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断念できないお弁当とクランのお話

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「でしょ? 特に今回みたいに遠征じゃなくて、近場でその日のうちに帰るくらいの場合とか。冒険者さん達に喜んでもらえると思うんだ」

 前向きそうなモニカさんの答えに、嬉しくなって口早に伝える。
 獅子亭でやり始めてすぐにどうこうなる、というわけではないし、他の飲食店でもお弁当はある。
 でも味の質というのがあまり深く考えられていないというか……美味しいのもあるんだけど、やっぱり質より量とか、お腹が膨れればそれでいいというのも多いからね。

 そこで、少しでも質のいい物を求めたい、というただの食欲任せの考えだったりする。
 結局保管できる物じゃないから、数日以上の移動とかには向かないんだけどね……良くても、その日の夜くらいかな? 翌日の朝は、物によるってところか。

「マックスさんは手が足らないって言っていたし、現状を考えればそうなんだけどさ。でも、ヘルサルには農園もあるし、日常的に多くの人が街の外に出ているでしょ? こうしたお弁当を作って販売する事で、街に戻ってどこかで食事する必要がなくなって、むしろ獅子亭のお昼の混雑は少し改善すると思うんだ」
「確かにそうね。こうした物は他でも売っているけど、どうせすぐ戻れる場所に街があるんだから、皆戻ってどこかで食事をしているわ。それこそ、獅子亭にもそんなお客さんが多くいるのよね。でも、それを減らせるのだとしたら、父さんが言っているような手が足りないなんて事もなくなるのかもしれないわね」
「まぁ、一概に必ずそうなるとは言えないんだけどね……前もって作っておく必要があるし、それこそ朝の仕込みをより多くして大量に作る必要があるから」

 改めて考えて、昼の混雑は解消されたとしても、朝の大変さは増えてしまう。
 そこがまぁ、マックスさんにとって一番手が足りないと引っかかる部分だったんだけどね。
 お昼のためのお弁当だから、朝早くに作っておかないといけないから。
 ……夕食のためのお弁当というのでもいいんだけど、その場合は夕食後は日も落ちて街に戻る人が多くなるから、必要とする人が少なくなって数が売れなくなってしまうし。

「うーん、今すぐ獅子亭でというのはやっぱり難しそうね。父さんや母さんに話しても、やりたいと思ってくれるだろうけど、結局リクさんが言った通り……」
「手が足りない、で断念しちゃうかぁ。うーん、難しいなぁ」

 俺自身商売の経験なんてないし、どうすれば実現可能なのかの妙案とかが浮かぶわけじゃない。
 売れると予想できるから必ずしも実現できるとは限らない、というのくらいはなんとなくわかるけどね。
 ちなみにカイツさんは商売的な話には興味がないのか、俺とモニカさんの話には加わらず、食べ終わった後は木に手を当てて何やら笑っている。
 木と対話をしているように見えるけど……まぁカイツさんが退屈していないのなら、気にしないでおこう。

「……そうね、私が想定する限りでは、よっぽどの事がない限り成功すると思う。利益が出るのは間違いないでしょうね」

 獅子亭で、マリーさんと一緒に会計というか、お店の経理全般もある程度やっていたモニカさんにそう言われると、心強い。

「父さん達の店、獅子亭でできないのなら私達がやっちゃうっていうのはどう、リクさん?」
「俺達が? でも、モニカさんは料理ができるけど、俺はほとんど……」

 料理ができない、というわけじゃないけど……切って焼く、煮る、くらいしかできないから、美味しい料理なんて俺が提供できるとは思えない。
 日本では一人だったけど、その時もほとんど外食か総菜を買って来る事が多かったからなぁ。
 こちらに来て、獅子亭で働いていたから少しくらいは上達していると思いたいけど……マックスさんの料理するところも見ていたし。
 それでも、確実に売れると言える程の料理なんて……。

「違うわよ。私やリクさんが作るっている話じゃないわ。そもそも、そんな余裕もないでしょ?」
「まぁ、確かに」

 俺達が調理を担当するとなれば、それこそ冒険者としてとか、他で何かをするような時間的余裕がなくなる。
 まぁ、お弁当専門で朝作って売り、その後に何かをとはできるかもしれないけど、それだって日をまたぐような活動はできなくなるからね。

「だから、誰か料理ができる人を使うの。ちょうど、リクさんはクランを作るでしょ? そこで、クランに所属する人達に安く提供すれば……」
「絶対に売れること間違いなし……って事だね。もちろん、今食べた物のようにちゃんと美味しいものを作れれば、だけど」
「そうよ。クランの事は、リクさんが勧められるまで私はよく知らなかったけど、あれから調べてみたの」
「それは俺も一緒だったからね、よく知っているよ」

 冒険者の人や、ギルドの職員さんなど、ちょっとした雑談などの合間にクランについての話を聞いて、色々と調べるなんて事もしていた。
 マティルデさんに聞けば、喜んで教えてくれるだろうけど……今俺達がいるのは王都じゃないからね。
 クランは複数の冒険者パーティをまとめた物で、上限人数は特になし。
 冒険者ギルドから認められたクランには、優先的に依頼が斡旋される……達成率が低ければ、公認されなくなるなどの問題はあるけど、信頼されている証として指名依頼も含めて報酬の多い依頼を受けられる可能性が高くなる。

 その以来の報酬から、クランは仲介料を取って運営するんだけど、その際に差し引く仲介料が高ければ、クランメンバーに嫌われて抜ける人が多くなり、立ち行かなくなるらしい。
 そりゃそうだよね、真面目に依頼を達成したのにクランに所属していた方が、報酬が少なくなるなんて不満しか出ないだろうし。
 ただ、クランに所属していれば他のパーティの協力なども得られるため、依頼を達成するための情報交換も含めて、達成率を上げる事ができるし、ランクを上げるのにも有利だという利点ももちろんある。
 最初は、CからDランクの集まりだったクランが、数年で全員がAからBランクになったという話もあるらしい。

 ともかく、所属員にそうした利益を与えつつ、クランは所属したメンバーに依頼を割り振るのも役目だ。
 要は、運営者は基本的に冒険者ギルドと冒険者の間に立つ、調整役ってわけだね。
 他にも所属員同士で訓練をしたりとか、利点は多いみたいだ。
 けどもちろん、人が多く集まれば人間関係とかの問題もあるわけで……他にも色々あるみたいだけど、まぁその話は今はいいかな。

「クランは基本的に、冒険者ギルドだけでは管理できない冒険者の多くを、自分たちで管理する組織と考えていいわ。けど、それは依頼を達成するためであって、所属した人達は基本的に自分達の事は自分達で管理するみたいね」
「だね。宿とかはまぁ、拠点にする場所でクラン専用の建物とかで、寝泊まりくらいはできるようにするみたいだけど……」

 冒険者として生活するうえで、一番お金がかかるのは武具などの装備だけど、それ以外にもお金がかかる要因として宿代がある。
 それを、クランの建物に住まわせる事で節約できるのも利点だね。
 まぁ強制じゃないから、嫌な人は自分で宿を取ったりもするみたいだけど――。


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