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森にいないはずの魔物を発見
しおりを挟む「ちょっと、周辺の温度が下がってきたかな? 木々の密集度がさらに増している気がするし、近付いているのは間違いないね」
体感でだけど、ほんの少しだけひんやりとした空気が流れているのを感じ始める。
とりあえずの目的地に近付いている証拠だ。
目指しているのは、森の端……東側だからセンテ側であり、森が途切れて地面が凍っている場所だ。
その辺りで、兵士さん達が何かの影を見たという怪しい目撃報告があったから、一応見てみようというわけだ。
まぁまだ解氷作業の手が回らず、完全に手付かずのその場所を見ておこうというのもあるけど。
森には北から入って南下し、中ほどかそれに近いくらいまで来た……シュリーガーラッテと戦った辺りだね。
そこから東に行って、さらに少し南下したら西に向かってヘルサルに抜ける、というのが今の所考えているルートだ。
途中で、エルサと出会った広場に寄ってみようかなと思ったけど、そういえばあれはセンテ側で、今は森じゃなくなった凍てついた大地の部分。
森に入ってすぐ、あの広場がどうのと思い出したけど、位置的に木々が今のように密集してしまわなくても、なくなっていたのを思い出したりした。
前にヘルサルに行った時、エルサと軽く話した気もするけど……忘れてたなぁ。
なんて考えつつ、目印用に時折木を斬り倒しながら、段々と冷えて来る森の中を進んだ――。
「ん? あれは……」
体感で一時間くらいだろうか、大分肌寒さを感じ始めた頃、見慣れない何かが木々の隙間から見えた。
かなり離れているけど。
一瞬、目撃報告のあった何かの影かと思ったけど、違う。
影なら黒いのを想像するけど、見えたのは真っ白な雪のような色をしていたから。
凍てついた地面が近付いて、寒さから雪が降ったり森の内部でも少しくらい氷があるのかな? と思ったけどそれも違った。
その白い何かは、動いていたから。
「あれも魔物、かな。見た事はないけど……フォレストウルフに似ているというか、形はそのままだね。一回り大きいけど」
ゆっくりと気付かれないように近付きつつ、観察してみる。
見る限りだと、四足歩行の獣で白くて長い毛を持っていた。
サーベルタイガーかと思う程、長い牙が左右に一本ずつ伸びているのが見えるけど、顔は精悍なフォレストウルフに比べて穏やかというか緩い感じ。
狼の魔物、というより犬に近いかもしれない……表情だけはね。
けど、いくら緩い顔っぽく見えても、口から伸びる鋭い牙が凶悪だし、足の先にある爪も長く鋭い。
フォレストウルフよりも体が大きいのも相俟って、危険な迫力を感じる。
「数が少ないね……二体か。でも、あんな魔物がいるなんて聞いていないけど……」
真っ白なフォレストウルフに似た魔物の事は、エレノールさんからは聞いていないし、この森にいる魔物としても今まで聞いた事がない。
もしかすると、レッタさんがセンテにけしかけた魔物の生き残りが、森の中にまだ潜んでいたとか?
いやでも、赤い光は復元された魔物、つまりレッタさんが魔力誘導で操りやすいようにした魔物を標的にしていた。
通常の魔法とは違ううえ、俺の意識で使ったわけじゃないからその辺りの加減をして、生き延びる魔物がいるとはあまり考えにくい。
「そういえば、どっかで聞いた覚えがあるような? どこだったかな……あぁ!」
記憶に引っかかっていたのを引っ張り出して、思い出した。
あれは確か、ブハギムノングで聞いたんだ。
確かシュネーウルフという、ブハギムノングより北にある他国の方、雪がよく降る寒い地域で見られる魔物だったはず。
白い毛が雪に溶け込んで発見が難しく、鋭い牙は金属の鎧をも貫くうえ、雪でも氷でも素早く動いて人に襲い掛かるとか……。
ちなみに、同じく鋭い爪は雪や氷の上を動くために使うだけで、意外と脆くてそれを使って襲われるてもあまり脅威じゃないとか。
一番はやっぱり、金属すら貫く長く鋭い牙らしいね。
「聞いた話と、見た目や特徴が一致しているけど……なんでこんなところに?」
もしかして、環境に合わせて魔物が変化するとかだろうか? そういう話は聞いた事がある。
例えばウルフなら、通常はセンテの南のような平原や草原にいるらしいけど、それが森に入って適応した事で、フォレストウルフになる。
ウルフは小回りの利く素早い動きで、平面の広い場所を使って敵を翻弄する。
フォレストウルフはウルフよりも走るのは遅いが、森の木々を使って敵を翻弄する……まぁ、オークや俺に向かって来たときもそうだし、何度も体験したからこれはよくわかっている。
ちなみにどちらが強いとかは、戦う場所次第ってとこだ。
そしてシュネーウルフは、ウルフが雪の降る寒い地域に適応して変化した魔物なんだろう。
でも、ヘルサル周辺は夜はちょっと肌寒いと感じる事くらいはあるけど、雪が降ったりはしない場所。
しかも森はさらに温かいため、雪や氷に適応した魔物が出る事なんてないはずなのになぁ。
「うん、まぁ、そうだよね。わかってる。俺のせいというか、地面が凍り付いているからだよね」
原因は、凍った地面か。
アイシクルアイネウムが発生する程なんだし、寒い地域に適応するような魔物に変化していてもおかしくない。
つまり、俺が発見したシュネーウルフは、元々この森にいたフォレストウルフが変化したって事だろう。
この場所にいるのは、森の東側で凍った地面に近いからと思われる。
ラミアウネに追われたとしても、気温的に涼しいというか寒い方に逃げているってわけだ……森の端に近いからね。
「ともあれ、魔物なんだから一応倒しておかないと。確か、できるだけ爪と牙は折らないように、だったかな?」
シュネーウルフの爪と牙は何かしらの素材になるらしく、討伐する際に折ったり傷付けたりするかによって、買い取り価格が変わるらしい。
だから、単体ならシュリーガーラッテやフォレストウルフと同じDランクの魔物だけど、腕が立つかどうかによって報酬が変動するとか。
単純に、駆除の意味での討伐依頼だったら、大きく報酬が変わる事はないけどね。
後他にも、その白い毛皮は冷気の遮断効果があるらしく、服など身に着ける物に重宝される素材になるとか。
だからできるだけ傷付けないように倒すと、さらに報酬アップってわけだ。
報酬を求めて討伐する際には注意が必要と聞いている。
まぁ今そこに気を付ける必要はないと思うけど、戦う以上はちょっと気にしてやってみたい、という俺の勝手な冒険心。
これが冒険心と言えるのかはわからないけど、条件付きで攻略するとおまけがもらえるゲームとか、日本にいる時割と好きだった。
「というわけで……どうしようかな?」
剣魔空斬で一刀両断、というのは毛皮が汚れてしまうので封印。
一番手っ取り早いのは、喉元に剣を突き刺すんだったっけ。
喉元という事は牙も近く正面なので、何度が高いらしいけど……次点として、うなじから突き刺す、首を切り落とすというのがある。
後者はやっぱり毛皮が汚れたり、斬り落として首が地面に落ちる時に牙が傷つく、折れると言った可能性もあるとか。
なら、狙うとしたら喉かうなじで、斬るではなく突くがいいという事だね。
気を遣ってしまうような戦いも、一応経験しておくべきかも……と思い、その方法を採用する事に決めた――。
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