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獅子亭で美味しい夕食

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「さすがに、もう冒険者さん達はいないか。その代わり、お客さんが溢れているけど」

 獅子亭に到着すると、今朝集まっていた森に入る冒険者さん達の集まりは既に解散されていた。
 講義はもう終わったんだろう。
 ただ、ちょうど夕食時を過ぎたあたりなのもあって、ずらりと並ぶ行列があった。
 さすが獅子亭……相変わらずの人気だ。

「行列のできる飲食店ってね。お邪魔しま……おっと」
「あらリクさん、おかえりなさい」

 裏口から獅子亭に入ると、食べ終わった食器を持ったカテリーネさん、マックスさんの料理の弟子になったルディさんの奥さんとぶつかりかける。
 ちょうど食器を片付ける所だったんだろう。
 とりあえず挨拶だけして、手が足りないなら手伝うかと忙しそうにするマリーさんに提案したんだけど「これ以上人手が増えても、あんまり意味ないよ」との事で、俺だけ奥の休憩部屋に押し込まれた。
 よくよく見てみると、いつの間にか戻って来ていたらしい、ルギネさん達リリーフラワーのメンバーや、ソフィーとフィネさんも働いていた。

 忙しいから雇った奥様方もちらほらいたようなので、確かに俺が加わると邪魔になるだけか、少し寂しいけど。
 獅子亭自体、大きい建物というわけでもないし、お客さんでごった返す中店員が増え過ぎても、皆動きづらくなるだけだからね。
 ちなみに、ヴェンツェルさんの姪であるカーリンさんや、調理補助の人もいたから人では足りているんだろう。

「そういえば、リリフラワーの皆どうするんだろう?」

 働いているところをちらっと見た感じ、ルギネさんだけでなくアンリさんとかも元気よく働いていた。
 どことなく、のんびりした雰囲気の奥に影のようなのがかすかに見えていた……ような気がすると今考えればそう感じるけど、これまで以上に明るい雰囲気を感じたから、もう大丈夫なんだろう。
 ルギネさん達と何を話したのか、帝国での事を全て話したのかはわからないけど、多分アンネさんの悩みは晴れたのかもしれない。
 それはともかく、俺が作るクランについての話がどうなるかが気になった。

 前に話した時には、クランに入る雰囲気のようには思えたけど、あれからメンバーで相談してどう結論を出したのか。
 まぁ、まだ王都にも戻れないから急いでいるわけじゃないけど。

「お待ちどうさま、リク」
「リク様、お疲れ様です」
「あぁ、ソフィー。フィネさんも」

 休憩部屋の椅子に座り、リリーフラワーの事をつらつらと考ていると、ソフィーとフィネさんが大量の料理が盛り付けられた大皿を複数持って部屋に入って来る。

「マックスさんから、私達も休憩にとな」
「ついでに、交代で食事とリク様のもあります」
「お、ありがたい。今日は特にお腹空いてたんだよね」

 以前なら、営業時間が終わってから皆で食事となる事が多かった獅子亭。
 だけど最近は、働く人も多くなったのもあって、交代で休憩する時に食事を済ませるというのも増えてきたらしい。
 それでも、一部の人や希望する人は仕事が終わってから、一緒に食べる事もあるみたいだけど。
 ともあれ、ソフィー達と一緒に持って来てもらった料理をいただく事にする。

 どれも作りたててで湯気を立てており、特に香草と一緒に焼かれて、マックスさん特製ソースのかかった大きめのお肉……ステーキは匂いも含めて空腹を刺激した。
 顔より大きなステーキは大味なんて事はなく、柔らかくてナイフで簡単に切り分けられる。
 焼き立てで、切った部分から肉汁がジュワーッとお皿に広がる様子がまたたまらない。

「……うん、美味しい! さすがマックスさん!」

 切った肉を口に入れ、咀嚼するごとに滲み出すうまみたっぷりの肉汁。
 ソースも美味しいし、付け合わせの野菜も同じく。
 ただ焼くだけではなく、手の込んだ仕込みというか下味がちゃんと付けられていて、柔らかい肉を生かしている気がする。

「結構、上等な肉な気がするけど……いいのかな?」

 俺と同じく、持ってきた料理を食べて舌鼓を打つソフィーやフィネさん。
 その二人を見ながらポツリと呟く。
 料理の腕だけでなく、肉の質としてもかなりいい物な気がするから、こうして食べさせてもらうのは悪い気がしてしまった……まぁそれだけ美味しいって事でもあるんだけどね。
 もちろん後でお金は払うつもりだけど、質のいい材料に腕のいい料理人となれば、それはもう高級料理と言って過言じゃないと思う。

 節約して清貧を心掛けている、とかでは全然ないけど、俺がこんなにいい物を食べてもいいのかとか、高い物を食べて贅沢していいのか、という気持ちにもなってしまう。
 こちらの世界に来るまでの名残、みたいなものなんだろうけど。
 なんてこぼしていたら……。

「リクはもっと贅沢をしてもいいとは思うが、まぁ気にしないでもいいだろう。私もこれだけの肉を食べるのはあまり機会はなかったが……」
「獅子亭の料理はどれも美味しいですし、貴族の方達が食べるものとそん色ないくらいです。リク様の気持ちは私もわかりますが、実は高い物という程でもないみたいですね」
「そうなんですか?」

 二人共、俺と同じような考えはあるみたいだけど、フィネさんが言うには高価な肉というわけでもないらしい。
 いい肉だというのは間違いないと思うんだけど……もしかしたら、料理をするマックスさん達の腕がいいから、そう感じるとかだろうか?

「今、センテもヘルサルも、肉の価格が下がっているみたいだな。質がいい物なのは間違いないが、数日食べられる金額で、以前の一日にも満たないくらいと聞いたな」
「冒険者もそうですが、街の人達も喜んでいましたね。ただその代わりに、肉以外の物は一部高くなっているようなので……総じて言えば、そう変わりないようですが。この肉と一緒に供されている野菜の方が高いみたいですね」
「肉が安く手野菜が高いって事は……まぁ、ここ最近のセンテとヘルサル周りでの事が原因、かな?」
「そのようだな」

 肉は魔物の肉を食べる事が多く、最初知った時は戸惑ったけど、今では慣れて気にせず食べている。
 おそらく、今食べているステーキ肉も魔物だろう。
 そして、ここ最近のセンテとヘルサルに起こっていた事……主にセンテに対してだけど、魔物が大量に押し寄せていた事から、その魔物が食糧になったってわけか。
 さらに森にいる魔物やら、センテからヘルサルへ余剰分の輸送も行われていると考えれば、肉の価格が安くなるのも当然と言えば当然。

 ただ、王軍なども来ているので消費が多いため、野菜などは高くなってしまっているってところだろう。
 一部の植物系魔物を食糧にする事はあるみたいだけど、基本的には畑で育てて収穫するものだから、短期間で大量に供給する事ができないからね。

「野菜が高くなったら、困る人もいそうだけど……」

 いくら肉が美味しくても、野菜も食べないと栄養がね。
 家族の食卓を預かる主婦の人とか、栄養バランスを考えて料理している人が困ってそうだ。
 野菜が好きな人とかもいるだろうし――。


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