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自分が魔法を使えないなら別の誰かが使えばいい

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「ガァゥ?」
「あぁ違う違う。森から離れるんじゃなくて……」

 俺が飛び乗ったから勘違いしたんだろう、リーバーは翼をはためかせて高度を上げ、ラクトスの方に移動しようとしたので慌てて止める。
 リーバーにはもしもの時に離脱するため、空で待機って最初に伝えていたからね、勘違いするのも無理はない。

「もうちょっと高度を落として……それくらいかな。リーバーには、火の魔法を使って欲しいんだ」
「ガァ?」

 もう一度高度を下げてもらい、やって欲しい事を伝えると首を傾げるリーバー。
 多分、いいのか? って聞いているんだと思う。
 森に火を放つってわけだから、疑問に思うのも当然か。

「本当は森が焼けて危険だから、あまりやりたくなかったんだけどね。俺は魔法が使えないし、あのままにはしておけないから……」

 まぁ魔法が使えたとしても、俺がやったらやり過ぎてしまう可能性があるからね。
 火力自体はそこまで必要じゃないだろうし、エルサ程じゃなくても調整できるリーバーがやった方がいいだろう。
 魔物は、生まれつき自分が使える魔法を把握していて、人間より魔力の扱いに長けているらしい、とどこかで聞いた覚えがある。

「あと、リーバーは水系の魔法が使えたりしないかな? 使えないようだったら、少しずつ燃やしていくしかないけど」
「ガァ……ガァゥ!」

 もし森の木々に延焼した場合、消化しないといけないから、まだ残っているラミアウネやチビラウネの残骸を燃やすのには注意必要だからね。
 そう思って聞いてみたら、見本を見せるようにリーバーの口辺りからホースから出るような水が放出された。
 勢いは強くないから、あくまで一応使えるって程度だろうけど、もしもの消化作業にはやり過ぎなければ十分だろうと思う。
 結構な勢いのある火炎放射みたいに放つ火の魔法より、勢いとかが少ないのは、相性とかが関係しているのかもしれない。

「お、使えるんだ。火と水が使えるって、ワイバーンは優秀だなぁ」

 火と水は、相反する属性……みたいに言われていて、実は両方を実戦レベルで使える人は多くないらしい。
 あと、それぞれに相性みたいなものがあるらしく、本人の感覚によるところが大きいんだけど、使いづらいとか使いやすいというのもあるみたいだ。
 モニカさんは火の魔法で、フィリーナ達が風の魔法とかね。
 まぁフィリーナ達はエルフの種族の特性みたいなものらしいけど。

 あと、魔力が変換されている過程で、相性の差が出て消費魔力が少し変わったりとかあるみたいだ。
 本当に微々たる影響で、例えば火の魔法との相性がいい人が枯渇間近になるまでに十回連続で使えるのに対し、相性の悪い魔法だと九回しかできない、とかそれくらいだね。
 威力とかに差はないので、そこまで重要視されない傾向みたいだけど、使いづらいという感覚は瞬時の判断が必要な戦闘では邪魔になるため、基本的には相性のいい魔法を皆使いたがるらしい。
 解氷作業のような場合には、木に去れない事なんだけどね。

 ただ、魔物の場合、その相性が如実に威力などに表れて、得意な魔法は強く、使えるけど苦手な魔法は弱い、という傾向がよく見られるそうだ。
 本能で動くことの多い魔物だから、得意な魔法を多く使って慣れているから、とかもありそうだね。

「それじゃ遠慮なく……ってわけにはいかないけど、下に見える木々が斬り倒されている広場に向かって、火の魔法を使って欲しいんだ」

 そのために、広めに木々を斬り倒したんだからね……切り株は残っているけど、大きな木がそのまま残っている場所に火の魔法を放つよりはマシだ。
 ラミアウネの数を減らすついでだけど。
 ちなみにまだまだ数が減らないようなら、リーバーに頼んで一気にラミアウネを燃やして……なんて最初は考えていたんだけどね。
 さすがに無限にいるわけじゃないラミアウネは、地上に五体以上はいるけどただ敵意剥き出しで俺とリーバーを見上げるだけで、増えたりはしていない。
 
「ガァ! ガァ?」
「えっとね、まず始めは火力調節調節をしながらで……」

 口を開けてどこを燃やせば? と言っている風なリーバーに、手始めに調整に失敗しても大丈夫そうな、俺が作った広場の中心部分を示す。
 そこから木々に燃え移らないよう火力を調整しつつ、広場の外側近くにある倒れた木々やラミアウネを燃やしてもらうようお願いする。
 まだ生きて残っているラミアウネ達は、俺を見上げるためか広場のあちこちに出て来ているから、一緒に巻き込む事もできるだろう。

 空から見る限り、木々の合間に隠れているようなのもいなさそうだし、敵とみなした相手を囲むくらいは考えられるけど、何をされようとしているのか、その場所がどういった経緯で作られたのかなどを考える事はできないようだ。
 敵を囲むとかは多分、本能とかでやっていた事なんだろう。

「ガァ~」
「うん、お願い」

 いくよ~とでも言っているかのようなリーバの声に頷く。
 許可が出たと、リーバーが大きく口を開けたまま顔を一旦空へを向けた。
 魔法を使うための予備動作だろう。
 そして、もう一度地上へとリーバーが顔を向けた瞬間、人の顔サイズの火の玉が発生し、射出された。

 ……あ、火炎放射型じゃないんだ。
 確かに、どういった火の魔法でという指定はしなかったけど。
 結界内を温めてくれる時とか、多くの魔物相手に使っていたのを見たけど、狭い範囲を燃やすならリーバーとしてはこちらの方がいいのかもしれない。

「まぁそんなに威力が高いものじゃなさそうだから、大丈夫か」

 そこまで速い速度ではなく、人が軽くボールを投げるくらいのスピードで地上に向かう火球。
 大きさ的にも、多少地面に跡が残る程度でチビラウネをある程度燃やしてくれそうだ。
 まさか、着弾と同時に周囲に爆発的な炎を撒き散らすなんて事はないだろうし、それをやってしまうのは俺の担当だからね。
 いや、担当というか、魔力量の調節に失敗してそうなってしまう事が多いんだけど。

「ん? って、うぉ!?」
「ガァ!?」

 火球が落とされ、森の木々のてっぺんより地上に近付いた辺りで、何やらチリっとした火花のような物がかすかに見えた。
 散布されていた花粉が、火球の熱で燃えたんだろうか? と思った次の瞬間……。
 空を飛んでいるリーバーと俺にまで届く熱風と一緒に、大きな火柱が立った!

「え、ちょ……リーバー、どれだけ強い魔法を撃ったんだ?」
「ガァ!? ガァ、ガァゥ!」

 熱風に煽られて少しバランスを崩したリーバーに揺られながら、抗議するように聞いてみると、首をブンブンを左右に振って否定した。
 どうやら、リーバーが狙ってやった事ではないらしい。
 確かに、リーバーが幅数メートル、高さ十メートル以上の火柱が立つ程の威力の火の魔法なんて、使えないか。

 俺が熱風に驚いた時、リーバーも一緒に驚く声を発していたからね。
 自分でやったのなら、そんなに驚く事もないだろうし熱風に煽られてバランスを崩す前に、備えてもいただろう。
 リーバーじゃない事は間違いないのか、でも、それならどうして……?


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