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冒険者ギルドでヤンさんに報告
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リーバーに乗ってヘルサルに戻り、冒険者ギルドの奥にあるヤンさんが使っている部屋に入る。
中では、ヤンさんだけでなくエレノールさんもいて、何やら書類らしきものとにらめっこしていた……仕事をしていたんだろうね。
「リクさん、戻りましたか。森の様子はどうでした?」
ヤンさん達に迎えられ、エレノールさんがお茶の用意をしてくれつつ、椅子に座った俺に問いかけられる。
「森に入る前にエレノールさんから聞いていた通り、ラミアウネが大量にいました。他にも魔物がいましたけど……数はそれなりですかね? シュネーウルフも見かけましたけど」
「シュネーウルフ、ですか? 本来あの森にはいないはずの魔物ですが……」
「見つけた場所が森の端になった、凍てついた地面に近い場所でしたから、そこに適応したのかなって考えています。見つけた場所も、かなり寒くなっていましたし」
「成る程……シュネーウルフは寒い地域に多くみられる魔物ですね。リクさんの言う通り、ウルフやフォレストウルフが環境に適応する中で変異したと考えられます」
「はい」
聞いた話では、シュネーウルフはヘルサル近くの森どころかこの国ではほとんど見られない、もしくはほぼいないだろうという事だったけど、今のセンテ周辺は条件を満たしているからね。
凍った地面が広がる場所には、新しくアイシクルアイネウムのような魔物が発生しているけど、それ以外だと魔物は一度殲滅している。
けど、森の中に元々いたフォレストウルフなり、平原などから迷い込んだウルフなどが、森の端で寒い環境に適応するためシュネーウルフになった、という事だろう。
まぁシュネーウルフと戦う時に考えていた通りだし、ヤンさんやエレノールさんもそれで頷いているから間違いない。
ちょっと適応に関して早い気もするけど、魔物の変化がどれくらいの期間でなるのかはよく知らないし、そういうものと言われればそうなんだろう。
ちなみに、ヤンさんはマックスさん達と冒険者として活動していた時に、別の国でシュネーウルフと戦った事があるのに加え、ギルドマスターというかギルドの職員であれば、大体の人は知っている魔物だとか。
エレノールさんもそうだけど、ギルド職員には魔物に関する知識もある程度求められるみたいだ……その魔物を討伐する依頼を扱っているんだから、当然と言えば当然か。
その他シュネーウルフだけでなく、ラミアウネやオーク、フォレストウルフやシュリーガーラッテの話を伝える。
ヤンさんもエレノールさんも、ここまではラミアウネの数の多さに驚いていたから、あれだけいるとまでは思っていなかったらしい。
森を踏破したわけでもないので、他にもいるだろうから森に入る冒険者さん達には、注意すると請け負ってくれた。
それから……。
「あと、多分もう発生しないとは思うんですが……」
声をワントーン落とし、ちょっとだけ真面目な雰囲気を醸し出す。
レムレースの話をするためだ。
戦ったレムレースが、また発生する、もしくは他にいるとは思えないし、今回は特殊な状況で偶然だろうけど、一応報告しておかないとね。
「森へ行く前にエレノールさんが、王軍の兵士さん達に聞き取りをした中で黒い影を見た、という話があったと思います」
「聞いています」
「リク様が、何か見つけたのですか?」
神妙に頷く、ヤンさんとエレノールさん。
「結果から言えば、見つけました。レムレースです」
「レムレース!?」
「そんな……!」
レムレースと言う言葉に、驚きが隠せない二人。
まぁ当然か……ヒュドラー戦でもいたけど、本当なら森も含めて屋外にいるような魔物じゃない。
それに討伐不可な事から、発生した場所付近はレムレースがどこかへ行って、安全が確認できるまで全ての人間を退避させるなり、放棄するなりしなきゃいけないくらいだし。
「まぁ、なんとか倒せたんですけどね。レムレースが発生する瞬間、みたいなのが見れて貴重な体験ができました」
「確かに貴重でしょうね。レムレースが発生して、目の前で見たのに生きて帰れる者は私はリクさんしか知りません」
近くに人がいれば、問答無用で襲い掛かって来るだろうから、確かにあれだけの範囲を荒野にしてしまうレムレースを見て、生還できるのは少数だろう。
頑張れば、俺以外にも帰って来れる人はいるんじゃないかな? とは思うけどね。
「ほ、本当に倒せたのでしょうか? レムレースは一部でも残っていればそこから復活する、と伝え聞いております。それに、討伐不可のとされる魔物ですし……」
「エレノールさんには、センテでの戦いはヒュドラーと共にレムレースもいました。それをリクさんが倒しているのは、私だけでなく多くの者が見ています。リクさんが倒した、と言うのならばそれを疑う余地はありません」
エレノールさんは半信半疑だったみたいだけど、俺の言葉はヤンさんが保証してくれた。
信頼されているのもあるだろうけど、実際に倒すところを色んな人に見られていたのが大きいか。
「単独でヒュドラーを、こともなげに倒したのは私も目の前で見ていますし……レムレースを偶然発見した。でも倒した。とリクさんから言われても私は驚きよりも納得します。まぁ、レムレースが発生さいたという部分にはやはり驚いてしまいますが」
「そ、そうなのですね。申し訳ありません、リク様。疑うような事を……」
「いえ、気にしていません。実際、今回改めてレムレースと戦って、討伐不可と言われる所以がわかりましたから」
ヤンさんの前で倒したヒュドラーも、以前い倒したレムレースも、両方白い剣の魔力吸収が優秀過ぎたから、簡単に倒せただけの事。
やられたりはしないとしても、倒すのはかなり苦労したからね、エレノールさんが疑ってしまうのもと無理はない。
というより、魔力弾がなかったらもっと厳しい戦いになっていただろうし、そもそも倒せずに逃げるしかなった可能性だってあるわけで。
「討伐不可と言われる所以ですか……強力な魔法を、連続や同時の使用。そして魔力がある限りの再生によるものですね」
「そうなんですけど……あれ? もしかしてですけど、魔力吸収って話は……」
「魔力吸収、ですか? レムレースがそんな事を?」
ヤンさんが確認するように呟くレムレースの特徴。
だけどその中に、今回俺がされた魔力吸収がなかったのが気になったんだけど……ヤンさんとエレノールさんの反応を見る限り、知らなかったみたいだ。
「えーと、はい。感覚的にですけど、俺も含めた周囲から魔力吸収していました。おかげで、倒すのにかなり苦労しました」
あれは永久機関みたいなものだった。
ダメージや、レムレース自身による魔法使用で魔力を消費しても、音での魔力吸収ですぐに復活してしまう。
魔力その物でできているレムレースだから、吸収する事で魔力が尽きなければ、無限に再生するし、どれだけダメージを与えても無駄になるって事だ。
倒す手段としては魔力吸収する猶予もなく一撃で倒す、もしくは魔力弾を当てた時のように、魔力吸収ができない状況にするか、のどちらかだと戦った感覚で思う。
リーバーと話して予想した、魔力吸収できない状況というのが当たっていればだけども――。
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