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魔力吸収は知られていなかった

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「ちょっと待って下さい。レムレースは魔物の魔力が集まって発生する魔物です。そのレムレースが、魔力を吸収する、と?」
「……そうなると、絶対にレムレースは倒せないのでは……いえ、リク様が倒したと仰るのですし、実際にセンテでは倒されたようですけれど」

 二人共俺と同じように、魔力吸収での永久機関みたいな状況に思い当たったみたいだ。
 この情報は本当に知らなかったのか……結構重要な情報になりそうだ。

「そうですね……前回のセンテでの時と、今回では倒し方が違うんですが……」

 とりあえず、レムレースを倒した方法を前回と今回でそれぞれヤンさん達に説明する。
 白い剣、その特性である魔力放出と魔力吸収に、そんな武器があり得るのかと二人は驚いていたけど、ともかくそれでヒュドラーも含めて倒しているんだから、理解はともかく納得はしてくれた。
 そして、今回は魔力弾で魔力吸収ができなくなって倒せた事なども伝える。
 ついでに、予想だけど魔力吸収できなくなった理由もだね。

「つまり、細かく複数に、どの部分から再生するか……という状況であれば、魔力吸収は起こらないと?」
「多分そうなんじゃないかと。予想なので、断定はできませんけど」
「そうですか……ありがとうございます、リクさん。レムレースは目撃情報はあれど、詳細は不明な事が多いんです。おかげで、特徴に関する情報が得られました」
「ただギルドマスター、その情報はさらにレムレースの討伐不可認定を後押しするものではありますね」
「頭の痛い問題ですよ。まぁ幸いレムレースはここ最近では名を聞く機会が増えていますが、本来かなり希少で珍しい魔物です。それこそ、発生も含めて目撃されるのはヒュドラーより少ないですから」

 深刻な表情で話すヤンさんとエレノールさん。
 だけど、そもそもレムレース自体がそうそう発生する魔物ではなく、ヒュドラーよりさらに珍しい魔物だという事が、二人にとっては明るい材料になったみたいだ。
 俺はそんな珍しい魔物を、短期間で何体も倒しているんだけど……まぁ今更か。
 珍しい魔物どころか、神様とも一緒にいるくらいだし。

「しかしそうですか、魔力吸収。リクさん、どれくらいの魔力を吸収されるかはわかりますか?」
「そうですね……感覚的な話になりますけど」

 ヤンさんの質問に、レムレース戦で感じた事を話す。
 大体どれくらいの魔力が吸収されるかとかだけど、数値化されていないのでほぼ俺の感覚に寄った話になるのは仕方ない。
 あと、話していて気付いたけど、魔力が吸収される量というか勢いは回を追うごとに、つまり戦いが後になる程に増していたような気がした。
 それに関しては……。

「おそらくですが、リクさんの話通りならレムレースは周囲全てから魔力を吸収している物と思われます。戦闘が続く中で、周囲の環境も変わったためリクさんから多めに魔力を吸収するようになったのではないかと」
「……広い範囲で、木々が全てなくなったという話は驚きですが」
「ははは、まぁレムレースが周囲に関係なくひたすら魔法を使ってきましたからね。でも成る程、そういう事ですか」

 エレノールさんに苦笑して、俺の剣魔空斬でも木を斬ったとかはとりあえず誤魔化しておく。
 荒野になったのは、あくまでレムレースが原因という事で……レムレースがいなければ、あんな激しい戦いにはならなかったわけだし、間違いじゃないと思っておこう。
 ともあれ、魔力吸収に関しては周囲にどれだけ魔力を持つ存在があるか、に関わっていると言われるとそうなのかと納得。
 最初、レムレースが完全に発生する前は、周囲に密集した木々があったけど、魔法によって段々と減って来ていた。

 最終的に、魔力を吸収できる相手が俺くらいしかなくなっていたから、特に俺からは復活のための魔力を多く吸収する必要がったんだろう。
 吸収する魔力総量が一定だとして、それを俺一人で賄うしかないのであれば、抜き取られる魔力量も多くなってしかるべきだからね。
 他にいるとすれば、空を飛んで待機していたリーバーくらいだけど、音を嫌って高度を上げていたから多くは吸収できなかっただろうし。

「リクさんの話が本当なら、人間ではどうする事もできないでしょうね。魔法を掻い潜っても、いずれ魔力を吸収されてしまう……」

 強力な魔法によって、近付く人間はほとんどがやられてしまう可能性が高い。
 そのうえ、なんとかダメージを与えてレムレースを削ったとしても、魔力吸収されてしまう。
 吸い取られる魔力は、その時点で残っている人の数や周囲の状況にもよるけど、数十人の魔力を枯渇させてしまう。
 結局のところ、魔力吸収できない状況にすればという可能性があるとしても、人にはそうする事や一撃でというのができないのならば、討伐は不可能だというわけだね。

「はい。ですので、レムレース対策の基本である発見したらとにかく逃げる、が正解だと思います」
「これまでと同じ対処をというわけですね。仕方ありません」

 白い剣が他にあるわけじゃないし、あれは多分俺以外の人が使うと魔力吸収モードで、流れて来る魔力が多過ぎて危険だ。
 魔力放出モードなんて、それまでの黒い剣だった時よりも消費が激しいから言わずもがな……ルギネさんが試しに抜いた時よりも酷い事になるのが目に見えている。
 自惚れるつもりはないけど、実質的に俺以外には討伐はできないって事になる。
 人でなければ、エルサでも可能だろうけどね……ユノとロジーナはなら、なんとかできそうな気がしなくもないけど、人として数えていいのかは微妙だ。

「さっきも言った通り、もう発生しないとは思いますけど……」
「わかりました、森に入る予定の冒険者達に全員に周知させ、何か異変があれば報告させます」
「はい、お願いします。もしもの場合、レムレースが発生するような兆候……今回の場合だと黒い影とか、俺が追いかけた黒いもやですけど。それらが発見された場合には、対処します」
「ありがたい。その時は、リクさんを頼りにさせて頂きます」

 俺以外にできないのなら、もしもの際は俺がなんとかするしかない。
 とはいえ、レムレースが発生する可能性はほぼないと言っていいだろうから、大丈夫だろう。
 フラグじゃなくてね。
 何せ、レムレースが発生するのに必要なだけの魔物の魔力がもうないんだから。

 多分、森に残っている魔物を全て倒したとしても、足りないだろうし。
 そう考えながら、念のためこちらにいる間は注意しておこうと思いつつ、ヤンさん達に挨拶して部屋を退室した。
 ……今度森に入る時は、使うかどうかに関わらず白い剣は絶対持って行こうと考えながら――。


 ――冒険者ギルドを出た頃には、もう日が落ちて完全に暗くなっていた。
 空を見上げながら、センテに戻る……前に獅子亭に寄る事にする。

「お腹も空いたからね……」

 どうせだからマックスさんの料理を食べて帰るのもいいだろう、というか元々そうする予定だったし。
 空腹でお腹の虫が鳴りそうな感覚に耐えながら、獅子亭へと向かった――。


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