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帝国出身者の取り調べ

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「こちらです……繰り返しますが、あくまで念のための措置ですので、ただここにいてもらっているだけです」
「はい」

 地下の部屋を抜けた先は、鉄格子で遮られた部屋が並んでいた。
 ベリエスさんがその真ん中あたりで立ち止まり、カギを取り出して鉄格子の扉を開ける。
 奥は見ていないからわからないけど、特に声などの物音は聞こえないし、ここまでの他の部屋には誰もいなかったから、使われているのはここだけなんだろう。
 ただまぁ、鉄格子、地下という条件でさらに明りはあっても薄暗いので、牢屋という言葉が頭に浮かんだ。
 用途としてもそのままなんだろう。

 どうして冒険者ギルドの地下にこんな施設があるのか、と後で聞いてみたんだけど。
 冒険者の中にも悪事を働く人は当然いるわけで……そんな人を国に渡す前に拘束するためだとか。
 他にも、その国の法で裁けない人を捕まえておき、他国へ行き渡すまで入れておくとか。
 まぁ法で裁けないというのは、別の国で悪事を働いて逃げてきた冒険者だったりするらしい。

 ともあれ、牢屋の事よりもそこにいる人達だ。
 俺とベリエスさん、それから鉄格子の前で見張っていたらしいギルド職員さんの男女一組で、部屋の中に入った。
 鉄格子だから当然だけど、こちらからも向こうからも既にお互いを格子の隙間から認識している。
 とはいえ、中にいる人達……女性二人は、モニカさんに任せてきた二人と同じく項垂れているため、チラリと俺を見ただけだったけど。

「えーっと、こういう時なんて言えばいいのかわかりませんけど。とにかく、できるだけ聞かれた事は、素直に答えて下さい」
「嘘を吐けば、それだけ今後の立場が悪くなる。私も疑いたくはないのだが、仕方ない事だ」

 椅子に座っている女性二人に、ベリエスさんと語りかける。
 こんな鉄格子の牢屋に入れられていたら、囚人という言葉が合いそうだけど、その女性二人は別に縛られたり囚人服を着ているわけじゃない。
 ベリエスさんも言っていた通り、念のための取り調べだと示すように、武器はさすがに持っていないけどその他の装備は解除されずそのままだった。

「「……」」

 片方の女性は、俺を見てコクリと頷き、もう片方の女性は黙って俺を睨む。
 まぁ、後者の女性には嫌われていた節があるから、睨まれるのも仕方ないか……多分、今回こんな事になっていなくても、街中で会ったら同じように睨まれていたと思う。

「では、まず私から……」

 並んで立っていたベリエスさんが、一歩だけ前に出る。
 俺も気になる事や聞きたい事はあったけど、まずはギルドマスターのベリエスさんからの調査だ。
 というか、それが本題だからね。

「Cランク冒険者パーティ、リリーフラワー。そのメンバー、アンリさんと、グリンデさん」

 必要あるかはわからないけど、確認のために発したベリエスさんの言葉。
 そう、牢に入っている女性二人は、アンリさんとグリンデさん。
 リリーフラワーのおっとり担当、でも戦闘では大きな戦斧を軽々と振り回す緑髪のアンリさん。
 もう一人は、リーダーのルギネさんが絶対と妄信している節がある、すばしっこさで敵を翻弄する……俺は見た事がないけどそうらしい、黄髪のグリンデさんだ。

 地下に降りてすぐの部屋、モニカさんに任せてきたのは残りのリリーフラワーのメンバー。
 リーダーで赤髪、最近はマリーさんの指導の成果があったのか、露出を押さえて一般的な服装をするよいうになったルギネさんと、何故か異様に干し肉に執着を見せる、後方魔法担当らしい青髪のミームさんだ。
 まぁ、ルギネさんはアンリさん達が取り調べをされるとなって、落ち込んでいたようだけど、ミームさんは実は部屋を通る時、干し肉を齧っていたのが見えたんだけど。
 今頃、モニカさんかルギネさんに、何か言われているんじゃないだろうか?

「二人は帝国で冒険者となり、活動。一年程度前に、アテトリア王国に来た。間違いありませんね?」
「はい……」
「……」

 ベリエスさんの問いかけに、頷くアンリさんに対し、グリンデさんはまだ俺を睨んでいる。
 いや、俺何もやっていないし、今質問しているのはベリエスさんですからね?
 ともかく、レッタさんの証言後、帝国との関りがあるかどうかと冒険者の経歴を調べた際、センテにいた冒険者で引っかかったのがこの二人。
 アンリさんも首肯したように、二人は帝国で冒険者になってこちらの国に来る前はずっと帝国で活動していたらしい。

「では、単刀直入に聞きます。帝国の冒険者ギルドでは、表には出せない活動をしていると聞き及びました。そちらとの関りはありましたか?」

 回りくどい聞き方をするのではなく、すぐに本題に入るベリエスさん。
 表に出せない活動……つまり裏ギルドでの活動をしていたかという事。
 そちらでの活動歴があるのなら、アテトリア王国で悪事を働いていないとしても、冒険者ギルドとして処罰しなければいけなくなる。
 裏ギルドなんて、あってはならないものなのだから。

「話には聞いた事があるし、向こうからの接触もあったわ。でも、誓って私は裏ギルドの依頼は受けていないし、関わってもいないわ」

 ベリエスさんの質問に答えるアンリさん。
 一応、俺から見る限りでは嘘を言っているようには見えないけど、果たして……。

「聞いた話によると現在、帝国の冒険者ギルドはほとんどが裏ギルドに関りがあるとか。でしたら、関わらずに冒険者を続けるのは難しかったのではないですか?」
「まぁ、何度も妨害に合ったわ。それに嫌気がさしたから、国を変えたの。隣の国とはいえ、さすがにここまでは向こうが接触してくる事もないと思ったから」
「実際に、接触はなくなった……と?」
「えぇ。私とグリンデは、二人でこの国に来たわけだけど……」

 相変わらず、俺を睨んだままのグリンデさんに視線をやりながら、アンリさんが話してくれる。
 帝国で冒険者をしていた際、裏ギルドの依頼を斡旋されそうになった事は何度もあり、それを断っていると関係者と思われる冒険者から、嫌がらせとかはよく行われていたらしい。
 命の危険、というのはあまりなかったようだけど、女性である事からの身の危険とかを感じる事はよくあったのだとか。
 ただ、アンリさん自身はその時Cランク間近と見られてはいても、実際にはDランクだったことから裏ギルドの方は重要視していなかったんだろうと、だからこそ本当に命に危険にまでは行かなかったと予想していた。

 あとはっきりとは言わないまでも、怪しい勧誘とか依頼の斡旋があった事などを、他に漏らしていたらそれはそれで狙われる危険があっただろうとも。
 この話が真実なら、帝国の冒険者ギルドはレッタさんの話以上に、裏ギルドとして帝国内を掌握している可能性が高い。
 ちなみに、帝国からアテトリア王国へ逃れる途中に、元々膂力には自信があったから大きな斧を振り回すようになったんだとか。
 女性だから、と見られて侮られるよりも斧をぶん回していた方が、威嚇の意味もあって都合が良かったと――。


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