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大食いアマリーラさん

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「そうだね……センテも大分復興してきたというか、商魂たくましい人達が、限られた物資でも商売を再開させているから、元には戻って来ているけど。でも、やっぱり慣れ親しんだヘルサルを見ると安心するよ」

 センテも、かなり平常に近い状態になって来ているけど、隔離結界に包まれているままだし、結界の外はまだまだ氷の大地が広がっているから、いつもという雰囲気にはまだまだ遠い。
 それに、やっぱりモニカさんにとっては育ったヘルサルの方が感慨深いだろうからね。
 モニカさんと談笑しながら、獅子亭に到着。

 営業開始直前なので、外にはずらりと常連さんも含めたお客さん達が並んでいたけど、俺達は裏口から建物の中へ。
 そして、中の様子を見て絶句した。

「もっと入るぞ! まだまだ持ってきてくれ!」
「おう、満足するまでたらふく食え!」
「はぁ……アマリーラさん、どれだけ食べるんですかまったくぅ……」

 獅子亭の中では、がつがつと肉にかぶりつき、スープで口の中の物を流し込むアマリーラさん。
 そして、次々と料理を作って提供するマックスさん達や、アマリーラさんのついているテーブルに調理の終わった物を運ぶマリーさん達が忙しく動き回っていた。
 すぐ近くの椅子に座り、溜め息を吐いているリネルトさんもいるけど……呆れているようだ。
 アマリーラさんのテーブルには、大量に積み重なったお皿があるのが見える。

 全部、食べ終わった物だろう……見る角度によっては、まだ食べているアマリーラさんの姿を隠す程。
 積み重なったお皿、一人分どころか十人分以上はあるみたいだけど……。

「えーっと……?」
「これは一体……ちょっと父さん、どうなってるの?」
「おぉ、モニカか。久し振りという程ではないが、顔を見せてくれるのは嬉しいぞ。そうだ、昼に食べるのは奥に置いてあるから、持っていけ!」
「え、えぇ、ありがとう。ってそうじゃなくて!」

 など、忙しそうにするマックスさんを、モニカさんが捕まえて尋問……もとい、この状況になった理由を聞き出した。
 なんでも、俺達と別れて先に獅子亭に来たアマリーラさんとリネルトさん。
 フィリーナ達は奥の休憩室の方にいるらしいけど、それはともかく……営業開始前の仕込みの匂いにつられてお腹が鳴ったらしい。
 お腹が減っている人を見ると、腹いっぱいに食べさせたくなるのが料理人の性、と主張したマックスさんが張り切って食べさせ始めたのが始まりらしい。

 獅子亭の料理が美味しいのもあって、小柄な体には見合わない、どこに入っているのか吸い込まれるように食べ続けるアマリーラさんに、マリーさんも含めて面白くなってしまい、どれだけ食べれば限界かを試してみようとなった……というわけらしい。
 なんで急に、大食いイベントが発生しているのか。
 他に食べている人がいないから、対決とかではないけど……よく見たら、リネルトさんの口の近くが少し汚れているので、リネルトさん達も食べてはいたみたいだ。

「あ、リク様! アマリーラさんを止めて下さいよぉ」
「そう言われましても……あの勢いはちょっと止められそうにないですね……」

 アマリーラさんの事を、様ではなくさん付けで呼ぶようになったリネルトさんが、入って来ていた俺を見つけて泣きつく。
 とはいえ、運ばれてくる料理を一心不乱に食べ続けるアマリーラさんを見ていると、止められる気はしない。
 止めるとしたら、料理を提供しているマックスさん達しかいないと思う。

「もう、アマリーラさん……食べ過ぎなんですよぉ」
「そ、そうみたいですね。あそこにあるお皿は、全部アマリーラさんが?」
「はいぃ。私みたいに、胃が複数あるわけでもないのに……」

 え、リネルトさん、胃が複数あるの? という疑問が湧く。
 確かにリネルトさんは、尻尾や耳から牛っぽい感じがするし、動物としての牛は四つの胃を持つけど……といううかあれって、反芻のためであって大食いのためってわけじゃないはず。
 聞いてみると、獣人はその特性によって体のつくりが少しだけ人間と違うとかなんとか……見た目だけでなく、内部も違いがあるみたいだ。
 胃の数が違うっていうのは少しだけじゃないとは思うけど、リネルトさんが些細な違いと思っているのならそれでいいかな。

 ちなみにそのリネルトさんだけど、女性だけでなく男性と比べても結構大柄な体でも、小食らしい。
 小柄なアマリーラさんが大量に食べているのと比べると、逆じゃないかという気がしてしまう。
 まぁ、いくら大柄だとしても、アマリーラさんの食べている量をリネルトさんが食べても、不思議な光景に見えてしまうだろうけど。
 獅子亭の料理は、一皿でも他のお店より量が多いくらいだし。

「はぁ……とりあえず収まるまで奥で待っておきましょ、リクさん」
「うん、そうだね」
「あ、私も行きますぅ」

 とりあえず、アマリーラさんは止まりそうにないので、満足するまで待つとして……モニカさんやリネルトさんと一緒に、奥の休憩室に行く事にした。
 そちらに、マックスさんが作ってくれた俺達のお弁当もあるみたいだし。
 休憩室には、フィリーナとカイツさんがちょっと疲れた顔をして椅子に座って待っていた。
 アマリーラさんの大食いに、最初は少しだけ付き合っていたかららしい。

 食べ過ぎで体が重いとか。
 森に入って魔物と戦う予定なのに……しかも、俺達もそうだけどフィリーナ達も、それこそアマリーラさんやリネルトさんも朝食は済ませてきているっていうのになぁ。
 獅子亭の料理が美味しい事と、アマリーラさんに巻き込まれたからっぽいけど。
 ここにユノやエルサがいたら、張り合っていそうで大変だっただろうなと思いつつ、少しの間だけ話をしつつ待つ事になった。

「お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありません。リク様」
「いやまぁ、獅子亭の料理は美味しいですからね。いっぱい食べたくなる気持ちもわかります」

 しばらく……体感で二十分程だろうか、満腹になって少しポッコリしたお腹のアマリーラさんを連れて、獅子亭を出る。
 あれだけ食べたのに、申し訳なさそうに尻尾と耳を垂らしているアマリーラさんは、食べ過ぎで動けないなんて事はなさそうなのは、驚きだ。

「まったくアマリーラさんは……仕えるべきリク様をお待たせするのはどうかと思いますよぉ?」
「リネルトの言う通りだな。リク様、お待たせしてしまった仕置きは、いかようにも……」
「いやいや、お仕置きとかしませんから。急いでいるわけでもないですし、あれくらいなら気にしていませんよ……」

 注意するリネルトさんに、反省するアマリーラさん。
 別に急いで行動しなきゃいけないという程、まだ時間に追われていないので、待つ事は問題ないからお仕置きなんてする気はない。
 まぁ、大量に食材を消費した獅子亭は、営業開始してからが大変だろうけど……追加の仕入れとかが。
 今日はルギネさん達も、森に入る予定でソフィー達と一緒に門へ先に行っているみたいだし、獅子亭の人手が少なくなっているからね――。


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