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魔力を飛ばす斬撃
しおりを挟む「そういえば、ベテラン冒険者さんが数人のパーティで討伐する魔物の数は、一日十体程度と言われているんだっけ。もちろん魔物のランクにもよるんだろうけど」
弱くてあまり脅威にならない魔物が群れていたりすると、数は跳ね上がるだろうし、強い魔物が広い範囲で散らばっていると一日で討伐できる数も減るかな。
まぁそれはともかく、このまま逃げてもラミアウネは追って来るだろうし、まだまだ森の奥へ向かうつもりだから邪魔にしかならない。
森の外なら対処もしやすいけど、連れて行くのは論外だ。
というわけで、今しがた有効な攻撃手段を見つけた事だし、とにかく数を減らす事を目標として、戦い続けてみよう。
どうしてもの時はリーバーを呼んで離脱する手もある……って、そうか、リーバーがいるよね。
「いい事を思いついた。じゃあ、準備をしようか……」
頭の中で思い浮かべた事を実行するため、まずはラミアウネに向かって魔力を流した剣を振るう、振るう、振るう。
何度も花粉が散布されたけど、剣を振るう事で俺の周囲にある木々がラミアウネと一緒に斬り裂かれ、倒れていく。
他の木に倒れ掛か買っている木もかなりあるけど、その場合は支えになった木も一緒に斬る。
そうして、俺の周囲の木々は斬り倒され、大きな広場が形成されて花粉の影響も薄まっていった。
あと、剣圧というか、魔力を飛ばしている影響なのか、俺が剣を振るうとそれなりの風が発生して、花粉を吹き飛ばす効果があったのもラッキーだった。
「ふぅ……大分倒せたし、そろそろ良さそうだ。剣魔空斬もある程度わかったし……大変だけどラミアウネと戦うのも無駄じゃなかったね」
数分から十分程度、剣を振るい続けて魔力を飛ばす作業。
俺を中心に、半径十メートル以上の広場ができ上がっている……近くで倒れた木も、剣魔空斬で斬り飛ばしたし、切り株部分も足首までくらいの高さでほぼ均一に残っているくらい。
ラミアウネもそろそろ打ち止めらしく、最低十体以上はいたのが今では五、六体に減ったし、補充される気配はない……大体剣魔空斬を使い始めてから、五十体近く倒したと思うから当然と言えば当然か。
というか、それまでに倒したのと合わせると、百体近くいたって事になるのか……連携だけでなく、兵士さん達が思うように魔物の掃討が進められないわけだね。
ちなみに、剣魔空斬というのは魔力を剣身にまとわせて振るう事で、魔力を刃のように飛ばす事に対して、命名した。
憧れていた技なだけあって、格好つけた名称になったけど。
できれば、四文字の漢字にしたかったんだよね……最初は、剣斬とか空斬とか魔力斬にしようかと思ったけど、適当に空の字を入れてみた、結構お気に入りだ。
その剣魔空斬、最初に予想した通り射程と威力は流す魔力量によって変わる。
多く魔力を流せば流す程、威力というか切れ味も上がって遠くまで届くようになるのがわかった。
ただし、加減しようとしても一定以上の魔力を剣身に纏わせないと飛んで行かなくて、最低限三メートルくらいの距離、複数の木々をスパッと斬る威力にしないといけないみたいだ。
魔力量が多ければという前提付きだけど、使い方は簡単。
ただ持っている剣に次善の一手と同じ要領で魔力を流して纏わせ、その魔力を剣身から引き剥がすように振るうだけ。
通常の剣の振りとは少し違うんだけど、魔力を引き剥がす事で飛んで行って色々と斬れるってわけだね。
本来は剣筋を通すために剣の刃を相手に向けるのが当然なんだけど、剣魔空斬は腹部分を振るう……剣の基礎がしっかり身についている人は、逆に苦手かもしれない。
これがわかってからは、簡単に剣魔空斬を使う事ができるようになった。
それまでは、魔力量を調節しても飛んで行く時と行かない時があったから。
他にも剣を振るう速度なんかも関係しているみたいだけど、その辺りは今はいいか。
「さてと、ラミアウネも新しいのが来ないみたいだし、後片付けも考えなきゃね」
剣魔空斬で作った広場の外側には、木々やラミアウネの残骸が積み上がっている。
そのままにしても、兵士さん達が回収してくれると思うけど……数が多い。
場合によっては数日かかるような物量だ。
ラミアウネというより、斬った木のせいだけど。
「まぁそれよりも、足元の方が問題だからね」
俺の足下……大体二、三歩くらいの距離があるのは、発生した風で飛ばされたからだろうけど、とにかく動かなくなったチビラウネが堆く積まれている。
数を数える気はないし、気持ち悪いのでじっくり観察はしないけど、高さだとそこらの切り株どころか俺の膝くらいだ。
足の踏み場もないとはこの事だね、やったのは俺だけど。
森に入る前、エレノールさんから情報を聞いた時ラミアウネを倒して動かなくなったチビラウネに関しても、少し聞いている。
なんでも、元が毒である花粉と同じような成分? とかなため、そのまま放っておくと土が腐って植物に悪い影響が出るんだとか。
対処法は、植物の根が届かないような地中深くに埋めるか、水で流すか、火で焼くからしい。
穴を掘っている暇はないし、水で流そうにも水がない……持って来ているのは、俺一人分の飲み水くらいだから全く足りない。
なので、一番手っ取り早い手段は火で焼く事。
「このままだと、俺も身動き取れないし……いや、飛んで避けたり踏み潰してとかはできるけどね」
でも、回収を頼んだ兵士さん達でも、このチビラウネの残骸を見たら途方に暮れる可能性が高いからね。
だから、剣魔空斬を使うと決めた時、一緒に思いついた事を実行する段階だ。
まだ残っているラミアウネや、空気中に濃く漂っている花粉も全て一変に片づけられるはず。
というわけで、俺は空に向かって大きく手を振りながら、声を張り上げた。
「おーい、リーバー!!」
広場になって空がよく見えるようになると、近くを優雅に旋回しながら飛んでいるリーバーが確認できるようになっていた。
派手にやっているから、空でも俺の場所が簡単にわかるのは当然か。
とにかく、リーバーに空で待っていてもらうようにしたのは、正解だったね。
「ガァゥ!」
「よーしよし、こっちだー! 下まで降りなくていいから、木の高さより少し上まで降りて来てくれー!」
俺の声を聞き届けたか、手を振っているのに気付いたのか、リーバーはその場で滞空しながら高度を落とし、俺へと大きく鳴いた。
気付いてくれなかったら、木に登って呼びかけようかと思ったけど、大丈夫だったみたいだ。
「ガァ!」
遠目だからわかりづらいけど、おそらく頷いたっぽいリーバーは、俺のお願い通りゆっくりと硬化して、森の木々より少し高いくらいの位置で止まってくれた。
「それじゃ、そっちに飛び乗るからそのままで!」
「ガゥ!」
「よし……ん、っと!」
リーバーに待ってもらい、その場でジャンプ。
さすがに、一気に飛び乗るとリーバーへの負担が大きいので、無事な木のてっぺんに一度乗ってから、リーバーへと飛び移った――。
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