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息を止めながらの戦闘
しおりを挟む「KISYAAA!!」
「っ!」
甲高い声と共に、先頭のラミアウネの黒い穴部分から、数ミリあるかどうかというくらいの玉みたいな物が大量に飛び出した。
それは、木々に邪魔されながらも、俺へと襲い掛かる……!
「い……たくはないけど! これが例の花粉か!」
チビラウネが発生した時は見えていなかったため、花粉がどんな物かわからなかったけど、浴びてみて初めてわかる。
甘さも感じる匂いと共に飛来した花粉は、俺を包み、さらに地面へと降り注ぐ……このままじゃ、またチビラウネが発生する!
しかも、匂いも感じているから、俺自身も吸い込んでしまっているんだろう。
驚きもあって、呼吸は浅く短くなっていたのかもしれない……花粉と聞いていたから、もっと粉っぽい物を想像していたから。
いや、もしかしたら小さい玉のような物に紛れて、極微小な花粉が混ざっているのかもしれない。
それが呼吸をする俺の口や鼻から気管に入って……とかの可能性もある。
ラミアウネの花粉は弱くとも毒、今くらいなら多分大丈夫なんだろうけど、このまま吸い続けたら危険だ。
他のラミアウネも、戸惑っている俺に向かって花粉を飛ばすためなのか、止まって花の顔をもたげているから。
「この場を離れるか、それとも息を止めて戦うか……どっちにするかは、まぁ決まっているよね。んっ!」
一斉に、他のラミア畝たちも俺に向かって花粉を飛ばしてくる中、呟いて一瞬だけ後ろを向く。
少しでも、花粉を吸い込まないよう、向かって来るのとは逆の空気を肺いっぱいに吸い込む。
玉のような物は、無数に体に当たっているけど、特に痛みはない。
これは俺だからか、それとも元々玉自体に攻撃性がないのかはわからないけど……とにかく、息が続くうちに動かないとね。
そう思い、花粉を放出し終えたらしい最初に飛ばしてきたラミアウネが、俺に向かって飛び掛かりつつ、蛇の体を伸ばしてくるのに対して、こちらからも飛び掛かる。
「……っ!」
「KISI!?」
俺の動きが衰えない事に驚いたのか、それとも攻撃を受けた事に驚いたからなのか……ともかく、真っ直ぐ縦に斬り裂かれたラミアウネは、どこから発しているかわからない声を漏らし、地面に落ちる。
動かなくなったかどうかを確認するより早く、今度は別のラミアウネに向かって飛ぶ。
近くの木の上、枝に巻きついていたラミアウネを、その枝ごと斬り裂いた。
「っ……っ!」
剣を振り下ろし倒れに、他方から飛んで来たラミアウネ。
迎え撃つ体勢を整えるのは間に合わないため、枝ごとラミアウネを剣で斬って振り下ろした勢いのまま体を空中で回転させつつ、木を足で軽く蹴って位置をずらす。
そのまま飛び込んできたラミアウネの胴体を左から右に薙ぎ払うように鞘で打ち付け、くの字にさせたまま持って別の木に着地。
体を捻りつつ足場にした木を蹴って、二体同時に飛び込んできたラミアウネを避ける。
そのまま地面に着地する前、空中で横に体を回転させて鞘で掬い取るように体を持っていたラミアウネを、花粉から発生したチビラウネの方へとぶん投げた。
俺に飛び掛かってきたラミアウネは、二体とも気に巻きついて勢いを殺し、さらに再びこちらへと襲い掛かる気配。
投げたラミアウネの様子を確認する間もなく、木に巻きついた二体を地面を蹴って飛び上がりつつ、木の横をすり抜けざまに、幹ごと斬り払った。
これで……五体ってところか。
ぶん投げたラミアウネがまだ生きているかはわからないけど。
ただ鞘で打ち付けた時、それなりに手ごたえを感じたため、少なくともしばらくは動けないだろう。
残りは……って悠長に数えている余裕はないか。
そろそろ、息も辛くなってきたから……。
「ふっ……! ぶはぁ! はぁ、はぁ……!」
残ったラミアウネたちから、距離を大きく離して息継ぎ……さすがに、息を止めたままある程度動くっていうのは、結構辛いね。
水泳の経験はもちろんあるし泳げるけど、元々肺活量が多いとか潜水が得意ってわけでもないし。
「ふぅ……さて、次はどうするか……」
鞘でぶん投げたラミアウネを含めたら、ここまでで六体を倒している。
けど、距離を取った俺に向かって来るラミアウネは、減った様子が見られない。
多分さらに集まってきたか、俺からは見えない位置で木に隠れていたのが姿を見せただけだろうね。
しかも、さっき散布された花粉が地面に降り注いで、無数のチビラウネが発生している。
「人が吸い込むのが微小の花粉で、小さい玉みたいなのがチビラウネを発生させる種、ってところかな」
視認できるかも怪しい花粉が人の体内に吸い込まれて毒をもたらし、玉の方が地面に落ちたそばから蛇の体と花の顔が中から出て来ているように見えた。
どういう原理でそうなっているのかはわからない、というか、一瞬で小さな玉からチビラウネが出て来るのはなぜなのか。
わからない事ばかりだけど、無数に発生したうえでうねうねしているのは、その見た目以上に気持ち悪い。
「とはいえ、先に花粉を放出したラミアウネを倒しているから、半分以上動かなくなっている、のか」
地面にいるチビラウネ達は、パッと見るだけでその半数以上が動かない……親のラミアウネを倒したからだろう。
まぁ、気の陰に隠れていたり、俺からは見えない位置にもいるはずなので本当に半数以上かどうかはわからないけど。
あくまで、俺から見える部分でだ。
「KISIIII……」
「複数の仲間をやられて俺を警戒しているのか、それともまた他のラミアウネを呼んでいるのか……」
じりじりとこちらに近付いては来ているけど、先程までとは違い一気に飛び込んでこなくなったラミアウネ。
人ならざる声を発しているけど、それが何を意味しているのか俺にはわからない。
リーバーとかは口や目の表情に、声の調子を加味してなんとなく伝えたい事がわかったりはするけど、ラミアウネに表情とかないからね。
声も一定だし、そもそもどこから声をだしているのかもわからない。
「今のうちに、さっきの要領でこちらから向かって数を少しでも減らした方がいいか……って、ぶわっ!?」
チビラウネ達は、尻尾の先の針のような部分を突き刺そうとしてくるだろうけど、多分俺なら大丈夫。
それに、木の幹を足場にして動けば届く数は少なくなるし、最悪踏み潰しせば多少数は減らせるとして……とにかくラミアウネそのものの数を減らさないと、と考えて呟いた俺に、頭上から花粉が降り注いだ。
上に来ていたのか!
木々が密集しているのもあるけど、以外というかなんというか、ラミアウネはそれなりに隠密行動が得意なようだ、って冷静に分析している場合じゃない。
「くっ! 弱点の火が使えれば、楽なんだろうけど……すぅ……んっ!」
慌てて飛び退き、花粉がほとんど届いていないであろう場所で、再び息を吸い込んでラミアウネ達に向かう。
剣だけでどうにかしようと、火を使わないのはラミアウネと戦う時に、かなり不利を強いられるんだなぁ。
まぁ使いたくても使えないだから、ない物ねだりをするのは止めておこう――。
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