん達が駆けつけてきた。
 とはいえ、氷の上なのでグラシスニードルを靴に付けているとはいえ、土の上より遅いけど。

「リクさん!!」

 俺のすぐ近くまで来たモニカさんが、大きな声で呼びかけながら心配顔で覗き込んでくる。
 心配していたのは俺の方だったんだけどなぁ。

「モニカさん……えっと、さっきでっかい氷の塊があったはずなんだけど。ものすごい勢いで滑ってモニカさん達の方へ向かっていたような?」

 夢じゃないとは思うけど、確かめるためにモニカさんに聞いてみる。

「覚えていないの、リクさん? 確かにいたし、私達の方に向かって滑って来ていたわ」
「頭でも打ったのかもしれないわね。大丈夫?」
「あぁ良かった、本当にいたんだね。自分でもよくわからないんだけど、とにかく止めようと思ってあの氷、氷像? に飛び掛かったんだけど、気付いたらここに倒れていて……あ、うんフィリーナ。大丈夫、頭を打ったとかじゃないっぽいから」

 モニカさんの返答に、安心して息を漏らす……夢ではなく、あの氷像はちゃんと存在していたみたいだ。
 こうしてモニカさんやフィリーナ、それに兵士さん達数人が来ているという事は無事で氷像がぶつかったというわけでもないみたいだし。
 フィリーナからは、頭を打ったのかと心配されたけど、特に頭に痛みは感じていなかったので平気だろう。

 どうして、感覚が曖昧になっていたのかはわからないけど、ジャンプ後に地面とぶつかるとわかった瞬間に、ガードしていたんだと思う。
 結構、何度も氷の上を跳ねていたから、自分がどんな姿勢になっていたかはわからないけど……他の場所と違って、腕は両方とも強く痛みを感じていたから、そういう事なんだろうね。

「本当に大丈夫なの、リクさん? すごい勢いだったけど……」
「うんまぁ、ちょっと体のあちこちは痛いけど、大丈夫。怪我をしたとかじゃないから」

 打ち身くらいにはなっているかもしれないけど、裂傷や骨折などはなさそうだ。
 痛みも、もうほとんどなくなってきているし、全身動かせるうえ動かして痛みが増すという事もない。
 心配してくれるモニカさんに、笑いかけて平気な事をアピール。
 なんなら、ここで飛び跳ねても……というのはやり過ぎか。

 モニカさんが無事ですぐ近くにいるってだけで、テンションが上がり過ぎだ、俺。
 もう少し自重せねば。

「良かったわ……」
「あれだけの勢いで、何度も地面を跳ねていたのを見たけど、それでば大丈夫って笑えるのはやっぱりリクだからよねぇ」
「あ、そうだ。勢いで思い出したけど、さっきの氷像は? 結局どうなったの?」

 ほっと息を吐くモニカさんとは別に、呆れた様子のフィリーナ。
 俺の無事は確認できたとして、意識し過ぎなモニカさんへの気持ちを逸らすため、氷像に関する話に戻す。

「はぁ、本当に覚えていないのね。リクがやったんじゃない……ほらあそこを見て?」
「んー?」

 溜め息を吐くフィリーナが指し示す場所、そちらに顔を向けるとさっき起き上がってすぐ確認した、割れた氷が堆く積まれている場所だった。
 そういえば、氷は解かすばかりであんな風に積んだりはしていなかったような……?

「あれが、地面から現れて、滑って来ていた氷像? ってリクが呼んでいた物よ」
「あれが!? でも、どうしてあんな……」

 フィリーナに言われて驚く。
 言われてよく見てみれば、確かにあの巨体が割れればあれだけの氷の量になりそうだ。
 結構な範囲に散らばって、そこかしこで積まれているようだったから、氷像だとわからなかったんだね……形も当然違うし。

 あ、腕っぽい部分だったらしき氷の塊が見える。
 本当にあれが、さっきとんでもない速度で地面を滑っていた氷像って事で、間違いないみたいだ。

「リクがやったのよ」
「うぇ?」

 フィリーナの言葉に、モニカさんだけでなく様子を見に来ていた兵士さん達も、うんうんと頷いた。
 思わず変な声が出たけど、俺はただジャンプして着地に失敗しただけのはず……?

「近くで見ていたわけじゃないし、目で追えない部分も多くてはっきりとはわからないけど、やったのがリクなのは間違いないわ」

 フィリーナによると、氷像が滑って来ているのを確認して、その速度や大きさから逃げられないと悟ったのだとか。
 地面からあんな大きな氷の塊が出て来て、しかも滑って来るなんて考えていなかったんだから、逃げ遅れるのも当然だろうし、むしろ俺と同じく向かおうとしていたんだから、そこは仕方ない。
 んで、その途中に俺が突如氷像に向かって飛んだらしいと言っていた。
 らしいって言うのは、フィリーナだけでなくモニカさんや兵士さん達も、その瞬間の俺が見えていなかったからだとか。

 なんで見えていなかったかというと、氷像に注目していたから……ではなく、フィリーナ達から見て氷像の右側にいた俺の姿がぶれたと思ったら、突如大きな破裂音が響き、次の瞬間には氷像の反対方向の左側に現れたように見えた。
 それこそ、俺が瞬間移動でもしたかのように見えたみたいだ。
 そして、そこからは氷像に注目した人と、俺に目を向けた人それぞれに聞いた話だけど、氷像は破裂音が響いた直後に再び大きな音と共に砕け散ったらしい。
 その砕け散った残骸が、数か所で積まれた氷って事だね。

 俺の方は、一瞬で移動したと思ったらそのまま氷に激突、何度も跳ねながら速度を落として止まったという。
 皆も一瞬何が起こったのかわからず動けなかったみたいだけど、とにかく俺の無事を確かめるために駆けつけてきたと。

「……それじゃあ、もしかして俺がジャンプして氷像を突き抜けた、って事?」

 話の通りなら、目で追えずに瞬間移動したようにも思えるくらいだったらしいから、ジャンプと言えるかはともかくだ。
 俺としては、飛び掛かるためのジャンプをしたつもりだったんだけどね、もちろんあの時出せる全力で。

「多分だけど、そうだと思うわ。むしろそうでないと説明がつかないもの」
「えぇ。リクさんが右から左に移動……この際、目で追う事すら敵わなかった事は気にしないけど」
「そこは、ちょっとくらい気にした方がいいと思うんだけどね、モニカさん」
「まぁリクさんだから」

 何をしても、「リクさんだから」の一言で片づけられてしまう俺……自業自得なんだけどね。

「とにかく、リクさんが動いた間にいた氷像とぶつかって、四散させた。そう考える方が自然よ」
「確かに、俺自身よく覚えていないけど……言われてみるとそうとしか考えられないね」

 思い返してみると、勢いが衰えて着地に失敗する直前、何かにぶつかったような気がするようなしないような……?
 状況を話されて、気がするかも? という程度なので俺自身にぶつかった感覚はないようなものだろうね――。


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