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視点と立場による価値観の違い
しおりを挟む本来人間ではなく破壊神であるロジーナは、善とか悪とか、人の価値観で縛られる存在じゃない。
いや、そもそも破壊神として破壊する事が存在意義であるなら、神様としての価値観の中ではどれだけの人が犠牲になっても、ロジーナの中では善の行いなのかもしれない。
真実、というのは複数ないかもしれないが、正義は見方や立ち位置、価値観によって一つではなくいくつもあるから。
世界そのものを破壊なんていう、人からすれば絶対悪と言えるような存在でも、立場が変わればそれが正義だと断言できる存在だっている、のかもね。
「私は、人間がどれだけどうなろうとも……人も魔物も、全ての生き物や建造物、世界がどうなろうともどうでもいいわ。願わくば、あの人という事さえ憚られる魔物以下のゴミクズ。あれが後悔しながら滅せられる事だけが望みよ。そのためなら、どんな犠牲も、私自身が犠牲になっても構わないわ」
「……」
今度は、リネルトさんの方が押し黙る番になった。
罪の意識を問う、なんて事をロジーナとレッタさんにはできないと思ったのだろうか。
いや、それは俺が考えている事だね。
ロジーナはともかく、レッタさんは話し始めてからはちゃんと話せていたので、過去にどんな事があっても他の人達と大きく変わらないと思ってしまっていたから。
自分自身すら犠牲になってもいい、と言い切ったレッタさんは、どこか壊れてしまっているのかもしれない。
どんな事がレッタさんにあったのか、ロジーナから聞いていた内容を考えれば、それも当然かもしれないけど。
むしろ聞いていなかったら、どうしてここまでの考えができるのかなんて、不毛な事を考えてしまったり、質問していたりしていたかもしれないね。
「私にとって、いえ私の存在意義そのものが、あの人の廃棄物のようなクズに後悔させる事。この世から滅する事なの。それ以外がどうなろうと、知ったこっちゃないわ」
「レッタの事情や私の存在を汲め、とは言わないわ。けど、私達の行動を責める事は、それそのものが無意味よ」
多分、綺麗事を言ったり、倫理的な話をしてもレッタさんやロジーナには通用しないだろう。
ロジーナはともかく、レッタさんは復讐にのみ取りつかれているようだ。
リネルトさんの笑顔を見返し、睨むように目を細めているレッタさんの瞳の奥には、そういった何かが感じられる。
なんというのか、覚悟が決まった人……というのじゃちょっと弱いけど、誰に何を言われても、何をされても復讐をする事しか考えていないと感じさせる、暗い……いや、昏い影を潜ませていたから。
「まぁ、考え方はそれぞれとして……」
このままだと、お互いの価値観の主張で平行線だし、話が進まないと思ってできるだけ明るい声を出して、話を変える。
このまま、リネルトさんとレッタさんがにらみ合っていても、あまり意味はないし、部屋がどんどん寒くなるばかりだからね……片方は、張り付けたような笑顔だけど。
「さっきロジーナが、もしレッタさん達がいなければもっと被害が出ていたって言っていたけど、どういう事?」
「レッタのように、帝国の研究で使われる人が大量に出ただろうってだけの事よ。今でも、帝国は国民に対して、人とも思わないような実験を行っているけど、表立ってはやっていないわ。それは、私がエルフに情報を渡した事で、一定の成果を得られたからよ。成果が出る前は……」
ロジーナ曰く、レッタさんが復讐のために帝都で活動をして捕まってしまった後は、研究のための実験はさらに過激になって行っていたとか。
捕まえてレッタさんを調べたりとか、まぁ他に色々しても魔物を操る方法がわからなくて、焦り始めていたみたいだ。
魔力を誘導するのはレッタさんにだけ使える特殊能力なんだから、調べても研究しても同じ事が他の人にできるようになるわけがない……というのもロジーナ談。
他者の魔力を遠隔で操作するなんて、イメージができたとしても俺やエルサですらできないだろうし。
できたとしても、直接触れた相手や極近い生き物の魔力に干渉する程度……俺の治癒魔法みたいな感じだろうね。
んで、帝国のクズ皇帝は、目の前にニンジンをぶら下げられた馬のように、魔物を操るためのヒントを得られたはずのに、一向に成果が出ない事に焦っていたのだとか。
その頃はまだ皇帝じゃなかったけど、だからこそ余計に自分が危うくなる可能性もあるため、余計に焦ったんだろう。
だから、レッタさんお願を聞き届けてロジーナが顕現する直前には、かなり過激な事もしていたみたいだ。
「そうなると、確かにレッタさんとロジーナが協力する事で、魔物の研究が進んで犠牲者が少なくなったんだね?」
「えぇ、そうよ。まぁ私はレッタ以外にだと、エルフに魔物に関する情報を渡しただけだけど。帝国内部には、レッタが動いていたわ」
ロジーナがエルフ以外に、というか帝国に直接関わっていないのは、干渉力とやらのせいだろう。
神様が神様として、人や世界にかかわる時はその干渉力が必要らしく、できるだけ大きく消費したくないものみたいだから。
まぁロジーナの干渉力のほとんどは、俺と戦ってほとんど使わせちゃったんだけど。
ともかく、エルフを使って魔物の研究を進ませるのが、最低限の干渉だったんだろうね。
「さっきどうでもいいとは言ったけど、あのままだと私みたいな人間が、複数……数十どころか数百、数千と生まれかねない状況だったわ。放っておけば、帝国が滅亡するまでやっていたかもしれないし、その際に他国の人間も捕まえて来て、なんてやりかねない状況だったわね」
「他国の人間……」
他にも隣接国はあるみたいだけど、一番大きな国は俺達が今いるアテトリア王国だ。
どの国からどれだけ、なんて正常な判断ができなくなった人がどうするのかはわからないけど、少なくない人が連れて行かれていたかもしれない。
可能性の話しで言えば、その前に帝国内部で瓦解したり、周辺国が帝国を糾弾するなんて事だって考えられるけど……。
「それと比べたら、現状はまだ被害が少ない方よ。まぁ結果論だけどね」
「あのゴブリンの方が美しいとすら思える醜悪なゴミは……」
ゴブリンの方が美しいって……結構な罵倒な気がするね。
数が多く場所問わず生息しているのもあって、ゴブリンは醜悪な魔物の代表格なのに。
それだけ、レッタさんがクズ皇帝を憎んでいるんだろうし、醜悪な行いをしているって事なんだろうけど。
「あの外道と言う言葉すら生易しいド外道は、思い通りにいかなかったら間違いなく、全帝国民を犠牲にするくらいしていたわ。既に多くの帝国の人間を犠牲にしていて、後戻りはできないのだから。いくら皇子とはいえ明るみに出れば、自分の立場も危うくなったでしょうからね。そんな事、廃棄物にも劣る存在のくせに、全ての生き物を見下していたあれが耐えられるはずないもの」
そりゃそうだよね、姉さんに聞いていた前皇帝……つまり、クズ皇帝の父親はそういう事を許すような人じゃなかったみたいだし、黙認されているなり隠蔽して発覚していないにしろ、表沙汰になったら何もしないわけにはいかないからね――。
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