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咲いている百合の花を摘みとる気はないリク

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 確かにアンリさんの使っている斧は、柄は槍のように長く刀身は男性の体すら易々と隠せるくらいの大きさだから、そんな斧を持っている女性は近寄りがたいものがあるのかもね。
 斧の大きさは、俺がこれまで見た中で最大の武器と言っていいくらいだ。
 ヴェンツェルさんが使っていた大剣も、それなりの大きさだったけどアンリさんの斧程じゃないからね、。
 二メートル近くあるモニカさんの槍よりも、長いくらいだし。

 ……そんなアンリさん含む、リリーフラワーのメンバーをナンパしようと近付いてぶっ飛ばされた冒険者もヘルサルにいたけど。
 もしかしたら、帝国にいた頃の経験があったからやり過ぎと思えるくらいの対処をしたのかもしれない。
 ベリエスさんが話を聞きながら、鉄格子越しに見える向かいの牢屋に安置されているアンリさんの斧を見て、「あんな巨大な物を振り回せるのですか……」と呟いていたりもした。

「グリンデさんでしたか。そちらは? 裏ギルドの関わりや、この国に来た時の状況など……」
「私もほとんどアンリと同じようなものよ。私は身軽だけどアンリより非力だから……多分アンリよりもすぐに帝国に嫌気がさすのは早かったと思うわ。それくらいの違いね」

 まだ俺を睨み続けるグリンデさん……そんなに睨まれ続ける程、グリンデさんから恨まれる事はしていないはずだけどなぁ。
 ともかく、詳しく聞いてみるとグリンデさんとアンリさんは、生まれは帝国ではあるけど出身地は違い、冒険者になった時期も違うらしい。
 アンリさんの方が早く、裏ギルドの嫌がらせを受けていた期間は長いとか。

 そんなアンリさんとグリンデさんだけど、アテトリア王国に来る前に知り合って行動を共にしたんだとか。
 まぁ、お互い怪しい依頼の斡旋を断って、嫌がらせを受けて逃げ出したんだから、最初は警戒していても打ち解けるのは早かったんだと思う。

「そうして、この国に来て……お姉様に出会ったの! まさにあれは運命的な出会いだったわ! あぁ、お姉様……」

 これまで俺を睨んでいた険しい表情から一転、グリンデさんが急にトリップしているような恍惚とした表情になり、手を組んで牢屋の天井を見上げた。
 お姉様って、そういえばルギネさんの事をそう呼んでいたっけ。
 リリー的な……つまり百合の花的な意味もあるんだろうな。
 ただ、いくら天井を見上げようとも、そちらにルギネさんはいない。

「お姉様との出会いは本当に運命で、出会うべくして出会ったのだと理解するとともに、全身に衝撃が走ったくらいよ。それなのに……それなのに……!」
「え?」

 それなのに、と繰り返して見上げていた視線を落とし、再び俺を憎々し気に睨むグリンデさん。

「そこのリクって男が、私からお姉様を奪おうとしているのよ!  何が英雄よ……私にとっては略奪者ね!」
「いや、そんな事は全く考えていないんだけど……そんな、略奪なんて」

 ルギネさんとは冒険者仲間とか友人だと俺は思っているけど、グリンデさんから奪おうなんて事は一切考えていない。
 目のやり場に困る、何故そんな物を身に着けているのか疑問しか感じないビキニアーマーじゃなくなって、ソフィーとの事もあって突っかかられていたりもしたけど、今は誤解も解けたってくらいだ。
 服装が一般的になったのもあって、目のやり場に困る事がなくなり、話しやすく感じたりもするけど。

「まぁまぁグリンデちゃん。あれはルギネが一方的にだから。仕方ないわよ」

 とりあえず、アンリさんがグリンデさんを落ち着かせるのを少しだけ待つ。
 その間に、ギルド職員さんに言伝を頼んで俺達が使っている宿まで走ってもらう。
 ちょっと、ほんの少しの引っ掛かりから、もしかしてという考えが湧いたからだ。
 まぁもし間違っていても、謝れば済む事だし……嫌味は言われるかもだけど。

「二人がこの国に来た理由はわかりました。まずはそれを信じるとして……次の質問です。こちらは、お二人に関してというよりも裏ギルドの事になります。依頼の斡旋は、どのようなものがありましたか?」

 今すぐ本当の事を言っているかを確かめる事はできないし、一年以上前の事で証拠を出せとも言えないから、とりあえずは信じるしかない。
 嘘を言っていないという前提で、ベリエスさんが次の質問に入った。
 こちらはアンリさんやグリンデさんの潔白のためというよりも、裏ギルドがどういう事をしているのかを知りたいといった風だね。

「私に来たのは、大体が他の冒険者への嫌がらせね。自分もされた事だけど、今考えるとあれをやっていたのもまだ未熟な新人冒険者だったのでしょうね。まずは様子見の依頼を受けさせて、徐々に取り込んでいく……とかかしら?」
「私も、同じくよ。時折、旅の商人や人の少ない村を獲物にするような依頼もあったかな」
「それは、私にもあったわね」
「商人や村を……詳細はわかりますか?」
「いえ、依頼を受けるのであれば詳細を伝える、といった内容だったわ。怪しいから、突っぱねてやったけど」

 冒険者の依頼は通常、ギルド側が仲介した依頼を受ける形なんだけど、当然依頼の内容やこうなれば達成するなどの条件がある。
 それは依頼を受ける冒険者に開示されるのは当然だし、納得したうえで依頼を受けなければいけない。
 じゃないと、依頼が達成できないなんて事もあるし、依頼を受けてから取り下げる場合には、失敗扱いになる。
 ものによったら違約金みたいなものが発生する依頼もあるけど、それだけじゃなくランク判定のためや数値には出ないけど冒険者ギルドからの信頼度なとに関わる、以来の達成率にも関わるため、基本的に冒険者は自分達にできそうにない依頼は受けない。

 達成率だけでなく、無謀な依頼を受けて怪我どころか、命を落とすなんて事もあり得るわけだから、慎重になるのは当然だね。
 けど、裏ギルドからの者と思われる依頼にはそれがなく、詳細が知らされない……まっとうに冒険者をしようと考えている人なら、怪しんで受けないのが無難ってとこかな。

「ただ、私はまだ運が良くてやっていけていたけど……国との協力や住み分けができているこの国と違って、帝国は冒険者に対する依頼がそもそもに少ないの。計画的に行動していれば、生活にあまり困らなくなるCランクでも、困窮して借金するのも少なくなかったわ」
「この国でも、Cランクになったとしても困る者はいますが、借金をしなければならない程ではないですね……成る程」

 依頼が少いのは、冒険者としての仕事が少ないのと同義だから、つまり報酬が満足に得られないという事にもつながる。
 高い武具や、無茶なお金の使い方をしていなければ、アテトリア王国の冒険者は一人前と言われるCランクで十分に生活ができるらしい。
 らしいというのは、俺自身がCランクスタートだったけどすぐにBランクやAランクに上がったうえ、地道な活動をしている冒険者さんと同じようにはやって来ていないからだ。
 何せ、ヘルサル防衛戦が終わったと思ったら、しばらく遊んで暮らせるくらいの褒章がもらえたりもしたわけだし。

 ともかく、そんなこちらの国の事情とは違って、帝国ではCランクでもまともに食べて行ける状況ではないって事か。
 冒険者はその仕事柄、刹那的な生き方をして宵越しの金は持たない、みたいな人もいるにはいるみたいだけど、借金をする人が少なくないというのはそれだけじゃないだろう。
 そういえば……。


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